「乗って残そう」のパネルを掲げた前で、記者の質問に答える両備ホールディングスの小嶋光信代表兼CEO(筆者撮影)

2月8日に緊急記者会見を開き、全バス路線の約40%にあたる31路線の廃止届け出を発表した両備グループ(両備バス・岡電バス)は3月5日、その後の経過報告も含めた緊急提言を行う記者会見を開いた。

今回の問題は、両備グループの幹線バス路線である「西大寺線」に競合する形で、低価格を売りとする他社が参入を申請し、認可されることになったのが発端だ。両備グループは、この申請が認められると大幅な減収が見込まれ、同線の黒字で支えていた赤字路線が維持できなくなるとして、地域公共交通維持に関する問題提起という意味合いで、不採算路線の廃止を届け出た。

関係者による協議の場設置へ

路線廃止届け出を発表した2月の会見への反響は大きく、同月13日には石井啓一国土交通大臣が、国も関与してこの問題に対応するとの見解を発表した。さらに22日には、衆議院予算委員会での質疑で、安倍晋三首相が石井大臣の発言を引用した答弁をしたことから、この流れは決定づけられた。

この件について、2月14日に東洋経済オンラインで公開した拙文(「両備・岡電『赤字バス4割廃止』届け出の真意」)では、末尾にて次の一文を記した。

「申請取り下げに向かう方策について、(両備グループ代表の)小嶋CEOが主張するとおり、関係者で話し合う場を設けることが望ましいと思う」

この話し合いの場を、国も関与して今後設ける方向になったのは、大きな前進であろう。今回の記者会見でも、小嶋光信CEOはようやく岡山でも話し合いの場が設けられることになったと安堵の表情を浮かべていた。

しかし、今のところその話し合いがいつ始まるか、メンバーがどうなるかといったことは決まっておらず、まして肝心の議論はその先になるため、現段階で正確な観測はできない。とはいえ、最大の問題点はクリアされる見込みとなったわけで、今後の進展が期待される。


問題提起の発端となった、両備バス発祥の路線であり赤字路線を支える幹線である西大寺線の路線バス(筆者撮影)

この議論を進めるうえでは、前提として今回の問題の発端となった、両備グループの路線と競合する八晃運輸「めぐりん」の郊外線が認可された経緯を知る必要がある。そのために、両備グループは中国運輸局に対し、認可の経緯について開示請求をしたといい、回答期限は3月19日となっている。

昨夏までの前局長時代には認可しない方針だったのが、局長交代と国土交通省の本省人事異動により、一転して認可される方向になった理由がいかに説明されるかが焦点となろう。

多くの反響があった廃止届け出だが、賛否両論があるものの、支持する意見が圧倒的に多かったという。同社ホームページで公開されている代表メッセージに対しては、6800を超える「いいね!」が記録されていることからも、そのことが裏付けられよう。

今回の廃止届け出は路線バスの廃止が目的ではなく、問題提起のための手段だ。そのため、話し合いの場が持たれることになった今となっては申請の取り下げも考えられるが、問題が解決しないまま取り下げては事態の改善を促せなくなることから、現時点で廃止申請は取り下げない方針だ。

ただし、利用者に迷惑をかけないよう、路線によって廃止の期日が2018年9月1日と2019年4月1日の2つに分かれているのを、すべて2019年4月1日に統一するという。これは、2019年3月31日までの全路線運行を確定させることで、今年4月からの新学期・新年度に安心して1年定期券を購入できるようにすることが狙いだ。

そのうえで、話し合いの場で一定のメドがついたときには、廃止届けを取り下げるつもりであり、数カ月でメドをつけたいとの見解も表明された。

岡山だけの問題ではない

両備バスと岡電バスによる廃止届け出のその後の動きについては以上だが、一定のメドがついて無事に取り下げとなったとしても、そこがゴールではない。

両備グループの小嶋CEOは、今回の件は岡山ローカルの問題ではなく、放置すると全国の公共交通網がズタズタになる可能性があるという点で、強い危機感をもっている。2002年改正の道路運送法は、第六条(許可基準)で申請事業者に対する基準を定めているが、新たな事業者の参入によって競合が生じる他社との関係については一切触れていない。これが、今回問題提起をすることになった最大の要因である。

2002年改正以前の旧法では、申請に対しては地域別に認可をして、競合が生まれるところについては協議の場を設けることで対応していた。その旧法の成り立ちと、現法の成り立ちを共に知る現役経営者が少なくなっていることから、小嶋CEOは現役のうちにこの問題に一定のメドを立てる必要を感じているという。

そのために小嶋CEOは、今回の問題提起を契機として、利用者の増加が見込める都市部については現行法のままとしたうえで、人口減とモータリゼーションによる利用者減が起きている地方については、道路運送法の次の各項も加味した判断がされるよう法改正が必要であるとしている。

第一条(目的)
…輸送の安全を確保し、道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。
第九条(一般乗合旅客自動車運送事業の運賃及び料金)
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない。
第三十条(公衆の利便を阻害する行為の禁止等)
2 一般旅客自動車運送事業者は、一般旅客自動車運送事業の健全な発達を阻害する結果を生ずるような競争をしてはならない。

この実現のために、超党派の議員が集まって現行法の問題点を検討し、法改正につながる動きが必要としている。

全国的な動きに発展するか

また、公共交通網の維持のために、バスに限らず鉄軌道から海事までも含めた総合的見地から判断することができる専門官の養成と専門局の設立が必要としている。これによってそれぞれの地域に最適な公共交通網を構築し、自家用車への過度の依存から脱却することで公共交通網を維持するとともに、自家用車利用から公共交通利用へのシフトも図りたいという。

ここで気になるのは自動運転車の普及であろうが、小嶋CEOとしては導入が容易な専用道と、導入のハードルが高いと思われる市街地では実際の導入時期に差が付くであろうと予想し、その導入時期までは現状の延長線上で公共交通を存続させる必要があるとの見解を披露した。

公共交通網は、一度なくしてしまうと再構築することが容易でない。その点でも、まずは地域別に望ましい公共交通網の構築が必要だし、その維持のために公共交通税の創設も必要としている。望ましい公共交通網ができていれば、それを自動運転に置き換えることは容易だとの見解には、説得力がある。

さらに、公共交通網を維持・再構築することで利用しやすくなれば、自家用車での移動から公共交通での移動へとシフトする動きも生まれる。そのさきがけとして「乗って残そう地域交通運動」を提唱するとしている。

路線バス廃止という、いわば弱みにつけ込んだ形での問題提起ではあるが、その先を見据えた小嶋CEOの判断は的確と感じる。今回の件が岡山ローカルの話題ではなく、全国区での公共交通網見直し機運に結び付くことを期待したい。