旧来の自動車会社にとって脅威となるグーグル。写真は2009年の開発初期から走行させてきた自動運転車(写真:ウェイモ)

「自動車業界の競争の中心はかつて販売台数をめぐるものだった。だが今は、グーグルやアップル、アマゾンといった新しいプレーヤーが登場している」(2017年8月)

「今のライバルは車を造る企業ではなく、テクノロジーを生み出す企業だ」(2017年9月)

「異業種も巻き込んだ新たな『競争と協調』のフェーズに入っている」(2017年11月)

これらはどれも直近1年間のあいだにトヨタ自動車の豊田章男社長が発信したメッセージだ。自動車業界は今、「CASE」の頭文字を取って、コネクティビティ=通信と車の接続、オートノマス=自動運転、シェアリング=共有サービス、エレクトリックモビリティ=電動化という4つの変化が同時多発的に起きている。まさに100年に1度の大転換期が到来している。

「MaaS」の市場が生まれる

3月5日発売の『週刊東洋経済』は「トヨタ 生存の条件」と題して、生きるか死ぬかの戦いに挑むトヨタに迫っている。


自動運転やコネクティッドといった新技術が組み合わされると、ロボットタクシーや無人運転のライドシェア、さらにはeコマースと連動した自動配送の物流など、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」と呼ばれる新しい事業領域が生まれる。

米調査会社ストラテジー・アナリティクスは、これらのモビリティサービスの市場が2050年に7兆ドル(約740兆円)に達すると推測する。

MaaSが実現した社会を見据えると、「今、自動車会社に求められているのはディベロッパー(都市や街の開発事業者)的発想だ」(名古屋大学客員准教授で自動車とITの両業界に精通する野辺継男氏)。

人とモノの移動が最適化しながら既存の都市計画を変革するような力を秘めているのがMaaSであり、新しい都市計画を考慮してライドシェアの需要予測と車両の最適配車を行うようなサービスプラットフォーマーが、未来の自動車産業で力を握る。

モビリティサービスの時代にも主導的な地位にとどまるべく、トヨタはすでに未来創生ファンドや、人工知能(AI)研究を行う米国子会社のベンチャー投資ファンドを通じ、AIからドローン、自動運転など全方位で仲間作りを進めている。

走行距離で自動車会社を圧倒するグーグル

とりわけデータ解析やディープラーニングが開発のカギを握る自動運転の領域において、トヨタなど旧来の自動車会社にとっての脅威となっているのがグーグルだ。

グーグルを傘下に持つ持株会社アルファベットの自動運転開発子会社ウェイモは、今年2月までに公道での実走行距離が800万キロメートルに達した。シミュレーションでの走行経験と合わせて、他の自動車会社を圧倒する走行データを蓄積している。


グーグル系自動運転開発子会社のウェイモは、米クライスラーと協業してミニバンの自動運転車を開発している。今年1月にはこのミニバンの実験車両を600台から数千台に拡大し、公道での試験を重ねている(写真:ウェイモ)

米カリフォルニア州の交通当局(DMV、Department of Motor Vehicles)に提出された資料からウェイモは、公道試験56.6万キロメートルの間の「ディスエンゲージメント」(自動運転が解除され人間が介入する)は63回にとどまったことがわかる。単純計算で平均9000キロメートルを人間の介入なしに自動走行できたことになり、この距離は米ゼネラル・モーターズ(同2000キロメートル)や日産自動車(同300キロメートル)を大きく上回る。

こうしたデータを踏まえ、「自動運転ではグーグルの勝利で決着がついた」(前出の野辺氏)との見立ても出てきているほど、グーグルの存在は無視できないものとなっている。

米調査会社のナビガントリサーチが公表している自動運転技術開発の格付け(2018年版)でもウェイモは主導的な地位に立つ。「Execution(実行性)」と「Strategy(戦略性)」をそれぞれ軸に取り、技術力や市場開拓戦略など合計10項目から判断される。ウェイモやGMらが属するのは、自動運転開発で先頭を走る「LEADER(リーダー)」集団。トヨタなどはリーダーを追う2番手グループ「CONTENDER(競争相手)」に、ホンダや米テスラなどは後塵を拝する「CHALLENGER(挑戦者)」に位置づけられる。


(出所)ナビガントリサーチ

上下入れ替わりが激しい自動運転開発

ウェイモは2017年版の調査で2番手グループの「競争相手」に属していたが、この1年で「リーダー」集団に飛躍した。この理由をナビガントリサーチでシニアアナリストを務めるサム・アブエルサミッド氏は「実験車両の台数を拡大していることや、自動運転のライドシェア実験の取り組みを評価した」と解説する。ウェイモと肩を並べるGMは、米クルーズオートメーションや米ストローブといった有力ベンチャーの買収を繰り返しており、2019年に無人の自動運転車を導入して、ウェイモに対抗する。


一方、2017年版で2番手グループ「競争相手」に位置していたテスラは、「オートパイロットシステムの誤作動が減らないことや、生産トラブルによる資金繰りへの懸念などを総合的に判断した」(アブエルサミッド氏)結果、「挑戦者」へ後退した。

優劣の入れ替わりが激しい自動運転開発だが、カリフォルニア州では今年4月から車内に人が乗らない状態での公道走行試験が許可される。ウェイモも、運転席に人が乗らない状態でのライドシェアサービスに一般人が参加する計画を公表している。

いよいよ海外では、ロボットカーが走る未来都市の実現に向けた機運が高まってきているようだ。

『週刊東洋経済』3月10日号(3月5日発売)の特集は「トヨタ 生存の条件」です。