【もやもや】「伊調馨パワハラ被害」告発状からの行方が他人事じゃない!働くアラサーの背筋を凍らせるパワハラの闇〜その1〜
平昌オリンピックの興奮冷めやらぬ中、オリンピック繋がりでタイムリーだと思ったのかしらと邪推する気持ちになりますが、週刊文春に「レスリング女子で五輪4連覇の伊調馨選手が、栄監督からパワハラ被害を受けている」という記事が出て、ネットでも話題になっています。
当初は、記事見出しの読み間違いや先走りもあり、当の伊調馨選手が弁護士を通じて内閣府に告発状を送り、文春に栄監督からのパワハラ被害を訴えたのかと勘違いした人が多くいました。周囲でも、「#Me Tooや#Time's UP の流れか」「セクハラと同じくらいパワハラも許せない。告発して当然」という意見が多く聞かれました。
自分の所属する場所のトップをパワハラで告発するということは、自身にもデメリットが生じます。だから、ただ受け止めるしかなく、日々我慢している働く女性も多いのです。そんな中での伊調選手の告発報道。デメリットを凌駕するほど、何か思うところがあったのか、あるいは今いる場所との決別も辞さない覚悟をもったのか……。いずれにしろ、彼女と同性同世代の組織に属する人間として、すごく勇気がいることだとわかるだけに「単純に、驚いた」と感想をもつ人も。筆者もそのひとりです。
しかし、伊調選手と同世代のアラサー、そしてそれ以上の年齢の働く女性の中には、この告発に感謝した人も少なくありません。有名人のセクハラ・パワハラ告発は、ニュースで大きく扱われ、問題提起のチャンスが増えるからです。自身が日常的に受けている上司からのパワハラ被害と重ね、「世間がちゃんと、パワハラ被害をわかってくれますように」という願いを抱きます。
しかしその後、伊調選手が「告発状には一切かかわっていない」と公表。文春の記事も、その告発状に基づいて記者から聞かれたことについて答えているというスタイルで、その主な内容は「栄監督のもとを離れてから、練習する場がどんどんなくなって、練習する場所がない」という事実と、「私と関わった人に迷惑がかかってしまう」という困惑です。そして、その告発状は、第三者である弁護士が別の人に依頼されて作成、提出されたものと改めて報道がされました。
ここで、働くアラサー&アラフォーの「単純に、驚いた」派のみならず、「願いを抱いた」派までも、「え」となったのです。「これは、大変なことではないのか」と。
パワハラは「第三者が認める」ことでも判定されるわけですし、当然、誰が告発してもいいわけです。でも、本人が意図しない中で、「〇〇さんがあの人にパワハラされていますよ」とされると、余計に〇〇さんである本人はやりにくくなるのではと思うからです。
名伯楽=いい人とも限らない
パワハラする人は、文字通り組織的パワーをもっています。言い換えれば、権力です。そして、自身の感情に任せて、悪い王様のような言動をする人です。だから、告発を告げ口と不快に思い、その権力をふんだん使って、息の根を止めようとする可能性だってあるわけです。そんなことにでもなったら大変……。周囲でも、「一刻も早く伊調選手が普通にトレーニングができるようにしてあげて!」という声は、どんどん大きくなっています。「パワハラがあったかないかとか、もうどうでもいいから! 」と言った人もいました。そこを詰めていたら、話が進まないような雰囲気があるからです。
告発状で指摘されているパワハラについて、栄監督は文春の取材に答えています。当時コーチだった人に伊調選手を教えるなと言ったことは「他の選手を見てもらいたかったから」、警視庁レスリングクラブへの出禁は「知らない。関与なんかしてない」、男子合宿参加の禁止は「男子選手の練習の迷惑にならないようにと言っただけ」。伊調選手に「よく俺の前でレスリングができるな」と耳元でささやいたのは、よく覚えていないけれど「(パワハラなんかではなく、伊調選手に)他の事で、よくない態度があったからじゃないですか?」。これらをひとことで、「全面否定」とまとめているニュースもありましたが、この、「論破できなかったことにされてしまう」というのが、パワハラの恐ろしいところです。こういうネチネチとやるところも、絶対にパワハラですよ。でも、パワハラか否かでもめていたら、いつまでも決着がつかず、伊調選手は練習する場がずっと見つけられないことになってしまいます。
そして、極めつけは、栄氏が、取材最後に言ったとされる、「僕にはそういう(パワハラ)つもりはなかったですが、彼女がそう思うなら、話し合う必要はありそうですよね」みたいな発言。これも背筋が凍ります。なんなの、この、一見「理解あるふう」パワハラ実行者の、「常に上から目線」に脱力です。
さらに、栄氏と同じ、いやそれ以上の組織的パワーをもつ、谷岡郁子レスリング協会副会長がTwitterで援護射撃。「栄監督は、週刊文書が描いているような人物ではないと、私は保証します。(中略)パワハラ体質が中心にあって、沙保里はじめこれだけの強くも明るく、爽やかなチャンピオンたちが育つと思いますか?事実が人間性の証明」だそうです。これも一見、「正しいふう」。でも、嫌なたとえですけど、毒親に育てられても、ほかの居場所や、いい友人や仲間に恵まれて強く明るく元気に成長する人もいますよね。それを、毒親ではなかった、って言わないですよね。チャンピオンを育てたからいい人間だと思え、という発想は、絶対に違うんですよ。でも、組織は、「チャンピオンを育てたら、(そこで何がおこっても)いい人間」判定なのかもしれません。一般企業でも、どんなに人当たりがきつくて傍若無人なパワハラマンやパワハラウーマンでも、仕事さえできれば、才能があれば、評価もされるし出世もするっていうこと、普通ですもんね……。
「気に入らない部下をとことん追い詰める」「お気に入りだけをはべらせて、帝国を作ってご満悦」……パワハラは一般社会でも普通のこと? パワハラは、被害者が病気になるか命を絶つかしないと気にもしてもらえないのかーー。その2では、働くアラサーとアラフォーに聞いた「うちのオフィスのパワハラ上司」を紹介します。続編に続きます。
パワハラは本人に自覚がないことが多いというけど、その背後に「俺はエライんだから何してもOK」という思考がありそうなところがホラー。