パブリッシャーはサブスクリプションへの転換に力を入れている。過去数カ月の動きだけをみても、CNN、アトランティック(The Atlantic)、ワイアード(Wired)などに、サブスクリプション型プロダクトのリリースや、オンラインコンテンツへのペイウォール(課金の壁)を設定する動きがみられた。

ロイタージャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)が、グローバルパブリッシャーの幹部194人を対象に行なった調査では、今年の重要な売上獲得手段として、デジタルサブスクリプションを挙げた回答者の割合は44%にのぼり、選択肢のなかで最多だった。

デジタル広告売上における増加分のほぼすべてを巨大テック企業が占め、Facebookがニュースフィードからパブリッシャーを締め出すなか、パブリッシャーが読者からの売上に熱視線を送るのは自然なことだ。だが、望んだからといってすべてが叶うわけではない。現状打破するためには、読者売上こそが重要だと考えたくなるのわかるが、サブスクリプション事業を大規模に展開し収益化できるのは、おそらくひと握りのパブリッシャーだけだろう。

「うまくやるのは至難の業」


「『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times;以下、NYT)も専門誌も、読者売上で成功している。これこそ我々の生きる道だ』と、大勢の人々が考えている。だが、たいていのニュースパブリッシャーにとっては苦い結末に終わるだろう」と、NYTやNPRで幹部を務めたビビアン・シラー氏は警鐘を鳴らす。

サブスクリプションに対して楽観的な見方が強いのは驚くに当たらない。NYT、ワシントン・ポスト(The Washington Post)、ガーディアン(The Guardian)は、いずれもこの1年でデジタルサブスクリプションや(ガーディアンの場合は)読者からの寄付での収益を伸ばし、話題をさらった。ときを同じくして、インフォメーション(The Information)やスタット(Stat)など専門ニュースのスタートアップが、業界人読者向けに年会費数百ドル(数万円)の高額サブスクリプションを販売し、成功を収める例も相次いだ。いわゆる「トランプ・バンプ(トランプ旋風)」は沈静化したものの、これをきっかけに、人々はこれまでずっと無料だったオンラインニュースに、対価を払う気になったようだ。

新聞の場合、人々は昔から印刷版やオンライン版を購入してきており、確立されたサブスクリプションのインフラがある。だが、思い出してほしい。NYTは、鳴り物入りではじまった現在のサブスクリプションモデル以前に、2度の失敗を犯している。その2度目の挑戦「タイムズセレクト(TimesSelect)」のころにNYT幹部だったシラー氏は、当時を振り返り、「データとオーディエンスの構造化に莫大な投資が行われた」と語る。「うまくやるのは至難の業だ」。

成功した媒体は、いずれもコンテンツのジャンル分けが明確だった。また、ニッチな媒体の場合は経費で支払うことができるため、購入への抵抗感が薄かった。

収益比率はごく一部


大多数の人々は、依然としてオンラインニュースは無料で手に入るものと認識している。ロイタージャーナリズム研究所の調査によると、2017年にオンラインニュースを有料購読した米国人の割合は16%で、前年の9%から増加した。劇的な成長に思えるが、一方で回答者の79%は、将来自分がオンラインニュースに対価を払うと思うかという質問に「あまり思わない」または「まったく思わない」と答えている。それに、有料購読の意思がある読者も、ニュース報道には対価を払うとしても、ライフスタイルやエンタメ記事に対しては二の足を踏むだろう。

サブスクリプション開始からかなり経つ媒体でも、購読料を支払う読者の割合はデジタル読者全体の1割に満たないと、ギズモードメディアグループ(Gizmodo Media Group)CEO、ラジュー・ナリセッティ氏は指摘する。同氏は、ウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)の親会社ニュースコープ(News Corp)で戦略担当シニアバイスプレジデントも務めた経歴をもつ人物だ。

サブスクリプションの安定した売上は魅力的だが、採算は厳しい。サブスクリプション契約を結ばせ、継続させるにはコストがかかる。解約率は1年目がもっとも高く、購読ユーザーが安定した顧客になるまでには数年かかる。パブリッシャーは海外展開による成長を目論むが、海外の読者に受け入れられるには値下げが必要になるケースが多く、売上が圧迫されると、ナリセッティ氏は説明する。

「乱高下しにくく、FacebookやGoogle、プログラマティックといった外部からの影響を受けにくい収入源をつくるなら、サブスクリプションモデルは最適だ」と、彼はいう。「だが、有料購読の意思があるのは読者のごく一部だ。注目されはじめてからこれだけ時間が経っても、いまだに(有料購読者の割合が)1桁後半にとどまっているということは、すなわち広告売上の減少を補うだけの収入源にはなり得ないことを意味する」。

顧客中心主義への転換


サブスクリプションや、それに似ているより高級なメンバーシップの販売を伸ばすためには、パブリッシャーはプロダクトマーケターのようになる必要がある。だが、大部分のパブリッシャーはまだその方法を知らない。そう語るのは、パブリッシャーの読者売上増加をサポートするデジタルメディア向けビジネスプラットフォーム、ピアノ(Piano)で戦略担当シニアバイスプレジデントを務める、マイケル・シルバーマン氏だ。同氏はかつてニューヨークメディア(New York Media)のデジタル事業部門の設立にも携わった。

「この大転換には、思考と実践に新たなやり方を採り入れる必要がある」と、シルバーマン氏はいう。「注目からエンゲージメントへ、コンテンツ中心主義から顧客中心主義への転換だ。顧客に関する情報をもとに、彼らにとって本当に魅力的なプロダクトを生み出さなくてはならない。私が思うに、我々はまだそれを実現するためのごく初期の段階にいる」。

ニュースの大部分がコモディティ化している現状に対応し、一部のパブリッシャー(米DIGIDAYも含む)は、多くのプロダクトと特典をセットにしたメンバーシップ制への移行を選んだ。理論上、メンバーシップ制の会員は解約しにくいため、変動は小さくなるはずだ。だが、こういったビジネスモデルには顧客にフォーカスしたアプローチが必要で、ほとんどのパブリッシャーはそうしたやり方に慣れていない。

「お世辞でも、我々が読者にやさしい業界だったことは一度もない」と、ナリセッティ氏は断言する。「主要ニュースメディアのサブスクリプションを解約するのは悪夢のように煩雑だ。それに、有料会員になればサービスの質への期待値は上がる。特別だと感じさせることがそもそもの目的なのだから」。

「莫大な売上は期待しない」


どこかの時点で、市場が無数のプランで飽和し、サブスクリプションの成長は頭打ちになるかもしれない。すでにそれを心配しているパブリッシャーもいる。

だがいまのところは、試してみようという意欲が勝っている。ロイタージャーナリズム研究所の2018年の調査に戻ると、紙媒体とデジタルネイティブのパブリッシャーの大部分が売上の多角化を進めていて、サブスクリプションはそのうちのひとつに挙がっている。

ギズモードメディアグループも、複数の媒体でメンバーシップ制度の創設を検討中で、ギズモード、オニオン(The Onion)、ジェゼベル(Jezebel)などが含まれる予定だ。試験運用に際しては、各バーティカルメディア単体の特別アクセス、もしくは複数サイトを定期的に閲覧する読者への特典などが検討されている。だが、ナリセッティ氏はあくまで現実主義を貫く。

「サブスクリプションは我々にとって6つめの収入源になるだろう。だが、初年度中に莫大な売上は期待していない」と、彼は語った。

Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)
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