2018年2月28日、東海道新幹線の台車に亀裂が見つかった問題について説明する川崎重工の小河原誠常務取締役(左)。右は金花芳則社長。(写真=時事通信フォト)

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■1000人以上の死者が出る危険性があった

本当に大丈夫なのだろうか。新幹線の台車に亀裂が見つかった問題に対するJRの対応のことだ。

昨年12月、新幹線のぞみの台車に破断寸前の亀裂が見つかった問題で、JR西日本は2月28日、川崎重工業が台車を製造した際、鋼材を削り過ぎて強度が保てず、大きな亀裂につながったとの調査結果を発表した。

JR西日本の説明によると、台車枠の厚さは加工後7ミリ以上必要とされているが、問題となった台車枠の最も薄い箇所はこの基準よりも2.3ミリ薄い4.7ミリだった。

台車枠の底面の鋼材を削りすぎた理由について、川崎重工業側は「作業指導票では鋼材を削ってはいけないと規定されているが、班長は別の仕上げ基準を拡大解釈して0.5ミリまでは削っていいと勝手な思い込みで支持した」と説明し、マニュアル違反を認めている。

一方、JR西日本は「他の車両で破断に至るような傷は確認されていない。運行には支障はない」とし、順次台車を交換するという。

事故は想定外のところで起きる。運行しながら台車を交換していくやり方で本当に大丈夫なのだろうか。

鋼材の厚さが基準未満の川崎重工業製の台車は、JR西、東海で合わせて約150台にも上る。運行中、何かの拍子で亀裂が生じ、それが一気に大きな亀裂になる危険性はないのだろうか。その亀裂が原因で台車が破損すれば、間違いなく大事故につながる。

乗車率100%だと、車両の型にもよるが、乗客数は軽く1000人を超える。言い換えれば1000人以上の死者が出る大惨事が起きる危険性があるのだ。新聞各紙の社説も台車の削りすぎの問題を一斉に取り上げた。しかしどの社説も追及が甘い。

■「安全の根幹にかかわる製造ミス」

まずはこの手の問題で追及が厳しいといわれる朝日新聞の社説(3月2日付)から見ていこう。朝日社説はその冒頭で「安全の根幹にかかわる製造ミスだ。点検体制見直しや他の車両の安全確保が必要である」と主張する。

この主張はその通りでうなずける。それに「安全の根幹」「製造ミス」「安全確保」という言葉が、単刀直入で実に分かりやすい。

次に朝日社説はこう指摘する。

「台車は車体を支え、枠は強度を高める重要な部材だ」
「メーカーの川崎重工が、設計基準では厚さ7ミリ以上いる枠の底面を4.7ミリまで削っていた。溶接する別の部材とのすき間を調整しようとした現場の判断だった。これが強度に影響し、亀裂が広がったという」
「新幹線部品の製造現場なのに、現場判断で設計以下に削ったことは驚きだ」

現場が設計を無視する。朝日社説が指摘するように考えられない事態である。

船舶や航空機など大勢の乗客を運ぶ乗り物の設計の大前提となるのは、安全である。新幹線などの列車も例外ではない。それを設計者に相談することもなく、勝手に変更してしまうのだから安全に対する意識のかけらもない。

■問題の台車を装備したままの車両を運行している

続けて朝日社説はこう主張する。

「川重によると、作業指導票には『外枠を削ってはいけない』とあるという。その不徹底の責任は管理部門にもあろう」
「設計と製造の社員間で、意思疎通はできているか。重要部品を製造する認識と責任感はあったか。川重はメーカーとしての姿勢を根本から正すべきだ」

「姿勢を正すべきだ」という紋切り型の主張では甘過ぎる。川崎重工業には大勢の乗客の命を預かる新幹線車両の部品を製造する資格などもうないからだ。大事故を起こしてからでは遅い。

朝日社説は「製品が設計通りかチェックできる仕組みを、速やかに確立してほしい」とも主張するが、検査体制の見直しなど当然のことだ。

次に朝日社説は「不安が拭えないのは、厚さに不備のある川重製の台車はJR西、東海に計147台納入、一部運行を続けていることだ」と書き、「JR西は超音波を用いた検査で亀裂の兆候がないと確かめられたとしている。だが、のぞみ34号の場合、最初の亀裂がいつ、なぜ生じたのか未解明のままである」と指摘する。

その通りだ。それなのにJR西日本や東海は、問題の台車を装備したままの車両を運行している。ここで朝日社説はもっと追及すべきだ。

朝日社説は「東海道だけで1日に約300本が運行する新幹線は、正確な発着時刻や本数の多さといった利便性が売りものだ。ダイヤへの影響を避け、走行を優先させることは許されない」としたうえで、「両社は厚さに不備のあった台車の交換を進めている。それは当然だが、異変の兆候があれば躊躇なく止めるべきだ」と訴える。

だが異変の兆候をきちんと把握できればいいが、その兆候を見逃すと、大事故に直結する。運行しながらの台車の交換ではなく、問題の台車枠を付けた車両の運行をすべてとりやめて交換すべきである。

■読売も毎日も運行継続の順次交換を許容する

3月4日付の読売新聞の社説も「鋼材の厚さ不足のまま納入された川重製の台車は、JR西とJR東海で計147台に上る。一部で交換が始まったものの、終了までには時間を要するという」と書き、「可能な限り迅速に交換を進めてもらいたい。未交換のままで営業運転する場合には、超音波検査などによる安全確認に万全を期さなければならない」と主張する。

この主張も朝日社説と同様に甘い。

毎日新聞の社説(3月2日付)も次のように主張している。

「JR西や東海は、問題が発覚した全ての台車を交換する方針だ。不正が分かった以上は一斉に交換すべきだが、そうすれば新幹線の運行に支障が生じる事態も考えられる」
「JR側は、超音波検査で鋼材に傷が見つからなかった台車については『すぐ亀裂は生じない』と判断し運行を継続しつつ順次交換を進めるという。その判断は理解できるが、安全を確保するために一日も早い交換を求めたい」

本当に亀裂はすぐには生じないのだろうか。危険は想定外のところから忍び寄る。これまで何度も車両事故を繰り返してきたJR側の説明は信じ難い。

たとえば時速300キロ近い猛スピードで走行することもある新幹線の台車枠には、かなりの力がかかる。それが亀裂の発生にどう影響するのか。JRは亀裂のメカニズムをどこまで把握できているのだろうか。

■「日航ジャンボ機事故」との共通点

話は変わるが、30年以上前の1985年8月12日、日本航空のジャンボ機(B747)が群馬県上野村の御巣鷹の尾根に墜落した。

機体は大破し、乗客乗員520人の命が奪われた。世界の航空史上、最悪の惨事となったが、今回の新幹線の台車枠の亀裂問題と共通点がある。

日航ジャンボ機事故の原因は、修理ミスだった。事故機は7年前の78年に大阪空港でしりもち事故を起こしていた。この事故で壊れた機体後部の圧力隔壁(アフト・プレッシャー・バルクヘッド)の修理に米ボーイング社の修理チームが当たった。しかし作業員がリベットの打ち方を正しく行わずに隔壁の強度が十分に保たれていなかった。その結果、飛行を繰り返す度に隔壁に金属疲労による亀裂が生じ、事故当日にはその亀裂が一気に裂けて客室から噴き出した空気で垂直尾翼やハイドロ(油圧駆動システム)などが次々と破損し、操縦不能に陥って大惨事となった。

■なぜ指示通りに作業が行われなかったのか

修理を担当した米ボーイング社の修理チームは、損傷した圧力隔壁の下半分を交換した際、指示書通りの修理をしないで2枚に切った継ぎ板を使った。

ボ社は修理ミスを認めている。しかしなぜ強度が弱まるような修理を行ったのか。これについてボ社は一切、説明していない。

1987年に公表された運輸省(当時)事故調査委員会の報告書は、事故原因を「ボ社の不適切な修理ミスに起因する」としているものの、その修理ミスがなぜ、起きたかには触れていない。

今回の新幹線の台車枠は、前述したように設計を無視して現場の判断で勝手に削られた。現場がマニュアル通りに作業しなかった。ここが日航ジャンボ機墜落事故と共通している。

この共通点にも全国紙の社説は一行も触れていない。かつて10年以上にわたって社説を書いてきた1人の新聞記者としてとても残念だ。

日航ジャンボ機事故ではなぜ、作業員が修理ミスを犯したか。指示通りに修理しなかったかが不明のままである。日米間の法律の違いなど日本の運輸省や捜査当局の力の及ばないところに真の事故原因が隠れてしまったためである。

だが、新幹線の台車枠の削り過ぎの問題については、どうしてあそこまで現場が勝手に判断したかを徹底的に追及することはできる。現在、国の運輸安全委員会が新幹線初の重大インシデントとし、調査を進めている。その調査の先には、川崎重工業という大会社の組織的問題が見えてくるはずだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)