(写真提供=SPORTS KOREA)平昌五輪閉会式

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(写真提供=SPORTS KOREA)平昌五輪閉会式


平昌五輪も幕を閉じた。

開会式後の観客の移動、大会前から懸念されていた風、ノロウィルスなど、問題は確かにあった。

それでも、招致段階からウォッチしてきた私としては、小さい町がよく頑張ったという印象だ。

そして何より感じたのは、「オリンピックの魔法」である。

開会式の会場近くで保守団体のデモがあるなど、開幕直前まで不穏な雰囲気があった。

けれども聖火が灯り、世界各地から来た人が町に溢れると、開催地では不穏な雰囲気はなくなり、盛り上がりに欠けるという大会前の懸念が嘘のように、開催地はオリンピックムードに染まった。

まだパラリンピックが残っているが、聖火が消え、選手や応援の人たちが韓国を離れると、「オリンピックの魔法」が解け、現実と向かい合うことになる。

ほとんど何もなくなる平昌

山に閉ざされ、開発が遅れていた平昌・江陵(カンヌン)地域での開催だけに、韓国や開催自治体はかなり無理をして開催にこぎつけた。


(写真提供=SPORTS KOREA)平昌五輪閉会式


そうした中で整備された施設やインフラは、大会の雰囲気を盛り上げ、成功の下支えになったが、大会が終わると韓国や開催地にとって、頭の痛い存在になる。

まず屋根がなく、尋常でない寒さが懸念された開閉会式は、もちろん寒さはあったものの、懸念されたほどではなかった。その会場は陸上競技場などと違い、専用に作られた施設だけに制約が少なく、会場そのものが大きな舞台装置になっており、式典は非常に華やかで臨場感があった。

けれどもパラリンピックが終われば、客席の大半が撤去される。4回の式典のためだけに作られた、極めて贅沢な施設だ。管理・維持費を考えれば、そうせざるを得ないだろう。

問題は、スタジアム周辺にできた町そのものだ。

オリンピックスタジアムができたことで、平昌郡・大関嶺(テグァルリョン)面の町は、「久々に来た人は分からなくなる」と地元の人がいうほど、様変わりした。

私は韓国の田舎町も結構歩いているが、コンビニや飲食店などが、これほど充実している山里は見たことがない。

しかし大会後は、記念館などが作られるのだろうが、ほとんど何もなくなる。リゾート地でもないので、どう人を呼び、町を維持していくかは、難しい問題だ。

ソウル五輪のメイン会場であった蚕室は、かつては漢江の中洲の農村地帯であったが、オリンピックを契機に様変わりした。

ただ当然のことながら、高度成長期の首都の一角と、過疎化が懸念される低成長期の山里では、事情が違い過ぎる。

また江陵会場では、女子アイスホッケーの会場になった関東(クァンドン)ホッケーセンターだけ別の所にあるだけで、江陵カーリングセンター、フィギュアスケートやショートトラックの会場になった江陵アイスアリーナ、江陵スピードスケート競技場、江陵ホッケーセンターは、オリンピックパークやその隣接地域にある。


(写真提供=SPORTS KOREA)江陵カーリングセンター


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そのため江陵駅や江陵バスターミナルからオリンピックパークに向かう一般用のシャトルバスが頻繁に出ており便利だった。そしてオリンピックパークが、観戦チケットがない人でもオリンピックムードを感じる場所になっていた。

しかし、東京やソウルでも1か所にこれだけ氷上競技施設が集まると負担になる。まして江陵は人口が約21万人しかいない。一部は体育館や公演施設に転用するにしても、限界がある。

韓国全体では、スケートリンクが不足している面もある。

女子アイスホッケーの南北合同チームが練習試合を行った仁川のリンクは、4年前のアジア大会のハンドボール競技会場であった所だ。アジア大会後、スケートリンクになっていた。

夏季大会もそうであるが、冬季大会はなおのこと、都市開催という原則は、もはや相当無理があるのではないだろうか。

競技普及まで気が回らない実情

平昌五輪で使用された施設には、維持・管理費を誰がどの割合で負担するのかだけでなく、管理主体が誰なのかということすら決めっていない競技場も少なくない。

滑降競技などが行われた旌善(チョンソン)アルペン競技場の加里王(カリワン)山は、朝鮮王朝時代から守られてきた自然保護林であった。

大会のためにコース上の木は伐採され、他の所に移植した後、大会が終われば、再度元の場所に植え直すことになっていたが、伐採されたかなりの木が枯死しており、復元は困難になっているという。

ジャンプ競技場の維持管理のための国庫負担も困難とされており、国は国家代表の練習期間だけ、使用料を負担する方針だと現地メディアは報じる。

ここで問題となるのが、競技人口の少なさである。

ジャンプの場合競技人口が、ジュニア層も含めて男子15人、女子3人しかいない。キム・ヨナでブームになったフィギュアスケート以外は、どの競技も似たり寄ったりだ。

平昌五輪の余韻がある今は、競技普及のゴールデンタイムであるはずだ。

韓国のように、一部の競技を除き、冬季スポーツが盛んでない地域で開催する意味は、競技の普及、底辺の拡大にあるはずだ。競技人口が増えてこそ、競技施設は利用されるし、施設に対する公費負担の大義名分にもなる。

韓国の冬季スポーツは主に、スケートはサムスン、スキーはロッテが支援している。

しかし両財閥とも朴槿恵・崔順実スキャンダルの当事者になっている。大韓スキー協会会長でもある韓国ロッテ会長の辛東彬(シン・ドンビン、日本名・重光昭夫)は、大会期間中の2月13日、ソウル中央地裁から実刑判決を受けている。

スキーもスケートも平昌五輪の出場選手登録においてミスを犯して競技団体は世論の非難を浴びただけでなく、スケートでは暴力事件に加え、国際的に韓国の恥部をさらしたパシュートでのいじめ問題などがあり、競技普及まで、ほとんど気が回らないのが実情だ。

これではスポーツの視点からは、何のための大会かということになる。

バスもKTXも生き残りは厳しい

インフラ整備という面では、高速鉄道・KTXの開通、トンネルの開通などによる道路整備など、飛躍的に進歩した。

KTXは、ソウルの東北部、東京の上野のような存在の清涼里(チョンニャンニ)と江陵を1時間40分で結んでいる。けれどもこの路線、途中に大きな都市を通っていない。人口約34万人の原州(ウォンジュ)市をかすめてはいるが、中心部からは遠い。

大会中は、平昌地区の会場へのシャトルバスの拠点になった平昌駅、珍富(チンブ)駅は、パラリンピックが終わると、周囲にほとんど何もない、山の中の駅に過ぎなくなる。

さらにトンネルなどの整備により、東ソウルバスターミナルや、江南にある高速バスターミナルから江陵まで2時間40分ほどで行けるようになった。

清涼里までは遠い、ソウルの南部地域の人たちにとっては、料金の安い高速バスで行っても、江陵までの時間はそれほど変わらない。

人の行き来が激しい大都市間であれば、交通インフラが整備され、競争が生まれることはいいことだ。しかしながら、江陵は人口が約21万人だ。バスもKTXも、生き残りは厳しい状況に置かれている。

地方の小さな駅だった江陵駅は、平昌五輪を契機にKTXが開通して様変わりした。けれども駅周辺は昔のままで、ほとんど何もない。このアンバランスこそ、オリンピックの魔法が解けた開催地の現状をよく映し出しているのではないか。

大会を無事開催することは簡単ではないが、後味をよくすることは、もっと大変だ。

地方の町の平昌・江陵と大都市・東京では事情はかなり異なるが、2年後の東京にも同じことがいえる。

(文=大島 裕史)