スズキのコンパクトSUV「クロスビー」(筆者撮影)

昨年秋の第45回東京モーターショーで参考出品として展示されたスズキのコンパクトSUV「クロスビー」(XBEE)が発売された。モーターショーで展示され、直後に発売というスケジュールは4年ほど前に登場した軽自動車「ハスラー」を思わせるが、それ以上に2台は形が似ている。

ヒットモデル「ハスラー」の名前に頼る必要はない

ハスラーはデビューから4年以上経った現在も好調な販売成績を挙げている。なぜ「ハスラーX」などの名前にしなかったのか、不思議に思った人もいるかもしれない。


フロント比較(筆者撮影)

スズキは、これまでの経験から、あえてハスラーというブランド名を使わなかったのではないだろうかと筆者は思う。これまでの経験とは、「ワゴンRソリオ」と「ジムニーシエラ」のことだ。

ワゴンRソリオは軽自動車「ワゴンR」をベースに全幅を広げ、1〜1.3Lエンジンを積んだ車種で、「ワゴンRワイド」「ワゴンR+」(ワゴンRプラス)と呼ばれることもあった。2代目は当時提携関係にあった米国GM(ゼネラルモーターズ)のシボレーブランドにより「MW」の名前で販売されたほか、独オペルが「アギーラ」という名前で欧州展開もした。


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しかしわが国では、ワゴンRが当時爆発的な勢いで売れていたのとは対照的に低迷。そこで途中からワゴンRの名を取って単に「ソリオ」とするとともに、3代目ではボディも専用設計としたところ、売れ始めたという経緯がある。

「ジムニー」は早くからグローバル商品として展開しており、初代の途中でまず800ccエンジンを積んだ車種が登場。2代目以降は1〜1.3Lを積んだ。欧州向けとしてプジョーやルノーのディーゼルエンジンを積んだ仕様もある。日本では現在、「ジムニーシエラ」を名乗る。

ただしボディは大型バンパーとオーバーフェンダーを備え、太いタイヤを履いていたものの、キャビンは軽自動車と共通であり、ジムニーがターボ化によって1.3Lに近い性能を獲得したこともあって、軽自動車比率の少ない東京でも姿を見かけることは稀だ。

スズキはワゴンRとソリオの関係をSUVでも築くべくクロスビーを送り出したのだろう。そうであればハスラーの名前に頼る必要はない。それに輸入車、特にプレミアムブランドを見れば、上下関係をなす車種が見分けのつかないほど似ていることはよくあることだ。

クロスビーとハスラーを比較


リア比較(筆者撮影)

とはいえ両車を比べてみると、軽自動車のような外寸の制約がないことを活かして、全体的に丸みを帯びたほか、ボディサイドからリアにかけてはハスラーとは違うデザインになっていることがわかる。

サイドにはドアスプラッシュガードと呼ばれるパネルをドアの下部に装着した。ここをボディと別色として、ボディをグレー、ルーフを白、パネル内を黄色とするなどの3トーンコーディネートも可能になっている。

ハスラーと比べるとクロスビーのフェンダーは外側に張り出しており、逆にドア部分が凹んでいる。そこに新たにアクセントをつけ、色で遊べるようにした。楽しい提案だと思う。


後ろ(筆者撮影)

サイドからリアにかけては、ウインドーの幅を後半で狭めてピラーに窓を加え、リアウインドーは垂直に近かったハスラーより傾斜を強めている。その結果、お尻が重い印象を抱くようになってしまった。リアパネルが丸みを帯びていることも影響しているけれど、ハスラーのようにシンプルかつプレーンに仕上げたほうが良かったかもしれない。

あるいはリアだけでなくフロントのウインドーも傾斜させ、キャビン全体を低くして、レンジローバー「イヴォーク」のような路線を狙っても面白かったのではないかという気がする。


(左)クロスビー、(右)ハスラー(筆者撮影)

それに比べるとインテリアは、ハスラーからの進化を感じる部分が多い。インパネにパイプフレームを連想させる造形を入れ、ドアのグリップ部分を含めカラーパネルを採用したところは似るものの、センターパネルは大幅に違う。

ナビのディスプレイは最近のトレンドに合わせて独立しており、エアコンの操作パネルには同じクラスのイグニスで取り入れた操作しやすい造形を導入している。


セパレートの前席(筆者撮影)

シートにはハスラーで採用したパイピングの内側に、同色のアクセントを入れた。カラーパネルがハスラーの3色に対して1色、パイピングが5色に対して3色と選択肢が少ないのは、販売台数の違いが影響しているのだろう。

ちなみに広さについては、ボディサイドをあまり絞り込んでいないためもあり、幅の広さはしっかり感じる。前席をセパレートタイプにしたのも余裕の表れだろう。一方、後席の前後方向は、スライドを最後方にセットすると身長170cmの筆者なら楽に足が組めるが、これはハスラーも同じである。


5:5分割の後席(筆者撮影)

気になったのはこの後席が3人掛けなのに、分割がハスラーと同じ5:5であること。中央に座るとヒンジのパーツの上に座ることになって快適ではないし、ヘッドレストはない。ここは早急にスイフトのような6:4分割に作り直してほしい。

高速道路の余裕は軽自動車とは別世界だ

クロスビーのエンジンは1L直列3気筒ターボで、6速トルコン式ATを組み合わせる。ソリオやイグニスが積む、価格や燃費で有利な1.2L直列4気筒自然吸気とCVTのコンビにしなかったのは、ハスラーとの性能差を明確にするとともに、付加価値で勝負する車種としたという位置づけゆえかもしれない。

車両重量はハスラーのターボ付き4WDより130kgほど重いが、軽量化を得意とするスズキだけあって1000kgを下回る。対する最高出力と最大トルクは排気量の違いを反映して、どちらもハスラーの約1.5倍になる。

市街地ではそこまでの力強さは感じないが、高速道路の余裕は軽自動車とは別世界だ。100km/hのエンジン回転数は約2000rpmに過ぎず、ロードノイズも抑えられていて、静かなクルージングが味わえた。

さらに違うのは乗り心地とハンドリングだ。全幅が約200mm広いために、クロスビーはサスペンションをさほど固めなくても安定感が得られる。おかげで乗り心地は快適。ソリオやイグニスよりも上に感じた。それでいてコーナーは腰高感がなく安心してクリアできる。

高速道路や山道を多く走行するユーザーなら、ハスラーよりもクロスビーのほうがふさわしいと感じるだろう。

それだけに気になるのは海外展開だ。現状クロスビーは国内専用となっているが、軽自動車枠とは関係なく作られているうえに、水平基調でスクエアなスタイリングは欧州のユーザーには新鮮に映りそうであり、アジアのユーザーに対しては日本の最新トレンドの提案としてアピールできる。

最低地上高は180mmを確保し、グリップコントロールやヒルディセントコントロールも設定しているので、ジムニーほどではないものの走破性も評価されるだろう。1Lターボと6速ATというパワートレインもグローバル展開に向いている。

日本のみならず世界でどう評価されるのかも気になる1台である。