一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

先週は、お坊っちゃますぎて価値観の合わない男・ヒロキと出会ってしまった瑠璃子。さて、今週は…?




「瑠璃子、聞いて。実は私…ついに彼ができたのよ!」

突然、会社の先輩である理奈に切り出され、瑠璃子は驚きのあまり言葉を失った。今日は理奈に誘われて、仕事帰りに飲みに来ているのだ。

今朝から理奈はずいぶん上機嫌で、化粧室ですれ違ったときなんて鼻歌を歌っていた。珍しく瑠璃子を誘ってきたことにも、どういう風の吹き回しかとは疑っていたのだ。

「理奈さん、ついに、やりましたね。おめでとうございます!」

理奈は今年で36歳になる。瑠璃子の言葉に照れ笑いをしたあと、彼とは、知り合いが経営するワインバーで出会ったのだと話してくれた。

「理奈さん、いいなあ…」

瑠璃子が思わず理奈をじっと見つめると、理奈は慌てたように言った。

「そうだ、その時彼と一緒にいた男性も、独身なんだって。よかったら紹介してもらおうよ」

その男性というのは、理奈の彼と同い年。来月39歳になるそうだ。仕事は美容系のwebメディアでディレクターを務めている。

「39歳ですかあ…。ちょっと歳上ですね…」

瑠璃子が呟くと、理奈はぐいっと身を乗り出してきた。

「何を言ってるのよ!瑠璃子、あなたみたいにワガママな子には大人の男がいいわよ!それに彼、見た目もいいし体格もよくて、俳優の鈴木亮平みたいなの!これを逃したら一生後悔するかもよ……?」

「鈴木亮平」と言われて瑠璃子はぴくりと反応した。ガタイの良い男性はタイプなのだ。

考えを改めた瑠璃子は、理奈に頼んで彼の友達を紹介してもらうことにしたのだった。


「大人の恋」に目覚めた瑠璃子だが…?


経験豊富な男との大人の恋愛


こうして後日、理奈とともに、彼と彼の友人が待つ白金のイタリアン『ロッツォ シチリア』へと向かった。

理奈の彼も優しそうで素敵な人だが、その友人・マサシはさらに目を引くオーラを放っていて、朗らかでノリもよく、瑠璃子は目を奪われる。

会う前は39歳という年齢が気がかりだったが、こうして会った途端、不安は一瞬にして吹き飛んだ。

理奈から聞かされていたとおり、白いシャツを通してもマサシの美しく鍛え上げられた肉体ははっきりとわかった。

「マサシさんって、学生時代何かスポーツしてたの?アメフトとかラグビーとか…?」

瑠璃子の疑問を代弁するかのように、理奈が聞きたかった質問を口にしてくれた。

「いや、アメフトもラグビーもやってないよ。でも以前に、スノーボードのインストラクターしていたことはあるけどね」

マサシはそう言ってにこりと笑う。

-スノーボードがプロ級にうまいってこと…!?冬に一緒に雪山に行ったら素敵だろうなあ…♡




気が早いと思いつつも、瑠璃子はそんなことを考えてうっとりする。そのとき、店員がワインリストを持って現れた。

「瑠璃子、確かワインスクールに通い始めたのよね?腕の見せ所じゃない!おいしいワイン、選んでくれる?」

理奈に促されたものの、ワインリストを見て瑠璃子は固まってしまった。イタリアの土着葡萄品種ばかりで、勉強を始めたばかりの瑠璃子にはちんぷんかんぷんだったのだ。

するとマサシがそっと距離を縮めて、一緒にリストを眺め始めた。

「あ、俺、このワイン好き。あと、これもおすすめだよ」

こうしてマサシが助け舟を出してくれたおかげで、無事オーダーできた。選んでもらったワインは確かに美味しく、料理との相性もばっちりだ。

「マサシさん、イタリアワインに詳しいんですか?」

「うん、今の仕事の前だけど、イタリアワインの専門商社に勤めてたんだよ。それでちょっとね」

「えー!今は美容系のwebメディアなんですよね?すごいキャリアチェンジですね!」

「うん、今の会社の社長が古くからの知り合いでさ、一緒にやらないかって声かけられて、昨年転職したんだ」

それだけでなく、マサシは瑠璃子の会社のブランドにも相当の知識があった。どうやらマサシはファッションにも精通しているらしい。

さすが大人の男は経験豊富な分、たくさんの引き出しがあるようだ。またしても瑠璃子はうっとりしてマサシを見つめた。

-大人の落ち着いた恋愛も、悪くないかも…。

帰り道に、Facebookのマサシのプロフィール画面を何気なく覗いてみた。しかし彼の勤務先情報を見て、瑠璃子は眉をひそめた。


瑠璃子が驚いた、彼のこれまでの経歴とは?


そこにはこれまでの経歴がずらりと並んでおり、現在は7社目。

ウエディングプロデュース会社にはじまり、スノーボードインストラクター、保険会社、外資アパレル、人材派遣会社にワイン専門商社…。これまでの勤務先に統一性は一切なく、業界はバラバラだった。

瑠璃子の知り合いにも、新卒で入った会社を2ヶ月で退社し、その後も1年単位で転職している者がいる。同級生たちからは「地に足のつかない男」と言われているが、瑠璃子は心の中で、必死になって否定した。

-マサシさんは違う!ヘッドハンティングを繰り返して渡り歩いてきたんだよね、きっと…!


永遠のパーティーボーイ


数日後、マサシから自分の誕生日パーティーに来てほしいと誘われた。

-30代最後の誕生日なので、僕にとって大切な人だけを呼んでささやかなパーティーをします!理奈ちゃんと一緒にぜひお越しください。

こうして瑠璃子は、理奈を連れ、指定された西麻布のバーへと向かった。

「ドレスコードがネオンカラーだって。瑠璃子、どうした?私はネオンピンクのピアスにしたわ」

「私はネオンイエローのネイルです。これくらいしか無くって。さあ、入りましょう」

しかし到着した二人は、呆気に取られた。なんとそれは、100名規模の盛大な貸切パーティーだったのだ。




会場の至る所には大きなバルーンがふわふわと浮かび、ウエディングケーキを彷彿とさせる段ケーキや、巨大サイズのシャンパンボトルが目に飛び込んできた。

「みんな、今日は来てくれてありがとう!」

大音量の音楽とともに、マサシがマイクを握って華々しく登場した。

彼は目が眩むようなネオングリーンカラーのぴたぴたのTシャツを着て、さらにおかしなバースデーケーキを型どったサングラスと、「本日の主役」と書かれたタスキまで身につけている。

なによりも驚いたのは、マサシが聴衆にむけて重大発表をしたことだ。

「なんと僕は先月一杯で、勤めていたwebメディアを退職しました!この国にはもう僕のやりたいことはありません。今後は、シンガポールで飲食ビジネス展開をするため、起業にむけて準備を進めていきます!」

そのうち、大きなスクリーンが降りてきて、マサシの39年間を振り返るスライドショーや、彼の人生にまつわる3択クイズまで始まった。

色とりどりのネオンカラーを身につけた連中が、豪華景品を競って大騒ぎしており、肝心のマサシはその中央で盛り上がっている。これでは本人とゆっくり話すチャンスはなさそうだ。

瑠璃子は会場の隅に設置された「プレゼント回収置き場」にプレゼントを置くと、そっとため息をついた。

明らかに引いている瑠璃子の様子に気がついて、近づいてきたのは理奈の彼氏だ。

「瑠璃子ちゃん、びっくりした…?あいつ、瑠璃子ちゃんのことかなり気に入ってたからさ、また改めて会ってやってくれない?」

瑠璃子を気に入っているようにはとても見えない。しかし理奈の彼氏は続けた。

「20代の頃からパーティー三昧だけど、恋愛には誠実なんだよ。ただちょっと、変わったやつでさ…」

彼曰く、マサシのモットーは「今を100%楽しむこと」。そのため、長い目で人生のプランを立てるのが嫌いで、目移りしやすく仕事もコロコロ変えるのだそうだ。

今を楽しむことは素晴らしいが、目移りしやすく飽きっぽい性格の人とは、末永い関係を構築するのは到底難しそうである。

「マサシさん、シンガポールの飲食ビジネスうまくいくといいですね…」

瑠璃子はそう一言だけ答えると、西麻布の街を後にするのだった。

▶Next:3月14日水曜更新予定
次週、最終回。瑠璃子は今度こそ運命の相手に出会えるのか。