アメリカのニュースパブリッシャーが有料購読者からの売上を重視するようになっている。そんななか、その多くは国外市場に目を向けはじめている。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は2017年、国外のサブスクライバーを新たに10万人以上獲得し、国内外を合わせた総数を220万人に伸ばした。これにより国外読者は、同紙のデジタルサブスクライバーの14%を占めるまでに成長した。また、アトランティック(The Atlantic)は2017年、カナダとイギリスでオーディエンス拡大の試みに着手してからまだ数カ月しか経っていないにもかかわらず、国外からの有料会員への申し込みが3倍以上に増えた。これにより国外のサブスクライバーが新規申込者に占める割合は、6%から16%に成長。国際市場で読者数の拡大を試みてきたワシントン・ポスト(The Washington Post)も、国外のサブスクライバー数を4倍に増やし、いまや同紙が抱える顧客の10%弱を占めている。

アメリカ的な視点を武器に



国外読者の獲得に精を出す米パブリッシャーの大半は、国外市場を扱うニュース記事の強化に資金を注入している。しかし、その一方で彼らは、国内情勢をしっかりと報道すること(そして、それにともなう「アメリカ的な視点」)が、これら国外市場のサブスクライバーを惹きつけるにはもっとも効果的であることにも気付きつつある。

「グローバル市場における我々のオーディエンスは、地元以外のニュースには無関心だ」と語るのは、ニューヨーク・タイムズでアソシエートマネージングエディターを務めるジョディ・ルドレン氏。同氏は国外オーディエンスの拡大に重点を置く戦略グループであるNYTグローバル(NYT Global)を監督している。「我々の代名詞であるジャーナリズムは最大の売りだ」。

多くの米パブリッシャーにとって、いわゆるトランプ・バンプ(トランプ大統領に関するニュースが多くのメディアで取上げられたこと。日本で言うところの「トランプ旋風」に近い)が、この国際的な成長の一因となってきた。ますますグローバル化するメディア市場において、アメリカのパブリッシャーは自分たちのアメリカ的な視点を、マイナスではなく武器として活用している。実際にトランプ大統領は、アメリカ政府の取組みをとりわけ国外オーディエンスに対してアピールしてきた。

ただし、パブリッシャー各社はザ・ドナルド(レディット[Reddit]に存在する、トランプ大統領支持派が集まるスレッドのこと)に対する関心が自分たちの成長の唯一の理由ではないと釘を刺している。「この成功の要因がトランプ政権のみにあるとは思わない」と語るのは、ワシントン・ポストでマーケティング部門のバイスプレジデントを務めるミキ・キング氏だ。「2016年の選挙シーズンの前から、関心の高まりは見えはじめていた」。

世界各地に記者を配置



それと同時に、多くのパブリッシャーが現地で信頼関係を築くために、主要市場における独自の報道を強化しつつある。タイムズ紙やワシントン・ポスト、アトランティック、ブルームバーグ(Bloomberg)はどれも、オーストラリアやカナダ、イギリスなど、特定のターゲット市場でエディトリアル事業の拡大を模索してきた。たとえば、アトランティックは昨年、同社初の国外記者を集めて、その拠点をロンドンに置いている。

彼らは現地の記者に打ち勝つことを期待されているわけではない。そうではなく特定市場のビッグニュースに、二次的な読み物としての価値を付加する記事を書くことを彼らは期待されているのだ。「カナダに関するレポートで現地の記者と張り合うつもりはない」とキング氏は語る。「自分たちの得意分野で勝負することが狙いだ。つまり、そこに(アメリカ的な)視点を持ち込むのだ」。

なかには、ライフスタイルトピックの周辺に読者層を築くことも求められている記者もいる。たとえば、オーストラリアで活動するタイムズ紙のフードライターは、同紙フォードエディターのサム・シフトン氏と協力して、食とワインに関するパッケージや、オーストラリアとニュージーランドの読者にふさわしい季節ごとのレシピを作成した。

パーソナライズに期待



昨年のサブスクライバーの増加分の一部は、ペントアップ需要(繰越需要)を捉えるために行われた、プロダクトの微調整によってもたらされた。たとえば、ブルームバーグがビジネスウィーク(Businessweek)にペイウォールを導入してから半年になるが、同誌の国外デジタルサブスクリプションはこれまでに71%増加している。「この数字が、プレミアムプロダクトを成功させるための勝ち筋を語っている」と、ブルームバーグでデジタル部門のグローバルヘッドを務めるM・スコット・ヘイブンズ氏はいう。

その一方で、サブスクライバーの増加を維持するには、より巧妙な変化が効果的であると考えているパブリッシャーもいる。多くのニュースパブリッシャーが自社のウェブサイトを過剰にパーソナライズすることに警戒を示してきたが、タイムズ紙のルドレン氏は、位置情報を利用したパーソライゼーションを大きなチャンスとみなしている。

「我々の代名詞であるジャーナリズム精神が求められる出来事が起こるたびに、新たな読者が大挙してタイムズ紙に流れ込んでくる。いつからか我々は、このときをこれら読者とのファーストデートのようなものとして、考えるようになった」と同氏は語る。「このエクスペリエンスをパーソナライズし、我々が提供すべきものを読者に示す方法を探しはじめる必要が、我々にはあると思う」。

積極的に多言語展開も



いまのところ、この取り組みの大部分は、国外で暮らす英語を話す人々の役に立つことに重点が置かれている。しかし、タイムズ紙とブルームバーグは、方法こそ違えど、ほかの言語での展開も計画している。すでにメキシコと中東、インドネシア、中国で国外版を配信しているビジネスウィークは現在、南米と中央ヨーロッパ、アジア太平洋でライセンスパートナー探しを実施している。これら地域のパートナーは、同誌のコンテンツを使用するライセンスを与えられ、それを現地語に翻訳することになる。

中国語とスペイン語で簡易版を配信しているタイムズ紙は(サイトごとに1日につき約10本の記事を配信)先日、フランス語でもニュース配信を行った。

こうした活動のほぼすべては、サブスクリプションサービスを売ることに焦点を合わせている。それなりの問題もあるにはあるが(地方税や関税が余分にかかったり、顧客が料金を支払ってからコンテンツにアクセスできるようになるまでにかなり待たされたり、など)、デジタルオンリーのプロダクトへの移行が、これらすべてを可能にしてきた。「コストの点から見ると、国外で配達事業を促進しても、あまり意味はない」と、ワシントン・ポストのキング氏は語る。「このビジネスモデルは、デジタルでこそ大きな意味をなすのだ」。

広告市場からの外圧



広告市場からの外圧も、この新たに芽生えた関心(サブスクリプションサービスの国外展開)に影響をおよぼしている。「かつては広告が非常に重要だったため、国外に読者を求める行為は無意味だった」とメディアコンサルタント企業クアンタムメディア(Quantum Media)で社長を務めるエイバ・シーブ氏は語る。「いまは広告が大幅に縮小してしまっているので、サブスクリプションからの売上のほうが重要になっている」。

Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)