学ぶべきところのたくさんある上司でもあったのに、許せない面ばかりに目がいってしまって…(写真:imtmphoto/iStock)

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【ご相談】
上司のことで相談させてください。その上司は、相手の懐に入り込むのが非常に上手で、お客様とのコミュニケーションなどは見ていて見習いたいと感じます。でも、社内では、口の軽さ・悪さが目立ち、段々と苦手意識を感じるようになってしまいました。たとえば、女性部下のことを「彼女、劣化したよな」と陰で言ってみたり、飲み会の席で他の人もいるのに、ある部下に、「今回の評定を引き上げるのが大変だったんだぞ。○○さんも××さんも、君への評価が低くて、説得するのに苦労したよ」などと聞こえるように話したりするのです。
こういう実態を見聞きするうちに、私が上司にした個人的な話題も周囲に漏れているのではないかと思えてきました。私には、この上司には、マネジメントとしては慎むべき言動が多いと思えてなりません。
ただ、周りには「Aさんはそういうキャラだからしょうがない」と許されているようです。でも、キャラだからと言って、ダメなものはダメなのではないでしょうか。私は部下なので、不快に感じていたところで注意もできません。どうしたら他の人と同じように、「しょうがない」と聞き流せるようになれるでしょうか。

上司の人間性にもつい期待してしまいますが…

「上司の品格」問題ともいうべきご相談ですね。

会社という集団の中ではさまざまな性格の人がいますが、同僚ならともかく、「人の上に立ってまとめる、上司たる人がこんなことでよいのか」という気持ち。多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。


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そして、周囲の穏便な対応を見ていると、上司を許せない自分を持て余してしまう。感じ方は人それぞれなので、程度の差はあるでしょうが、あなたと同じように不快に思っている人もきっといるのではないかと思います。

実際に、働く女性たちと会話をすると、上司のコミュニケーションスタイルに嫌悪感を感じている人が意外なほど多くいます。あなたと同じように、「陰で誰かのことを言う」「上司だからこそ話したことが筒抜けになっている」ということに、ショックを受けたり傷ついたり、さらには「人としてイヤだ」というところまでいってしまっているパターンも多く聞きます。

上司たるもの、仕事ができるだけでなく、人間としても立派で尊敬できる人であってほしい、という私たちの期待の高さゆえか、何かの拍子にこういったコミュニケーションを見ると、がっかり感もひとしおになってしまうのかもしれません。

想像ですが、あなたはきっと、聞き流そうとすればするほど、余計に聞き流せなくなり、上司への幻滅感を深めてしまうような気がします。求められているアドバイスと違ってしまいますが、できれば上司に変わってもらいたいものですよね。

業務上で知り得た情報を適切でないシーンで話す人

ただ、「情報が漏れる」問題については、上司が、把握した部下の情報を業務上で共有したり活用したり、といったことは、ある程度あるものという前提でいたほうがいいと思います。もちろん、心ある上司ならば、きっと必要に応じて、必要な形に加工して限定的に、取り扱っていることでしょう。それでも、関係性を考えれば、いくら信頼している上司にでも、そもそも「誰にも言わないでほしい」という話はしないほうがいい。

もし、そう心掛けたうえでも、必要以上に周囲に漏れている、陰で何か言っている、ということが起こるとしたら……。それはその上司、あるいは情報を知った相手が、適切に情報を取り扱っていないからでしょう。

そういう人たちは、「人として」やっかいです。必要に応じて、でなく、必要でない場面で必要でない人に、面白おかしく情報を共有する人。業務上で知り得た情報を適切でないシーンで話してしまう人。これは、あなたの言うとおり、「ダメなものはダメ」だと私も思います。

こういう上司は、私の経験では、「誰よりも部下たちのことをよく把握している」「部下にこういう言い方をしても許されるくらい信頼されている」と思い込んでいるタイプか、あるいは、全体の受けを狙っては個人をダシに使ってしまうタイプの人か、に分かれるように思います。

前者は、「部下の情報」を“できる自分”のアピール材料にし、後者は単純に周囲の受けを狙っているアホな上司です。「下品な人」と思われても仕方ないと私は思ってしまいます。私は、あなたの上司は、前者でもあり後者でもある強者とお見受けしました。さらに、いちばん懸念されるのは、こういう上司が扱う話は概してネガティブで、内容も盛られている場合があり、誰かをとても傷つけてしまうリスクがある、ということです。ハラスメントに通じる危険もあります。やはり、「キャラ」では済まないと私は思います。

かつて私も、後者タイプの上司の下にいたことがあります。具体的には、スピーチの「つかみ」に、「誰かひとりを取り上げ、落とす話題」で笑いを取ろうとする人でした。

みんなはただ笑っていたり、あるいは苦笑い程度なのに、私はなんだか嫌で嫌でたまりませんでした。こういうコミュニケーションで人の気持ちをつかもうとする上司なんて下品でサイテー!という心境。こうなると、仕事も含めてその人のすべてを否定する気持ちになっていたくらいです。

それで、ある時、職場アンケートに、具体的な言動を挙げ、「不快だ、改善してほしい」と実名で書いて提出しました。でも、何日経っても変化なしの、完全スルー(笑)。そこで、私は別部署の上司たちに「ああいう発言、どう思いますか?」と尋ねてみて、「あれは不快だよね」と言う人を見つけて、「ぜひ、忠告してください」とお願いしてみました。その人は、忠告してくれて、上司も「気をつける」と言っていたそうなのです。でも、私がそそのかした忠告だとバレバレだったために、その後、私と上司はとても気まずい関係になってしまい、「下品な発言が減ったかどうか」を冷静に見届けるような状況ではなくなってしまいました。

とにかくかかわりを持たないようにしたまま、部下時代を終えることになり、今考えても成長感の少ない時期になってしまったと思います。学ぶべきところのたくさんある上司でもあったのに、許せない面ばかりに目がいってしまって、もったいないことをしました。つまり、私の試みは大失敗。直球で相手を責めるだけではなんの解決にもならない、ということです。

あなたも、仕事ができ、コミュニケーション能力に長けた上司だからこそ、尊敬したい、不快なコミュニケーションスタイルがなければもっと成長機会が得られる、と考えているのだと思います。

失敗例から考える対策

私の失敗例を考えると、「あなたのこんなところが人としてイヤです」と直球で、直接的、間接的に伝えると、間違いなくこじれます。なので、雑談などの流れで、「本で読んだのですが、あの手の発言は、ハラスメント認定されるケースもあるそうですよ?」と、課題ではなくリスクとして指摘する、などの作戦はどうでしょう。少なくともドキッとはするのではないでしょうか。「やばいね、気をつけないとだね」と言わせられれば、今後、その手の発言をしたときに、あなたが黙ってじっと上司を見つめるだけで、「あ、しまった」と思ってくれるような気がします。

また、「劣化」発言のたぐいは、いくら仲が良くても悪口には変わりありませんから、現行犯で、「ひどい! 言いつけますよ」と憤慨してみせるのは? 「本人にも言っているからいいんだよ」と開き直られたら、「Aさんが女性の外見をそんなふうに言うなんて。ショックで立ち直れません」と悲しんで見せるとかして、尊敬を失う危機を感じさせるのもひとつの手かもしれません。

もし、うまく上司が変化してくれれば儲けもの。変化がない可能性のほうが高いかもしれませんが、試してみる価値はあるでしょう。

あなたの上司のような「情報の取り扱い」に課題があるマネジメントは、必ずどこかでつまずいて、上昇し続けることはかなわないと思います。だから、いずれは淘汰されると思われますが、あなたがせっかくの時間を嫌々やり過ごし、十分に成長できないのはもったいない。

どうしても変化がなければ、その手のコミュニケーションをされたときには席を離れる、そういう場に居合わせないように心掛ける、といった努力をしながらも、なるだけ上司の「良いところ」を見て学ぶように努力するしかないでしょうね。

あなたがいずれマネジメントの立場になったときのために、徹底的に反面教師にするというのもひとつです。「聞き流せない」と自分を追い込む必要なんてありません。自分自身が「人としてのありたい姿」のようなもののイメージを持ち、大切に育てていく機会にすればよいのではないかと思います。