三菱自動車の新型クロスオーバーSUV「エクリプス クロス」(撮影:尾形文繁)

長期ティザーを経て正式発売がスタート

三菱自動車の新型クロスオーバーSUV(スポーツ多目的車)「エクリプス クロス」。昨年3月のジュネーブモーターショーで世界初公開後、約1年にわたる長期ティザーを経て日本で今年3月1日から正式発売がスタートした。


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昨年12月下旬から受付を開始した予約注文は、今年2月末までに約5000台に達した。国内での月販目標1000台に対して、好調なスタートを切ったといえるだろう。また、三菱販売店への来場者や問い合わせも以前より確実に増えており、販売現場も活気にあふれているそうだ。

現在、三菱は経営再建のために得意のSUVに絞った車種展開となっている。現在、SUV市場は全世界の乗用車需要の25%を超えているとされ、単に走破性やユーティリティだけではなく、スタイリッシュさや上級感なども求められるようになってきている。

三菱のクロスオーバーSUVシリーズは「RVR」(海外向けは「ASX」)と「アウトランダー/アウトランダーPHEV」がラインナップされているが、エクリプス クロスは単にこの間の隙間を埋めるモデルとは異なる。

昨今、クロスオーバーSUV市場は激戦区で、多様化するニーズに合わせてさまざまなモデルが用意されている。その中でもSUVの走行性能とスタイリッシュなクーペを融合させたモデルが人気となっている。日本車でいえば、2017年のSUV販売ナンバーワンとなったトヨタ自動車「C-HR」。エクリプス クロスはそのジャンルに属するモデルだ。

「エクリプス」といえば1989〜2012年まで北米市場を中心に発売されたスペシャリティクーペを思い出すクルマ好きや三菱ファンがいるだろう。今回その名が受け継がれたのは、このクルマがズバリ「SUVのスペシャリティクーペ」を目指したからに他ならない。


「エクリプス クロス」のサイドビュー。リアに向けて絞り込んだデザインだ(撮影:尾形 文繁)

エクリプス クロスの商品企画を担当した林祐一郎氏は、「車名は新規や英数字も検討しましたが、社内では『クーペ=エクリプスでしょ』という意見も多かったので採用しました。北米の三菱ファンの方には『あのエクリプスとは全然違うじゃないか』という厳しい意見もありましたが、他の仕向地では比較的素直に受け入れてもらっているようです」と語る。

久々のニューモデル

エクリプス クロスは三菱にとって軽自動車を除く登録車として考えると2013年デビューの「アウトランダーPHEV」以来となる久々のニューモデルになっただけでなく、ルノー日産グループへ加わった “新生”三菱の第1弾でもある。

といっても関係者によれば、ルノー日産グループ入りしても三菱の自主性は尊重されているという。エクリプス クロスの開発自体は以前から行われており、クルマ自体は完全な三菱オリジナルである。が、今後はパワートレーンやプラットフォームの共用化も踏まえた開発となるはずなので、もしかしたらエクリプス クロスは、純血三菱のファイナルモデルになるかもしれない。

ちなみに筆者は正式発売に先駆け、ほぼ量産仕様となるプロトタイプに舗装路と雪上(共にクローズドコース)で試乗済みだ。

エクステリアは2013年に参考出品された「コンセプトXR-PHEV」がモチーフである。実は三菱がSUVのスペシャリティクーペというコンセプトに着目したのは非常に早かったが、一連のゴタゴタにより市販化に時間を要してしまった間に、ライバルが先行してしまった。一方、逆に投入時期が遅れたことで、従来のタイミングでは間に合わなかった技術や工法、そして細かい部分のこだわりなどを盛り込むことができたそうだ

エクステリアは第2世代となった「ダイナミックシールド」採用のフロントマスク、「ウエッジシェイプ」のサイドビュー、アグレッシブなリアスタイルを採用したデザインだ。前傾姿勢で上半分がパキッとして洗練、下半分は筋肉質で安心感のあるデザインは、“三菱らしさ”が前面に出ており、都会に溶け込む乗用車ライクな有機的なデザインが多いライバルに対し、逆に新鮮に見えるかもしれない。個人的にはリアピラーの角度などは「ギャランフォルティス・スポーツバック」を思い出す。

ちなみにボディカラー「レッドダイヤモンド」もこだわりのポイントで、高彩度/深み感/高明度のために上塗り工程を2回行う。


「エクリプス クロス」のインテリアもこれまでの三菱車とちょっと違う(撮影:尾形 文繁)

インテリアは悪路走行や車両感覚の掴みやすさにも役立つ三菱伝統の水平基調のデザインを踏襲するが、デザイン/質感共に大きく進化。また、三菱初採用のヘッドアップディスプレイや薄型ディスプレイオーディオ、タッチパッドコントローラー(世界初Apple CarPlay対応)など、最新デバイスも積極的に採用するなど、ここ最近の消極的だった三菱車とはちょっと違う。

クーペスタイルというと「カッコ優先で居住性は二の次」と思われがちがだが、緻密なパッケージングによってカッコよさを損なわずにリアシートは十分なヘッドクリアランスを確保。200mmのロングスライド&9段階調整のリクライニング機構の採用も相まって、見た目以上に広く快適なリアの居住スペースと積載性を実現しているのもポイントだ。

三菱初となる「4B40」を搭載

エンジンは三菱初となる排気量1.5Lのダウンサイジングターボ「4B40」を搭載。最高出力150馬力、最大トルク240Nmを発揮する。低中速からレスポンスよく立ち上がる豊かなトルクと高回転まで気持ちよく回る特性はいい意味でターボらしくない自然なフィーリングである。スペック的にはアウトランダーなどに搭載される2.4Lの自然吸気(NA)エンジンに近いが、力強さや扱いやすさは雲泥の差だ。

また、トランスミッションは無段変速のCVTながらメリハリのある制御はドライバビリティの高さはもちろん低μ路でのアクセルコントロールも楽。われわれ日本人よりもCVT嫌いの欧州自動車メディアも高い評価をしたそうだ。

ちなみに欧州向けには2.2Lのディーゼルターボ+8速ATも用意されるが、日本へは遅れて投入予定のようだ。事前には「PHEVは技術的には搭載可能だが、アウトランダーとキャラクターが異なるので採用しない」と聞いていたのだが、発表会の席では益子修CEOは「コアモデルは何らかの形で電動化していくが、PEHVも検討したい」と語っている。

プラットフォームはアウトランダーがベースながらも、カウルトップ、スプリングハウスなどの骨格の剛性アップと合わせて、3点止めのストラットタワーバーやドア開口部/テールゲート開口部/リアホイールハウスなどに構造用接着剤の採用と、エクリプス クロス専用に最適化。さらに細部にわたり最適化を図ったサスペンションとS-AWCの組み合わせにより、奇をてらわず安心して楽しめるドライブフィールを目指したそうだ。

実は、エクリプス クロスにはあの「ランエボ」(ランサーエボリューション)のDNAが埋め込まれている。余談だが、ランエボの名前を知らない自動車好きはほとんどいないだろう。セダン系の「ランサー」(最終モデルの日本名は「ギャランフォルティス」)の車体にハイパワーなエンジン、強靱な足回りや先進の車体制御技術などを与え、専用の内外装で固めたクルマだ。1992年10月に初代が登場。ファンを中心に一部で絶大な人気を誇り、10代目までモデルを重ねたが2015年に生産中止後、現在は復活に向けた動きがある。

その歴代ランエボの駆動力制御を担当し、「ミスターAYC」と呼ばれた澤瀬薫氏をはじめとするランエボ開発主要メンバーの多くが、エクリプス クロスに関わっている。


「エクリプス クロス」のリアデザイン。クーペっぽいスタイリッシュなシルエットになっている(撮影:尾形 文繁)

エクリプス クロスに実際乗ってみると、細かい操作に対してクルマは裏切らずに正確に反応する。足はよく動くうえにストロークもあり4つのタイヤを上手に使っている。路面からの情報もステアリングからシッカリ伝わるので、「まだ行ける?」「もう限界なのか?」という判断もしやすい。

S-AWCのハードは電子制御カップリング式AWD+ブレーキAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)+ACD(横滑り防止装置)+ABSとライバルモデルも採用する比較的シンプルなシステムだが、S-AWCのポイントはハード(=システム)ではなくソフト(=頭脳)で、「ランエボ勝廚杷櫃辰浸洋惷酘暗合制御技術がフィードバックされている。

三菱のこだわりは、シチュエーションに応じて制御を変えるのではなく、いろいろな場面を想定してピッタリな制御(3モードの切替はあるが)を行うことだ。たとえば雪道のような低μ路の場合、普通に走らせていれば何事も起きない安定志向のハンドリングだが、ドライバーがアクションを起こせば豪快にテールを振り回して楽しむことも可能だ。

つまり、意図しないスライドは抑えるが、意図するスライドは許容する……そんな引き出しを残している部分も “三菱らしさ”の一つである。この懐の深さはまるで人間の心を読んでいるかのような巧みな制御である。これぞランエボのDNAである。

エクリプス クロスはそのデザインやキャラクターからオンロード主体と思われがちながら、三菱のSUV-DNAはシッカリと受け継がれており、最低地上高は175mm、アプローチアングル20.3度、ディパーチャーアングル30.8度とオフロード性能も抜かりない。もちろん、三菱のCMでもおなじみの45度登坂路も軽々と登るだけでなく坂道発進も可能だ。

今やデフォルト装備となりつつある安全運転支援システムは「アクティブスマートセーフティ&スマートドライビングアシスト」を採用。プリクラッシュブレーキ、アダプティブクルーズコントロール、AT誤発進(後退)抑制制御を持つ。後側方車両検知警報システム、オートマチックハイビームなどを一通り用意する。

“三菱らしさ”が戻ってきた1台

このように、エクリプス クロスは「見た目」や「走り」から三菱の本気度が伝わり、元気だった頃の“三菱らしさ”が戻ってきた1台といえる。

とはいえ、三菱ブランド復活のスタートは始まったばかり。燃費不正問題発覚後、ブランドイメージは落ちるところまで落ちてしまったので、その信頼を取り戻すにはまだまだ時間がかかるだろう。ただ、自動車メーカーである以上はいいクルマを提供するのが何よりの信頼関係回復に繋がる。

そういう意味ではジュネーブショーで発表予定の大幅改良版の「アウトランダーPHEV」 2018モデルやスクープ誌を賑わせている次期「デリカD:5」なども期待したいところである。