カタログ通販「ベルメゾン」で有名な千趣会、ファンドによる出資でどう再建を果たすのか(編集部撮影)

女性向け通販「ベルメゾン」などを展開する千趣会が惨たんたる状況に陥っている。2月8日に発表した2017年12月期決算では、営業赤字42億円(前期は11億円の営業黒字)を計上。商品の減損などもあって、最終赤字は110億円(同14億円の黒字)にも膨らんだ。

こうした中、2月26日には、政府系投資ファンドを引き受け先に約70億円の増資を行い、通販事業のテコ入れなどを行うと発表した。

もとより千趣会には、百貨店の大丸松坂屋の親会社であるJ. フロント リテイリングが約22%出資しているが、J. フロントから自己株を買い戻す方針だ。これにより大株主が大手百貨店からファンドに変わる公算が高くなったわけだが、63年の歴史を持つ老舗通販会社に何が起こっているのだろうか。

ジェットコースターばりの業績

昨年は積極的にテレビ広告を出していたので、「ベルメゾン」の名はそれなりに知られているだろう。ところが、実際に使っている人の数は急激に減っている。通販事業の売り上げはこの5年で、2割減少。2013年12月期には28億円あった営業利益も、前期は57億円の赤字で終わっている。

ここまで深刻な状況に陥っている理由はいくつかある。1つは、デジタル化の流れにうまくついていけなかったことだ。

アマゾンや楽天など、巨大ネット業者が通販の世界で幅をきかせるようになっていく中、ベルメゾンもネット通販を開始。現在では、ベルメゾンで買う人の8割がネット経由で、このうち半分はスマートフォン経由で買い物をしている。

しかし、かつてのカタログ利用者がそのままネットに移って買い物をしているわけではない。実際、過去5年のうちに、購入者数は90万人近く減っているほか、2012年には91万人いた新規会員数も減り続け、足元では75万人になっている。

通販のみならず、小売りにとって顧客母数が多いに越したことはないが、それが増えにくくなっているうえ、実際に買っている人も減っているわけである。

この間、千趣会も手は打ってきた。が、これが非常にマズい戦略だった。アマゾンのようなプラットフォーム型の業者が台頭したことで、ネット通販は「ワンストップで何でも買える」総合商店が主流になったこともあって、千趣会もこの路線を目指した。

消費の「パーソナル化」と逆行

もともと、ベルメゾンは20〜40代女性をターゲットにしている中でも、一定の領域に強みを持っていたのだが、売り上げ増加に向けて取り扱うカテゴリを広げ、商品数を増やしたのだ。たとえば、衣料品では「どのお客さんにもリーチしようと考えた」(千趣会)という。


結果、2012年から5年で商品型数は73%も増加。実際、ベルメゾンのサイトを見れば、食器棚をとっても、素材やデザイン、棚の数などが微妙に違う商品がずらりと出てくる。同時に、企画から製造、販売まで行うSPA型を志向したものの、SPAをやることが目的化してしまい、気が付けばSPAに適さないような商品まで作るようになっていったという。

あれもこれも手を出し商品数が膨大になった結果、どこにでも売っているような商品だらけになった。一方、この間、消費者は大量生産的なものから、よりパーソナル化したものを好むようになっており、ベルメゾンの顧客も徐々により個性的な商品が並ぶサイトか、アマゾンのような使い勝手のいいサイトへと移っていく。

こうして余剰在庫が増え、在庫一掃セールを行うことで利益率は低下。さらに、売れ残り商品の評価損によって赤字を出す体質になってしまった。ちなみに、2017年の商品評価損は20億円に達している。

商品開発力も低下していった。売り上げが伸び悩む中、商品開発部の人材は、新規事業開発などへまわされ、部門が縮小。残った人員も、従来のカタログ作りのやり方から離れられず、タイムリーに商品を開発し、必要なタイミングで売り出すことができなかった。

マーケティングの世界に、「考慮集合」という言葉がある。人がモノを買うときに、複数の商品を比較検討した中で、最終的に購買を考慮する候補に入る商品やショップがこれにあたる。

ベルメゾンの場合、その前の段階である「欲しいであろうモノが置いてあるところ」として認識はされるものの、最終的にクリックはしてもらえない。つまり、価格や機能、デザイン、あるいはサイトの使い勝手など総合的に判断した場合、サイトは訪れるかもしれないが、最終的に買う候補に残らない商品が並ぶようになってしまったのだ。

頼みにしていたJ. フロントとの提携も順調に進んだとはいえない。2年前に両社が業務提携をした際には、約60億円を投じて、実店舗とネットを統合したオムニチャネル化に向けたシステムや物流インフラの整備などを行う予定だった。

が、千趣会の発表によると、これまでのところできているのは、オムニチャネル販売を推進するベースとなるシステムの開発や、大丸松坂屋へのベルメゾンブランドの店舗出店くらい。J. フロントから得た75億円のうち60億円は、上記に使う予定だったが、結局8億円ほどしか使っていない。

提携には無理があった?

実際、今回千趣会はJ. フロントから自己株を買い戻すにあたって、“まだ使っていない”約64億円をこの資金に充てるとしている。ただし、どの程度買い戻すかについては、「今後協議する」予定だという。

これについて千趣会は、「店舗開発に時間がかかったのと、データの作り込みが難しくシステム開発にまで手が回らなかった」としている。だが、そもそも「ECネイティブではない両社が、オムニチャネルを目指すことに無理があったのではないか」と、『アマゾンが描く2022年の世界』などの著書がある、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は話す。

「ネットで買い物する際に、サイトが数秒止まっただけでも顧客がストレスを感じるようになってきた中で、顧客が本能的に使いたくなるようなインターフェースや顧客体験ができるサイトをリアル店舗側が作るのは難しい」(田中教授)

いきおい、千趣会とJ .フロントは商品の共同開発や互いの商品をそれぞれの店舗やサイトで販売するといった、単なる販売チャネルの多様化にとどまってしまったのかもしれない。

今回、千趣会の優先株の引き受け手となる、地域経済活性化支援機構(REVIC=レビック)は、地域活性化を目的とした起業から事業再生支援までを手掛けている。

千趣会によると、複数のファンドなどから再生案件を持ちかけられる中、「レビックによる提案が一番理にかなっていた」として同ファンドに決めた。銀行からの借り入れや社債調達といった負債を抱える方法以外の資金調達法を模索する中、既存普通株の希薄化などが避けられる優先株の発行という決断に至ったという。

千趣会はレビックの力を借り、マタニティやベビー用品、インテリア、大きいサイズなど6つのカテゴリに商品分野を絞り、再度専門店化を進めるとしている。同時に商品開発にも力を入れるとしており、「商品開発に若手を中心に人員を戻しているほか、外部からも人を入れている」(同社)。

1年で黒字化という「バラ色」すぎる計画

カテゴリ内のアイテムも減らし、さらにアイテム内の商品数にも上限を設ける。商品開発、販売スパンも見直して、短期間で売り切るようにするという。これにより、今2018年は売り上げこそ増えないものの、見切り品販売などが減ることで16億円の営業黒字を確保しようとしている。

が、これはあまりにもバラ色のシナリオだ。そもそも、5年かけて徐々に失われてきた差別化要因や商品開発力を一気に取り戻すのは難しい。カテゴリを6つに絞ったところで、それぞれの分野には、力を持つ専門業者がいるわけで、短時間でこうしたライバルに付け入るのは容易ではない。

これは、千趣会だけでなく、セブン&アイ・ホールディングス傘下に入ったニッセンなどにも言えることだが、中規模通販は現在、とても差別化しにくい立ち位置にある。

「小規模の小売りであれば、利用者の要望に合わせてカスタマイズするなどができるが、中規模がやるにはコストがかかりすぎる。一方、プラットフォーム型のように、顧客データとテクノロジーを駆使して、それぞれにあった商品や使い方を提案することもできない」(田中教授)

こうした中で生き残っていくためには、「たとえば、同じ小売業であっても、メルカリのように、ルールが違うゲームを作り出すしかない。商品やサービス、使い勝手で差別化を図るといった小手先のことだけやっていては、2、3年後に行き詰まるのは目に見えている」(同)。

ただ、こうした取り組みには大胆な視点や発想の転換が必要だ。今の事業の延長線上ではなく、枠から飛び出すほどの戦略を打ち出さない限り、千趣会の復活は難しいのかもしれない。