2018年がはじまってからほんの1カ月で、ブランドのメディア支出は50億ドル(約5400億円)にまで増えている。だが、マーケターが有利な広告価格を求めてメディアレビューを相次いで実施した2016年とは違い、いまのマーケターが求めているのは広告の価値だ。

石油元売のシェル(Shell)、HSBC(香港上海銀行)、食品メーカーのマース(Mars)、スーパーチェーンのアスダ(Asda)など、さまざまなブランド企業が、メディア予算の使い方において信頼できるエージェシーを見つけるためにメディアレビューを行っている。さまざまなメディアレビューを合わせると、広告支出の金額は30億ドル(約3200億円)から50億ドルになると、ピボタルリサーチグループ(Pivotal Research Group)のシニアアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏はいう。

プロクターアンドギャンブル(The Procter & Gamble:以下、P&G)、バークレイズ(Barclays)銀行、酒類メーカーのディアジオ(Diageo)、化粧品大手のロレアル(L'Oréal)などは、エージェンシーが予算の使い方を完全に開示できるなら、質の高い広告に対して割増料金を支払う用意があると公言している。これらのブランドは、メディアプランニングの内製化を進めるほどに、インプレッション単価の低さ以外の基準でエージェンシーを選べるようになると考えているのだ。

自信を増すブランドたち



実際、彼らは顧客獲得単価や動画の視聴完了率保証など、ビジネス上の成果を基準に購入を進めている。これは2年前と異なる動きだ。当時は多くのマーケターが、予算の使われ方に疑問を呈するほどの自信や専門知識を持ち合わせていなかった。

メディア戦略コンサルティング企業のIDコムス(ID Comms)によれば、ブランドは自社の能力にますます自信を見せるようになっており、最近のピッチは以前よりはるかに「戦略的」になっているという。ブランド各社は、戦略的プランニングに関するピッチを自社で開催しており、彼らがエージェンシーに新たに求めるのは、透明性が担保されたうえで、適切なメッセージを、適切なタイミングで適切なユーザーに届けてもらうことだと、IDコムスの最高戦略責任者を務めるトム・デンフォード氏は述べている。同社は、マースの14億ドル(約1500億円)規模のメディア事業の統合を支援している。

デンフォード氏によれば、こうしたブランドは、核となる戦略的課題のためにデータやテクノロジーを利用する必要があるという。「さらに多くの情報を入手して、メディアに関して賢明な意思決定を行えるようにするために、エージェンシーがどのように支援してくれるのかを知りたい」と考えているからだ。

ナイキの強気な事例



このような変化の例がナイキ(Nike)だ。同社のマーケターが見直しを進めたのは、メディアエージェンシーではなくデジタル広告だが、同じ原則を当てはめることができる。

ナイキは、いわゆるリバースオークションを利用してエージェンシーを選んでいる。具体的には、エージェンシーを互いに競わせ、1社が勝ち残るまで入札価格を下げさせるのだ。興味深いことに、この入札方式ですぐに撤退するエージェンシーはいないと、この件に詳しいある幹部は述べている。エージェンシーは可能な限り最低価格を提示し続けるようだ。

「ナイキによるリバースオークションの利用は、すでに価格圧力を受けているエージェンシーにとって、やっかいな問題だという人もいる。しかし彼らにとっては、最安値で発注されても、仕事の範囲が明確になっているのであれば「必ずしも悪い話ではない」と、ある企業幹部は米DIGIDAYの取材に対して匿名を条件に語った。もし「悪い話ではない」のなら、リバースオークションは、(多少時間はかかったとしても)効率的にエージェンシーをレビューする方法になる可能性がある。

次の狙いはメディア化



ブランドにとって、次の仕事はエージェンシーが購買力以上の価値をどの分野にもたらすのかを見極めることだ。したがって、業務の遂行よりも戦略面において、エージェンシーパートナーとの関係が構築されることもある。そこで登場するのがコンサルティング企業だ。

ブランドがハイブリッドモデルに移行するなか、彼らはコンサルティング企業にますます目を向けるようになると、メディア分析企業のイビキティ(Ebiquity)でメディア管理担当マネージングプリンシパルを務めるレティシア・ジネッティ氏は考えている。コンサルティング企業が「長年にわたってデジタルへの移行を進めてきた」ことから、ブランドは彼らが社内のメディア業務の準備や実施を支援してくれるだけでなく、一部の業務を運営してくれることを期待しているという。

また、レビューが相次いだ時期が過ぎて以降、自社の予算がメディアオーナーのもとに届けられるまでのプロセスを理解しているブランドが増えている。広告支出が300億ドル(約3兆円)を超える多国籍企業35社を対象に、世界広告主連盟(WFA)が実施した2017年の調査によると、直近の1年で広告に関する自社能力を高める対策を行ったブランド企業は65%に上る。したがって、カタリスト(Catalyst)のマーケティングツールを使っているディアジオ(Diageo plc)や、取引先のエージェンシーの数を2500社から半減する計画を立てているP&Gなどは、自社をメディア企業化する取り組みの戦略面に自信を抱いている。

「価格」から「価値」へ



問題は、メディアエージェンシーのセブンスターズ(The7Stars)の創設者であるヘンリー・ダグリッシュ氏がいうように、「ほとんどのメディア契約が、ネットワークエージェンシーがコントロールしている量に基づく価格保証をベースとしている」ことだ。だが、いまや「議論」は価格から価値に移っているとダグリッシュ氏は付け加えた。「彼ら(ブランド)が、インプレッション単価が多少高くなっても、アドテクを使ってビジネス上の成果を高めることができれば、必然的に、安い価格を上回るメリットがもたらされる可能性がある」。

Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)