モチベーションファクター社の山口氏(左)と、Wish&Recommendの朱子青氏

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 厚生労働省が発表した外国人雇用状況によれば、外国人労働者数は91万人で過去最高を記録しました。最も多いのが中国人32万人で、全体の36%を占めます(参照:「厚労省」)。今回は、中国と日本の両国でコンサルタントとして活躍する朱子逭さんに、中国の若手ビジネスパーソンの最新事情について、本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫る!

◆副業で「一夜爆富」を狙う中国人の若手ビジネスパーソン

山口:朱さんは、中国無錫市出身で、日本の東京工業大学を卒業後、日本で10年、IT、経営、教育関連のコンサルタントとして活動した後、現在は上海で、グロービス中国法人でデジタル部門の責任者として活躍されています。両国で若手ビジネスパーソンと仕事をする機会も多いと思いますが、日本と中国の20代のビジネスパーソンのどこが違うと思いますか。

朱:私の周囲の日本と中国に精通している人たちに、中国人と日本人の若手ビジネスパーソンの違いを聞いてみると、次のようなキーワードが共通して返ってきました。

《中国人と日本人の若手ビジネスパーソンの違いで出てきたキーワード》
●中国人ビジネスパーソン
言語力が強い、物欲が強い、金銭欲が強い、見せびらかすのが好き、創業意欲が強い、一夜暴富(一晩で金持ちになる)、ネット依存、浮躁、焦虑(焦り)
●日本人ビジネスパーソン
保守的、無欲、安寧、現状維持、節約、挑戦欲が弱い、協調性が高い、言語力が弱い、自分の趣味に打ち込める、根気強い、我慢強い、美意識が高い、誠実

朱:私が中国に戻って特に強く感じているのは、中国のビジネスパーソンの金銭欲が飛躍的に高まったということです。金銭欲の高まりは、若手ビジネスパーソンの会話で最近よく使われる、「一夜暴富」(一晩で巨額な富を得ること)というフレーズにも表れています。一夜暴富が実現できる環境にもあるし、そのための手段として、副業、転職、起業が当たり前の状況になっているのです。

山口:日本でも副業解禁が議論されていますが、中国のビジネスパーソンの副業の状況はどうなのですか。

朱:ほとんどのビジネスパーソンが何らかの形で副業をしている、しようと試みているといっていいでしょう。車通勤をする際に同乗者を募り料金をとる、退社後に「滴滴打車」や「滴嗒出行」などのタクシーアプリに登録した運転手として仕事をする、空いた時間にデリバリーの配達をする……副業の機会はいくらでもあります。

男性も女性も、インターネットで副業するということが当たり前になっています。オークションサイト淘宝網(タオバオ)に出品する、YouTubeに匹敵する优酷网(ヨウク)や、にこにこ動画に匹敵する「嗶哩嗶哩」(ビリビリ)に投稿する…ダンスのライブビデオをアップして月収30万元(500万円)を実現したケースもあります。

山口:まさに一攫千金ですね。日本の10倍、人口14億人という、金銭欲が適える市場があるわけですね。

朱:この市場は、国と国民が一体となって作り上げたものだと思います。例えば、中国政府がGoogleを使用禁止にしたことについて、日本では政治的な意図があったり、中国国民の利便性を損なったりしているのではないかという面が強調されがちですが、同様の検索機能であれば百度(バイドゥ)、地図であれば高徳(オート)などがありますので、全く困りません。むしろ、自国民に使い勝手が良い製品やサービスを有する中国の国産企業の成長を、国を挙げて実現してきたプロセスの一環だと私は考えています。

山口:副業に加えて、転職や起業も当たり前になっているということですが、自社内でキャリア開発ができる機会は限られているということでしょうか。

◆斜杠青年(スラッシュ青年)がビジネス伸展を支える

朱:中国企業の急成長に伴い、組織は巨大化し、上位ポストも増えていると言えますが、全てのビジネスパーソンが望むタイミングで昇格できるわけではありません。
一方で、転職先からのオファーは現在の給与の2倍、3倍になるケースがざらです。転職してキャリアを作ることにビジネスパーソンが躍起になることは自然なことだと思います。

山口:一か所にとどまることが必ずしもよいことではない、新しいことにチャレンジする意欲に富んでいる、試行錯誤をすることに寛大な環境だということでしょうか。

朱:中国の若手ビジネスパーソンを象徴するキーワードに、斜杠青年(スラッシュ青年)というものがあります。最近、日常的によく使われる用語です。ひとつの仕事だけでなくA/B/Cの仕事をやっている、ひとつ専門スキルだけでなく転職などによりA/B/Cのスキルを持っているという意味です。

山口:なるほど、“スラッシュ”の次の仕事やスキルを貪欲に身に付けていくことが常態化しているのですね。

日本では、1人のビジネスパーソンが長年ひとつの事に専念して長く深く貢献していくことに価値を見出しがちですが、スラッシュしながら、新しいことにチャレンジして相乗効果を生む、より高い価値を生み出せる機会を貪欲に獲得しようとすることにも意味があるように感じますね。

それでは、中国のビジネスパーソンが、新しいことにチャレンジしていく意識は、何によって高められているのでしょうか。

◆刺激し合う対人関係がWin-Winを実現する

朱:まず挙げられるのは貧富の差です。大卒1年目の年収はざっと60万元(1000万円)から6万元(100万円)までピンからキリです。狭い範囲で標準化されている日本と大きく異なります。貧富の差が金銭欲を高めていることは間違いないと思います。

そして、何よりも、他者とのかかわり方が大きく異なると思います。中国のビジネスパーソンの他者とのかかわり方は、刺激し合ってWin-Winを実現することが基本です。

日本のビジネスパーソンは、チームで協力し合おうと言いながら、刺激を与え合わないですよね。私に言わせれば、何も刺激を与えないことは、何もしないことと同じです。Safe-Safeであればよい、Lose-Loseにならなければよいというだけの関係だと思えてなりません。

山口:無難な関係を保っていればよいという意識では、組織の力が高まらないわけですね。その根底には、能動性、迅速性の違いがあるのでしょうか。

朱:日本では、中国人が電車の中やエレベータなど公共の場所で騒ぐことが取りざたされています。しかし、私は、電車の中で「携帯電話はマナーモードにして通話はご遠慮ください」という放送を聞いいたり、エレベータに私語厳禁のプレートが貼られていたりしているのを見て、日本だなと思います。海外ではエレベータートークという言葉があるぐらいですからね。

敢えて強めにコメントすると、電車の中で一言もしゃべらない、エレベータで会話しない民族は日本人ぐらいです。もっとコミュニケーションの取れる機会を大事にすべきです。

うるさくしようとして騒いでいるわけではないのです。同行者に刺激を与えたい、巻き込みたい、一緒に取り組みたいという思いなのです。もちろん、全てがこのケースに当てはまりませんが、もっと寛容な気持ちを周囲は持つべきだと思います。

◆<対談を終えて>

 副業や転職や起業に挑む「スラッシュ青年」(斜杠青年)が、「一夜暴富」で巨額の富を得る……一攫千金と言えば聞こえが悪いのですが、そこには試行錯誤による進歩のプロセスが間違いなく存在しているように思います。電車やエレベータで騒々しいのは、他者と積極的に関わり刺激し合ってWin-Winを実現する意味があるのです。

 中国版シリコンバーレーと言われる中関村の経営者たちに、分解スキル反復演習型能力開発プログラムを実施していますと、日本ビジネスパーソンの職人気質を学びたいという依頼に接します。職人気質だけでなく、他者を巻き込み合うことのできる、それも巨大組織が誕生しようとしているのです。(モチベーションファクター株式会社 山口博)

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第73回】
<文/山口博>

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。