オープンに接するメリットは大きいです(写真:East & West / PIXTA)

ワークライフバランス、AI(人工知能)による職業淘汰、働き方改革……これからの「仕事の在り方」や「人生の組み立て方」をめぐり、めまぐるしく議論が交わされる昨今ですが、そうした制度や環境といった文脈とは別のところで、私たちの日々のパフォーマンスの質や満足度に大きく影響する、決して見逃せない要素があります。
それは、「人」――誰と出会い、誰と働き、誰とともに時間を過ごすのか、ということ。そうした機会を煩わしいものとしてネガティブに捉えるか、追い風としてポジティブに捉え、チャンスに変えていくかによって、その後の展開はまったく別のものになります。
日本人の両親のもとニューヨークで生まれ育ち、2つの異なるバックグラウンド、極度に人見知りする性格といった葛藤を乗り越えて、世界トップクラスのメガバンク、バンク・オブ・アメリカで史上最年少「営業成績全米ナンバーワン」という実績を収めた酒井レオ氏は、著書『全米No.1バンカーが教える最強の気くばり』の中で「どんな相手とでも分け隔てなくオープンに接し、つながりを広げていく」ことの重要性を説きます。

「人」と出会うところにチャンスは訪れる

人間関係というのは、オープンにふるまっているほうがより大きなチャンスが得られます。

大富豪の中には、限られた一部の人以外とはつきあわない、という偏屈な人もいますが、それはすでに大金を得ているなどして、新しい関係をそれほど必要としない場合に限られます。でも、まだ大富豪にもなっていない私たちは、新しい出会いを上手に見つけていくことが重要です。

とはいっても、私を含め、人づきあいが苦手な人間からすると、「新しい出会いを見つける」ほど、面倒で恐ろしくて困難なことはありません。

そこで、シャイな人はシャイな人なりに、オープンな人間関係を築けるようになるためのコツを、いくつも考えては試行錯誤してきました。

その中で、私がふだんから特によく活用している便利な方法が3つあります。

まず1つ目のステップが「アイコンタクト」です。

相手の目をしっかり見て、「私はあなたと向き合っています」と態度表明するのです。目をそらしていると、相手は無視されているように感じますから、もし視線をダイレクトに合わせるのが恥ずかしかったら、銀行営業の仕事を始めたばかりの私がやっていたように、おでこや鼻の頭を見るといいでしょう。

2つ目のステップが「あいさつ」です。

じっと目を見ただけでは、「へんな奴」「俺にガンをつけているのか」と誤解される恐れがあるので、すばやく、はっきりとした声であいさつをします。「こんにちは」「おつかれさまです」といった、ありきたりなものでも、実際に声に出すか出さないかで大きな違いが出ます。「私はあなたに心を開いています」というアピールです。

そして3つ目のステップが相手の「名前を呼ぶ」こと。

名前はその人固有のもの。それを呼ぶという行動には、相手との距離を一気に縮める絶大な威力があります。それまで一般的な関係だったものが、名前を呼んだとたん、1対1の親密な関係に変わるのです。

「アイコンタクト」「あいさつ」「名前を呼ぶ」。

この3ステップを踏むことで、どんな相手ともオープンで友好的な関係をつくる糸口がつかめます。

高校時代に出会った「人づきあいの達人」

この3ステップの効果に気がついたのは高校生のときのある出来事がきっかけでした。学校にイタリア語の女性教師がいました。私がサッカーが得意だと聞きつけて、いつもひとりで昼食をとっている私を「ランチに行かない? サッカーの話、聞かせて」と誘ってくれたのです。

学校のそばにあるカフェに入ったのですが、彼女の見知らぬ人に対する対応のあまりのオープンさに衝撃を受けました。

たまたま席が隣り合っただけのおじさんとも、目線を合わせながら「チャオ!」と全力の笑顔で挨拶します。「知り合い?」と聞くと、「ノー、全然」とあっけらかんと答えるので、シャイで用心深かった私のほうが内心「『ノー』じゃないだろ。変なやつだったらどうするんだ」とはらはらしました。

それでもランチが終わるころには、隣のおじさんとファーストネームで呼び合うほどすっかりうちとけていました。それだけでなく、周辺にいた他のお客さんたちもまきこんで、みんなで盛り上がっているのです。

それ以来、何となく注意して観察したり話を聞いたりしていると、彼女の周りにはいつも人が集まっていて、楽しいことが起きていることに気づきました。食事をごちそうになったり、遊びに誘われたり、人生を思い切り楽しんでいるのがわかりました。

それまで私は、人に対して心を開くと、利用されたり、傷つけられたりすると思っていました。だから、防御のためにいつも塀を高くしていたのです。でもその割には、攻撃されて傷つくことが多かった気がします。

いっそのこと彼女のように塀をとっぱらって、誰とでもオープンに接したほうが得をするのではないか――そう思うようになったのは、そのころからです。

とはいえ、シャイで根暗な性格がすぐに直るわけではありません。ようやく3ステップにも慣れ、自然体でどんな人とでもうちとけられるようになったのは、バンク・オブ・アメリカに転職して、営業の仕事を始めてからになります。

ただ彼女との一件から、「人間関係をつくるには、ハードルを下げてオープンに行ったほうが得をする」と、随所で自分に言い聞かせるようになりました。

「常連以上」に待遇をよくしてもらえる理由

また、こんなメリットもあります。

ニューヨークにいる間、私が有名なステーキハウス「ウルフギャング」や名門レストラン「ピータールーガー」などに行くと、アジア人で、しかも40代という比較的若い人間でありながら、どんな会社の社長よりいい待遇を受けることができます。

なぜかというと、私が毎日のように通う常連だからでも、毎回大勢のお客さんを連れていく金払いのいいお得意さんだからでもありません。ただひとつ、「ウェイターさんたちと仲良くなっているから」です。

その方法はこうです。

高級レストランに行ったとき、私は食べ終わったお皿やコップをウェイターさんが下げやすいように手で取って渡します。日本以上にそうした習慣が珍しい海外では、それだけでも彼らには好印象ですし、そのときにやはり、相手の名札を見て、名前も覚えるのです。

もし名札がついていなかったら、「お名前は何とおっしゃいますか?(What’s your name?)」と聞きます。たいていのお客さんはウェイターにあまり興味を示さないので、名前を聞かれると、彼らは喜んで教えてくれます。

そのあとは、メニューの追加を頼むときなどに、ただの「ちょっと!(Hey!)」ではなく、「ビルさん、すみません!(Bill, come here!)」と、しっかり名前で呼べばいいのです。ほかのお客さんがやらない分、ウェイターさんもうれしいわけで、喜んで飛んできてくれます。

「これ」だけで最高のおもてなしを受けられる

「ウルフギャング」に初めて行ったときには、バルコーという名前のウェイターさんと仲良くなりました。私は初日から「ヘイ、バルコー!」と名前で彼を呼びました。

ちょっとした雑談から、彼がアルバニア出身だと知ったので、次に行ったときはアルバニアという国の歴史を少しだけ予習していって、彼に話すと喜んでくれました。そしてついでに「今日は日本からのお客さんを連れてきたから、よくしてあげてね」と彼に耳打ちしたのです。

一緒に来ていた日本の取引先の人たちも、彼のとびきり丁寧な接客に喜んでくれたのはいうまでもありません。

関係が生まれたのはバルコーだけではありません。彼と私が笑顔で会話をかわしている様子を見て、ほかのウェイターたちも注目します。

そして、バルコーがキッチンに戻ると、「あの日本人、何だって? 何、親しそうに話してたんだ?」と興味津々で聞いてきます。

バルコーはすでに私と仲良しですから、「彼が日本人のお客さんを接待してるんだってさ。面白い人だから、よくしてあげてよ」と言うわけです。するとほかのウェイターも、水やパンを持ってくる際に「お味はいかがですか?」などと、私たちに愛想よく対応してくれるというわけです。


そんなふうにバルコーを皮切りに、同僚のウェイターさんたちと次々と仲良くなったおかげで、私が「ウルフギャング」に行くと、自然といちばんいい席に案内してもらえるようになりました。

私以上におカネを使う上客の人はいっぱいいるにもかかわらず、その中で私が厚遇してもらえるのは、そこで働いている人たちとの間に濃い人間関係が築けているからにほかなりません。

そこに至るまでに私が心がけたことといえば、目を見て、あいさつの声をかけ、名前で呼ぶという、簡単な3ステップを行動に移しただけ。このように、有名レストランで厚遇される常連客になるにしても、特別なおカネをかける必要はないのです。