今年(2018年)2月、米ニューヨークで61歳のタクシー運転手が市庁舎前で拳銃自殺した。背景にあるのは生活苦だった。その運転手は、自家用車のライドシェア増加を規制しない市政府の無策に対し自らの命を絶って抗議したのだ。

 タクシー業界が時代の波に翻弄されている。構造変化を促すのは、ライドシェアの普及にとどまらない。英デイリーメール紙電子版は「自動運転が実現すれば、先進国で深刻な失業を招く」(オクラホマ大学のスバス・カーク氏)と警鐘を鳴らす。

 自動化による失業は、タクシー業界のみならず世界中のあらゆる業界で問題になるとされている。

 マッキンゼー&カンパニーの調査によれば、製造業の比率の高い日本では米国よりも自動化の導入が進むという。同社は、2030年までに日本で自動化されるようになる作業時間の割合は最大値で52%だと試算する。これは、比較対象となった中国、ドイツ、インド、メキシコ、アメリカの中で最も高い数字だ。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

自動運転化で世の中はどう変わるのか

 賃金水準が高く、また人手不足が顕著な日本のタクシー業界でも自動化が進んでいくはずだ。全国ハイヤー・タクシー連合会は「自動運転の実現はまだまだ先の話」と言うが、日本の道路に自動運転車を導入するタイムスケジュールはすでに打ち出されている。国土交通省によれば、2025年には高速道路での完全自動運転が実現し、その後、完全自動運転の時代が到来するという。

 自動運転が実用化されると、世の中はどう変わるのか。

 バスやトラック、タクシーなどの業界は慢性的な人手不足が解消されるだろう。さらに、世の中全体で死亡事故は劇的に減少し、その結果、運転免許証が不要になり、保険制度だって変わる。自動車のボディーは金属で造る必要がなくなるかもしれない・・・。

 ちなみに、自動運転化を急ぐ中国では、早くも昨年12月に深センで条件付き自動運転バスの試運転が行われた。運転手の“手放し運転”デモが衆目を集めたが、社会的な悪影響も指摘された。というのも、通信販売が発達する中国では、物流業界だけで5000万人超(2016年末)が従事している。自動運転が普及すると物流業界の多数のドライバーが失業するおそれがあるのだ。

「有人」運転こそが価値に?

 少子高齢化が進む中、日本のタクシー業界はビジネスモデルの転換を迫られている。

 あるタクシー会社の管理職はこう打ち明ける。「タクシーの保有台数は売上に直結します。そのため私たちは車両台数をできるだけ増やしてきました。しかしこれからは台数を増やしても大きな儲けは期待できません。新たなビジネスモデルを模索しているところです」

 ここで熊本県人吉市のつばめタクシーの取り組みを紹介しよう。同社は「変化への対応」を社是に、昭和2年の創業以来、90年を超える歴史を刻んできた。現在の乗務員は約40人である。

 取締役の北貴之氏は、「自動運転に対応するつもりはありません。むしろタクシーならではの顧客満足度を強化すれば、タクシーこそ長く続く公共交通だと思っています」と語る。

 同社のサービスはバリエーションに富んでいる。「介護タクシー」は患者や要介護者を搬送するタクシーだ。寝台車1台、スロープ付き車両3台を稼働させるために、特別なトレーニングを導入し、乗務員に資格を取得させた。子供だけでも乗れる「キッズタクシー」や、飼い主に代わってペットを運ぶ「ペットタクシー」もある。

 鳥取県米子市の皆生タクシーも、独自のサービスを打ち出そうとしている。代表取締役社長の杉本真吾氏はこうコメントする。「自動運転が広まると、全国のタクシー会社の9割は消滅するかもしれません。しかし、『やっぱり有人がいい』というお客さんもいるはず。AIが人間を不幸にするようなことになっては本末転倒です。私たちは地域のニーズをしっかりと受け止めていきたいと考えています」 同社では今年、都市部に住む家族に代わって「タクシーを使って高齢の両親を見守る」サービスを打ち出す予定だ。

テクノロジー競争になりすぎた自動車開発

 英国の経済紙フィナンシャル・タイムズは2月19日、コラムニスト、ラナ・フォルーハー氏の執筆による「AI時代のニューディール」というタイトルのコラムを掲載した。

 フォルーハー氏はこんな考えを述べる。

 目下、多国籍企業の経営者は仕事の半分近くをAIで置き換えようと急いでいる。だが、リストラをするべきではない。確かに自動化によって置き換えられる仕事は多いが、顧客サービスなど人間を必要とする分野の仕事も多い──。

 フォルーハー氏は「従業員を解雇せず、新しい仕事ができるよう再訓練する企業には、税制上の優遇を与えればいい」とも記す。

 自動車業界に詳しいあるエコノミストは、日本では「自動運転が目的化していることへの批判も出始めている」という。自動車開発があまりにもテクノロジー競争の側面が強くなっていることが危惧されているのだ。

 日本では多くの仕事が自動化に置き換えられていくことだろう。だが、人間だけにしか生み出せない「温かみ」こそが、逆に価値を帯びる時代になるのかもしれない。

筆者:姫田 小夏