優秀な人材を確保するにはどうすればいいのでしょうか(写真:Yagi-Studio / iStock)

企業が優秀な人材を確保することがこれまで以上に難しくなっている。米人材開発支援会社、コーナーストーンオンデマンドの調査では、多くのCEOが、技術革新が進む中で、将来会社が生き残るために必要なスキルを持った社員が足りないと感じている。一方、社員側にも今の自分のスキルだけでやっていけるのかという不安もある。双方の不安を解消する策はあるのか。アジア事業トップを務めた経験を持つ同社のチーフ・カスタマー・オフィサー、フランク・リチャルディ氏に聞いた。

必要なスキルを見極める前に…

――人材不足は世界的な問題だそうですね。

かつては、「人が足りない」のが問題だったが、今の企業にとっての課題は「適切な人材」を確保することで、それは企業の大小にかかわらず、だ。特に将来必要になってくるようなスキルを持っている人材が圧倒的に足りていない。今で言えば、データサイエンティストがいい例だろう。


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企業が適切な人材不足を解消するには2つしか方法がない。1つは、より高い給料を払うこと、そしてもう1つは、今いる人材に必要なスキルを身に付けさせることだ。後者の場合、単に社員にトレーニングを提供するのではなく、人材を「開発」するということを考えないといけない。

――どこから手を付ければ。

その前に明確にしなければならないより大きな問題がある。それは、将来どういう会社にならなければいけないか、ということだ。世界はものすごいスピードで変化しており、テクノロジーがそれを加速させている。

今日の企業は、業界や技術、世界の変化に伴って、自らも変化しなければいけない状況に追い込まれている。変化を余儀なくされる中、変わるにはどんな戦略が必要なのか考えてから初めて、どんなスキルが必要かを考えるべきだろう。

ただし、問題は需要と供給だ。今でさえ企業が必要とするスキルが足りていない。となると、企業が変化していくのに必要なスキルを確保するのは容易なことではない。技術を活用すれば、現状社員にどういうスキルがあって、どういうスキルが足りないのかを見極めることができるし、社員が必要なスキルを取得する助けにもなる。

――今いる社員のスキルアップを図るには。

企業はかつて社員に一方的に何かを学ばせてきた。だが、今必要なのは社員に学ぶことを与えるだけではなく、社員から学びたいことを引き出すことだ。多くの社員は、すでにいろいろなことを意欲的に個々に学んでいる。

企業自らが、社員が学べるプラットフォームを作り、社員が学んだことを共有したり、学びたいことがあれば、そこから社内外の教材にアクセスできるようにすれば、その効果は大きいのではないか。そうすれば、社員がどのようなスキルを得ているのかを把握することもできる。

従業員が自ら得意なことを教える仕組みも

――グーグルの「20%ルール(仕事時間の20%を好きなことに使える)」のようなものですか。


フランク・リチャルディ(Frank Ricciardi)/米ドレクセル大学卒(金融、経済学専攻)。アクセンチュアなどを経て、2005年3月にコーナーストーンに入社。現職前は、香港をベースに5年間、コーナーストーンの日本とアジア・パシフィック事業を統括していた。現在は、チーフ・カスタマー・オフィサーとして、グローバルの顧客戦略の責務を担う(撮影:今井康一)

たとえば、コーナーストーンでは、月に1回「デベロップメントデイ」と呼ぶ自己トレーニング日を設けている。この日は、好きなことを学んだり、訓練を受けたりできる。従業員が自ら得意なことを教えることも可能だ。

これがなぜ大事かというと、1つは社員が積極的にモノを学ぶ企業カルチャーを作りあげられること。もう1つは、ほかの人とのインタラクション(相互作用)があることだ。将来の学びというのは、教科書からだけではなく、人との交流から得るものになる。

――人事担当者はどういうスキルを身に付けるべきでしょう。

まずはテクノロジーに精通している必要がある。プログラミングのスキルが必要だというわけでなく、テクノロジーを使ってどんなことができるかを知っておくべきだ。具体的に言えば、分析ツールを使いこなせないといけない。データを使って、それぞれの社員にとってベストな決断を下さないとならない。多くの人は、ビッグデータや人工知能(AI)が人事の仕事を奪うと考えているが、それは違うと思う。

それどころか、そうした技術によって人事の仕事はより重要になる。AIなどを利用して、より迅速かつ適切に社員の能力を見極めて、管理しなければいけない。そういう意味では、経営者的な視点も必要になるだろう。

――経営者に求められる資質も変わりますね。

新たなリーダーの形が必要だろう。リーダーシップはこの20年間で大きく変わった。かつては、トップの意向に誰もが従わなければいけなかったが、それがそれぞれ機能や専門に合わせたリーダーが必要とされるようになり、今は組織の一番下で社員を鼓舞してやる気を引き出し、それぞれの価値を引き上げるように支えるのがリーダーの役割になった。企業や業界、国の枠を超えて考えられるようなスキルも必要になってきている。

「同じ社内にいない人」を管理する能力も欠かせない。自分は米国にいたとしても、社員は世界中にいて、たとえば米国と日本ではカルチャーも考え方も異なる。それをお互い妥協させるのではなく、互いの違いや考えを学ばせて、納得できる答えを導きだせなければ。

若い社員を鼓舞し続けるには

――日本企業は変革することが苦手です。

日本企業はこれまで日本を中心に据え、伝統的な経営を続けてきたが、変革を迫られているのは変わらない。変革にはイノベーションが必要だが、日本にいるだけではイノベーションは起きない。今の日本企業に必要なのは、生き残るには変化が必要だという考えで、それには伝統的かつ日本特有の人事の在り方を見直さなければいけない。

日立製作所はこの点で優れている。伝統的な企業で多くの子会社を抱えているが、将来的に子会社も含めて「日立」として生き残っていく場合、何をする必要があるか、どんなスキルがあるかを見極めた。子会社レベルの採算ではなく、会社全体としてどうなるべきかを考えたわけだ。そして、伝統的な日本的人事ではなく、グローバルレベルで人材を管理するのには何が必要かというところにたどり着いた。

――若い世代には、「年数回の評価査定」ではなく、その都度フィードバックをするのが大切だとも話していますね。

社員の査定については、世界では現状二極化している傾向がある。「もう査定はやらない」という企業もあるし、より伝統的な年数回の査定を行っている会社もある。

コーナーストーンは査定を行っているけれど、社員に対してその都度スマホを使ってフィードバックをする仕組みもある。たとえば誰かの仕事に対して「バッジ」をあげることができて、それをほかの社員が見たり、コメントしたりもできる。フェイスブックの「いいね!」みたいなものだ。それを見たほかの社員が「今日はバッジもらっていたね」という具合になれば、「自分の仕事を誰かが見ている」ことがわかる。

これは、ゲーミフィケーションのようなもので、ためたバッジは査定のときに考慮される。査定する上司からすると、どういう仕事でバッジを受けて、どういうフィードバックを得ているのかというのを確認することができるわけだ。

デジタル時代に幸せになるには

――その都度声をかけたり、評価するのは日本人の得意とするところではないかもしれません。

アメリカでは、上司がきちんとほめないと、会社を辞めてしまうということもある。海外の大学や企業に勤めた人はこういう習慣に慣れてくるし、今度どんどんそういう人が増えてくるかもしれない。日本企業も伝統的な人事のやり方や、社員同士の関係性を見直さないと。

――個人レベルで言えば、将来どんなスキルがあれば生き残れるのか気になります。

自分のキャリアを自らコントロールできる人が、デジタルエコノミーの中で「survive=生き残る」のではなく、「thrive=大きく成長する」ことができるだろう。誰しも幸せになりたいと考えていると思うが、幸せになるにはどうしたらいいか、さらに、それをデジタル時代に当てはめた場合、どういうキャリアになるのかを考えるべきだろう。

――スキルを身に付けるにはスクールに通わなくては、と考えがちですが。

グーグルこそ将来の学校だ。必要な情報はネットを通じて身に付ければいい。大事なのは、どんなコースを修了したかではなく、そのスキルでどんなことをしてきたか、だ。それを示せるようにならなければいけない。