これまでタミフル、イナビルが中心だったインフルエンザ薬に画期的な新薬が登場する(写真左は共同通信、右が第一三共)

「売り上げは10億ドルにしたい」

塩野義製薬の手代木(てしろぎ)功社長は、インフルエンザ新治療薬「ゾフルーザ」に寄せる期待の大きさを隠さない。「ブロックバスター」と呼ばれる年商10億ドル規模の大型新薬に育てる意欲は満々だ。

ゾフルーザは2月23日、国に承認された。画期的な医薬品などの審査を早める「先駆け審査指定制度」での医薬品承認第1号だ。発売は5月を見込む。

ウイルスの増殖自体を抑制

インフルエンザには四つの先発薬がある。ウイルスが細胞から細胞に移動して拡散するのを止める先発薬と違い、ゾフルーザはウイルスの遺伝子に働きかけ細胞内での増殖自体を抑制する。ウイルスの早期の減少など、先発薬に対し効能で優位に立つ。


タミフルは1日2回5日間服用しなければならないが、ゾフルーザは1日1回で済む。同じく1日1回で済むイナビルは吸引薬ゆえ、小児や高齢者などには使い方が難しい。利便性にも優れるゾフルーザが医師や患者を引き付け、先発薬を追い抜く可能性は高いだろう。

塩野義は2017年度も過去最高の営業利益1135億円を見込む。営業利益率は33%を想定し、製薬業界屈指の収益力を誇る。

その原動力は、自社創薬の抗HIV薬群の海外売り上げに応じたロイヤルティ収入だ。今期は300億円増やし、年1000億円の大台乗せがほぼ確実だ。

塩野義には、欧米市場で自前の営業部隊が薬を売りさばく力はない。その弱点をメガファーマの手を借りることで補っている。これが塩野義流「勝利の方程式」だ。抗HIV薬では英グラクソ・スミスクラインなどとの提携が奏功した。

一方で、高脂血症薬「クレストール」は、特許切れで後発薬による侵食を受け、販売が急落。今期の国内売上高は1割減となる。薬価制度の抜本改革や薬価引き下げで、来期以降は国内環境がさらに厳しくなる。

海外市場はライバルのロシュに任せる

国内テコ入れに、ゾフルーザ発売はまさに渡りに船だ。ただ、インフルエンザ薬市場は最大の日本でも推定500億円程度。塩野義の視線の先には、伸びしろの大きい海外市場がある。

欧米ではインフルエンザ薬はまだ十分に浸透していない。ただ、今年は米国でインフルエンザが流行し重症化、死亡例も増えるなど、新薬が受け入れられる素地はでき始めている。

カギを握るのは、スイスのロシュとの提携だ。日本と台湾を除く世界での開発・販売は同社が担う。医薬品世界2位でタミフルを開発した企業だけに、この市場に対する経験も豊富だ。


当記事は「週刊東洋経済」3月10日号 <3月5日発売>からの転載記事です

ロシュはなぜ敵に塩を送るのか。実は、タミフルは特許切れを迎え、今夏に日本で後発薬が初参入する。新たな収益源を確保したいロシュにも、塩野義との提携は魅力的だった。塩野義が最重要視する米国では、ロシュが今年中に承認申請をすることで両社は合意済みだ。

塩野義は勝利の方程式を再現できるか。日本発の新薬は世界攻略の出発点に立ったばかりだ。