「私は、大阪男が大好きだ」

そう堂々と言ってのけるのは、大阪で生まれ育ち、数々の大阪男と浮名を流してきた女・梓。

日本第2の都市である大阪には、球団にJリーグのクラブはもちろん、大企業の本社がいくつもある。

それに比例して、良い男もたくさんいるらしい。

だが、彼らは皆とにかく個性的との噂もある…。

梓が33歳で結婚するまでに出会ってきた、アホだけど愛すべき大阪男たち。その生態を赤裸々に語ってもらおう。





―梓、25歳の春―

「起業家さんって、普段お会いすることがないから是非、お話を聞きたいわ」

大阪・梅田の『ザ・リッツ・カールトン大阪』の披露宴会場で、梓は素直な気持ちを伝えた。

梓の目の前に立っているのは、伊藤篤人(27歳)。大阪で新進気鋭の若手企業家として最近よく名前を聞く男だ。

今日は学生主催のイベントが開かれており、篤人はこのイベントのゲストとして招かれているらしい。

梓はそんな男から突然声をかけられ、嬉しさと同時に戸惑いを感じていた。

藤原梓。大阪の北摂、豊中市出身で現在は中之島の広告代理店で契約社員として勤務する25歳。

母親と同じように幼稚園から帝塚山に入り、そのまま大学へと進んだ、いわゆる温室育ちの女。

広告代理店という華やかな世界でも物おじせずに、誰とでも対等に話ができる性格を気に入られることが多い。

声をかけてきた篤人も、そんな男の一人だろう。

OGとして参加していた梓は、大してすることもなくぼーっと会場内を見渡していた時、篤人が突然目の前に現れたのだ。

「お話を聞きたいわ」と、梓は満面の笑みで言ったものの、篤人の顔を見ようとしても視線はすぐに外れてしまう。

―これ、シルク?サテン?この青、なんて言うんやろ…?

梓の目は、篤人のファッションにくぎ付けになっているのだ。光沢のある生地に、幾何学柄のシャツに細身のサファイヤブルーのパンツという、そのド派手なファッションに。

―めっちゃ派手やな〜。

そんな単純な感想しかでてこないほど、篤人はとにかく目立っていた。

「梓ちゃん、このあと時間があれば下のラウンジでお茶せえへん?」

ストレートな誘い。顔も悪くない。

ファッションこそ気になるものの、そこに目を瞑れば断る理由なんてなかった。


この男、アリかナシか!?


“恋はいつだって予想もせずにはじまるもの”



篤人は脱毛サロンをメインとした、エステティックサロンやリラクゼーションサロンを大阪と神戸で数店舗運営する会社の社長で、学生起業家として業界では名が通った男だった。

ラウンジで30分ほどお互いの自己紹介などの雑談を交わして、梓の目が篤人のファッションにも慣れてきた頃、彼がポケットからあるものを取り出した。

「豊中のご自宅まで、お送りしましょか?」

彼の右手では、フェラーリのキーが揺れている。

「え、でもそんな悪いんで、いいですよ」

一度は断るが、篤人は「遠慮せんといて」と眩しいほど白い歯を見せながら、笑顔を向けてくる。

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

フェラーリに乗ってみたいという気持ちもあったが、このまま篤人と別れるのも少しだけ名残惜しい。そんな複雑な女心で、梓は承諾した。

篤人と並んでエントランスへ向かうと、ロータリーにはピカピカに磨かれた真っ赤なフェラーリが、存在感を放っていた。

ヴォウンヴォウウン、ヴォウオオオオン。

フェラーリは、豪快な音をたてている。

「さ、どうぞ」

梓は、すでに快適な空調に整えられている車内へと促される。

「梓ちゃん、良かったら今度、お食事でもどうやろう?」

自宅へ向かう途中、少しだけ緊張した表情で篤人が言った。その様子に、梓は思いがけず心を掴まれる。

―でも、いつもこんな服装なんかな…。

だが、こんなハイスペ男をこれだけで斬り捨てるのは勿体ない。

「はい、喜んで」

きゅっと口角を上げて、梓が一番自信のある笑顔で答える。

ちょうどその時、自宅前で車が停まった。



1週間後の日曜日。

篤人が待ち合わせに指定したのは、多くの人で賑わう心斎橋OPA前だった。

向かいの大丸からは雑誌から抜け出したような上品な家族連れが颯爽と信号を渡り、御堂筋の花壇には外国人と日本人のカップルが何やら楽しげに笑い合っている。

待ち合わせとして特に人気のスポットで、学生時代から数えると、何度ここで待ち合わせをしたことだろう。

10分前に到着した梓は、篤人は地下鉄の駅から上がってくるのか、それとも駐車場から歩いてくるのかと、彼の登場を想像しながら少し浮かれた気分で待っていた。

そして、梓がスマホを見ながら時間をつぶしている時だった。

ヴォウンヴォウウン、ヴォウオオオオン。

「梓ちゃーん!」

聞き覚えのある低い音と、自分の名前を呼ぶ声に、梓の身体はぴくりと反応する。

―え、え、まさか。え、こんなところ車で入ってくるわけないよね?

恐る恐る、いや覚悟を決めて、フーッと一息、深呼吸してから振り返ると…。

真っ赤なフェラーリから降りてきたのは、光沢あるテロンテロンの白系ストライプのシャツに、体のラインがハッキリとわかるスキニー赤パンツの篤人。

手元はギラギラと輝くダイヤ入りの黒のHUBLOT、足元はエナメル素材の白いローファー、ちなみにちらっと覗くソックスも赤色だ。

ド派手な紅白男に、道行く人がざわつく。

地方から遊びに来たであろう家族連れも、大学生同士であろうカップルも、上品そうなファミリーも真っ赤なフェラーリの横に立つ紅白男に注目する。

6車線ある御堂筋で、端の車線から見てもハッキリわかるだろう目立ちぶり。

紅白男は満面の笑みで、梓に手を振っている。


ド派手な男に連れていかれた場所は…?




ー恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

梓は焦って篤人のもとへと走り寄り、挨拶もそこそこに車に乗る。

ーこの男、自分の派手さに自覚なし。

通行人だらけの心斎橋で、停車するたび人目にさらされる。

梓は顔を隠すように下を向き、どうか知り合いに会わないよう、もう祈ることしかできない。

下を向いている理由を篤人に悟られないよう、巧みにギアを操る彼の手元を見つめて「マニュアルってすごいですね、むっちゃ運転うまいですね」なんて褒めてみる。

「20代でフェラーリに乗るのが僕の目標やってんなぁ〜。これは中古だけど、次は新車で黄色のランボルギーニを狙ってるねん」

ー中古かーいっ!

と心の中で突っ込みながらも、少しだけ篤人の無邪気な笑顔が可愛いと感じてしまう。そして少しずつ、真っ赤な篤人に不思議と見慣れてくる。

ふと後部座席に目をやると、篤人のバッグらしきものがあった。

ルイ・ヴィトンのモノグラムのクラッチバッグだ。篤人のファッションから考えるとクラッチバッグではなく、もはやセカンドバッグと呼んだ方がしっくりくる。

そんな篤人が向かったのはまたもや『ザ・リッツ・カールトン大阪』。どうやら起業家の成金タイプは、このホテルで顏が効くことが一番のステータスのようだ。

ロータリーに車を停めると、ベルボーイが小走りでやってくる。

「伊藤様、いつもありがとうございます」

篤人は笑顔で手を振った。

それから5階の中華『香桃』に到着すると、点心のランチコースをオーダー。

「ここのお店はマンゴープリンが一番美味しいから」と、コースに付いてくる杏仁豆腐には手をつけず、マンゴープリンをオーダーする篤人。いちいち贅沢な男だ。

ランチを済ませて1階のラウンジに移動すると、篤人は先日と同じように少し緊張した表情でいきなり口を開いた。

「あの、2回目で突然なんやけど付き合ってくれませんか?梓ちゃんにひと目ぼれしちゃったみたいで」

「ええ!?」

突然の告白に、梓は戸惑う。

「こういうのはタイミングやと思うねん」

ーうーん、、服装やら車やら何かと気になるところが多いけど…。中身は真面目でいい人っぽいけど…。

もう一度、篤人の全身をチラッとチェックする。

ー人は外見じゃないし、服装ぐらい変えていけるかな?

梓の中で、大きな葛藤が巻き起こる。

友達に紹介できるのか、この人と並んで歩けるか……。

瞬時に頭を巡らせて、出した答えはこれだった。

「では、少しずつ距離を縮めていく方向で…」

すると篤人はわかりやすくパッと明るい表情になった。子供みたいに無邪気に笑う彼に、梓もつられてクスッと笑ってしまう。

服装くらい、変えられる。

そう思っていた梓だったが、この篤人という男は、さらに強烈なエピソードを持っているなんて、25歳の梓は想像さえしていないのだった。

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次週は篤人の驚愕のクローゼットの中身に、女性問題発覚!?