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今月のテーマ

#04 CES 2018



世界最大級のコンシュマー・エレクトロニクス・ショー(=CES)の主役はもちろん家電なのだが、ここ数年は、自動運転車やコネクテッド・カーが跋扈し、モーターショーと見まごう光景が繰り広げられている。自動車メーカーや部品メーカーのみならず、サービサーも含めて、どのようなモビリティの未来を切り拓こうとしているのだろうか?

自動化、コネクテッド、電化、シェアリングがクルマの未来を切り拓く



何もない乾いた砂漠に、突如、築かれたカジノの町ラスベガスに、年に一度、コンシュマー・エレクトロニクス関係者が集う巨大イベント「CES(=Consumer Electronics Show」が開催される。

来場者を18歳以上の業界関係者に絞っているにもかかわらず、わずか一週間の会期中に、世界140カ国以上から人々が訪れ、メディアやブロガーの来場者数も7000人を越える。2017年の実績で18万4000人以上、2018年の来場者数は未発表ながら、20万人を越えたとも噂されていた。

CESにおける自動車の歴史を繙くと、2012年にアウディがドイツ車メーカーとして初めてCESに乗り込んできて、自動駐車や自動運転のデモを披露して以降、自動車メーカーの存在感が高まった。

ちょうどネバダ州で自動運転に関する法律がスタートし、グーグルのデモカーが公道を走り出した頃だ。アメリカ車メーカーはもちろん、ドイツ、日本、韓国といった国々の自動車メーカーが出展し、ボッシュ、コンティネンタル、ヴァレオ、デンソー、アイシンといった大手サプライヤーも揃い踏みだ。さらに、NVIDIAのようなCESの常連企業や、中国検索エンジン大手の百度(バイドゥ)までもが、自動運転の分野で名乗りを挙げる。

NVIDIAのCEOであるジェンスンファン氏による基調講演に、フォルクスワーゲン・ブランドのCEOであるヘルベルト・ディース博士がサプライズで登壇。EV専用モデルに自動運転機能を搭載。

自動運転車を制御するソフトを開示して、開発環境を提供するアポロ計画の最新版「2.0」を発表。自動車大手、大手サプライヤー、IT企業など、全50社が参加。2020年の実用化を目指す。

日立オートモーティブ・テクノロジーズとクラリオンが共同開発した自動駐車のデモ。大型駐車場ではインフラと協調し、自宅では学習機能を使う。手頃な価格帯で自動駐車の実現を目指す。

毎年、バズワードが生まれるのもCESの習わしだが、今年は☆Maas(=Mobility as a Servicer)である。Maasのなかでも特筆すべきは、トヨタが記者会見で発表した「e-パレット コンセプト」である。”自動運転付きEV版ハイエース”と片付けるのは性急だ。自由に楽しく移動できるモビリティ社会を実現するために、より良いクルマを作るだけではなく、より使いやすいサービスを提供し、仲間の輪を広げることまで視野に入れているのだ。

ホンダは、パワープロダクツ、二輪、ロボットといったホンダの強みをまとめ、ロボット時代のためのプラットフォームを提案した。AIと脱着可能なバッテリパックの搭載が注目の技術だ。

初っ端から驚かされたのは、彗星のごとく登場した新興自動車メーカーの「Byton」である。元BMWのCarsten Breitfeld氏(CEO)と、元インフィニティ取締役のDaniel Kirchert氏(社長)という共同経営者によって設立されたEVスタートアップだ。セダンとSUVを生産し、中国・欧・米にて、4万5000ドルで販売する。iPhone Xと類似の顔認識によって個別認証をし、Alexaのボイスコマンドでスケジュール管理や買い物などもできる。独自のコネクテッドサービスを搭載し、5G対応はもちろん、セキュリティも万全と胸を張る。

BYTON共同経営者は、元BMWのCarsten Breitfeld氏と、元インフィニティ取締役のDaniel Kirchert氏。4850×1940×1650mmのボディサイズで、巡航距離は400kmと520kmの2種。

☆MaaS:モビリティを“サービス” としてワンストップで提供するプラットフォーム。主にライドシェアやカーシェアを指す。

自動車メーカーからモビリティ・サービサーへの脱皮を宣言したトヨタ



最大のポイントは、お膝元の東京モーターショーに登壇しなかった豊田章男社長が、CESの記者発表では自ら壇上に上がり、“モビリティサービス(MaaS)専用次世代電気自動車(EV)”の概念を延々と語ったことだ。

「世間では『三代目が会社を潰す』と囁きますが、私の代でそうならないためにも、自動車メーカーからモビリティ・カンパニーへと変革することを決意しました。ライバルには、自動車メーカーのみならず、Google、Apple、FecebookといったIT企業も含まれます」と、章男社長は言う。

トヨタは現在、90か国以上で37種の電動モビリティを提供し、2020年までには10種以上のEVをグローバルで展開予定。2025年までに、トヨタとレクサスの全車種に電動モデルを設定する方針だ。

実はトヨタも、遡れば自動織機という織物の機械を作る会社が前身だった。そうした決意の上で考えられたのが、今回発表された「e-パレット コンセプト」であり、自動運転やシェアリングといったモビリティ・サービスの屋台骨となるプラットフォームなのだ。

トヨタ自身は信頼おけるハードウェア製造会社としての役割を担うと共に、保険、車載決済システム、ソフトウエアの更新、サイバーセキュリティーといったモビリティ・サービスを便利にするために欠かせないプラットフォーム(=基盤)を提供する。

トヨタが開発した車両制御インターフェースを開示し、デベロッパーが開発した自動運転を搭載できる。トヨタ独自の高度安全運転支援が連携する。サイバーセキュリティ対策も整う。

CESの会場では“コネクティビティ”という言葉がバズワード化していたほどだが、それでもあえてトヨタが「e-パレット コンセプト」を提案する理由があるはずだ。シリコンバレーに拠点を置くトヨタ・リサーチ・インスティチュートの所長を務めるギル・プラット氏に訊いてみた。

「“ガーディアン”=人間の運転をサポートするテクノロジーというトヨタ独自の考え方は、他社によって開発された自動運転の開発キットを安全にガイドするという考え方にも応用できます。人やモノが動くことをひとつのパッケージとして捉えると、人間はもっとクルマの中で自由になれます。『e-パレット コンセプト』には、そうした時代に備えたモビリティ・サービスのためのプラットフォームが搭載されています」

TRIの所長を務めるギル・プラット氏は、人間の運転を助ける”ガーディアン”としての役割を強調。コネクテッド・カーと自動運転の技術を搭載した「e-パレット コンセプト」にも適応。

そのために、クルマと通信プラットフォーム、ビッグデータを貯めるデータセンタ、車両にアクセスできる権利を与えるAPIをひとつのパッケージとして提供する方針だ。1台のクルマがオンデマンド・バスや“リアルなメルカリ”のような移動型ショーケースに、移動式ホテルに……と、自由自在にモビリティ・サービスが提供される世界が実現するなんて、ワクワクする。

従来の自動車メーカーの視点から抜け出して、ユーザー視点から快適なモビリティ・サービスを作るための枠組みを提供すると宣言。Uber、Amazon、ピザ・ハットといった多様な業種と協業。

高級オーディオ・メーカーが描く、

コネクテッド・カーの未来像



「ハーマン・カードン」「JBL」「AKG」などの高級ブランドを傘下に収める高級オーディオのイメージが強いハーマンだが、実は売上高の半分以上が自動車分野というから驚きだ。

ぱっと目に入るのは、スイスの研究開発会社リンスピードと共同で開発した完全自動運転のコンセプト「SNAP」である。自動車メーカーやMaaSプロバイダー向けに開発された自動運転のプラットフォーム「DRVLINE」やスマートアンテナを搭載しており、キャビンスペースは着せ替えが可能だ。車内に入ると、ロボットに迎えられて、席に座って網膜認証をすると、タッチパネルに自分の名前が表示されて、音楽や表示される画像などをシートごとに操作できる。





コネクテッド・カーと自動運転に必要な技術を搭載したコンセプト。NPXとハーマンが共同で開発したスマートアンテナに加えて、ZF、SAP、TomTom、イスラエルのスタートアップなどが共同開発。

ボーズも、音響技術を基盤とした車載テクノロジーの領域でも力を発揮する。今年の目玉は、「ClearVoice」と呼ばれる車載音声コントロール・システムだ。ボーズが得意とする音響技術を利用して、音声入出力時に車内バックグラウンド・ノイズを減らすことにより、ボイスコマンドや携帯で通話するときの人間の声の明瞭性を向上させることができる。

初めにiPhoneのSiriを使ってメッセージを打つデモを行ったところ、ナビや音楽のノイズがある状態でも、クリア・ボイスを起動すると明らかに音声認識の精度が高まる。ハンズフリーで電話に出るときは、ヘッドレストに内蔵されたスピーカーから相手の声が聞こえて、聞き取りやすい。このとき、音楽がそのまま流れているので、シーンとした室内でハンズフリーで電話するときと比べて、同乗している側も気分が楽だ。

ナビやオーディオからの音声はもちろん、反響音や車外から侵入するバックグランドノイズを検知して、人間の声の集音性を向上させることで、車内でボイスコマンドを使いやすくする。



CESの会場で目にしたモビリティの変革は、あまりにも急速で、あまりにも大きい。すべてを語り尽くすには、限られた紙幅ではとても足りない。しかしながら、私たちの身近な自動車が、モビリティ・サービスへと変わり、より使いやすく、最適化されて提供される動きは着実に起こっている。トヨタに限らず、フォルクスワーゲンやフォードといった欧米の巨大自動車メーカーにも共通する変化だ。

カレンダーや生体情報を元に、GPSの設定、音楽体験、快適な室温の提供など、”個別最適された快適性”を提供する。最新のOLED製ルーフに投影される画像で最新のビジュアル体験も可能。

しかしながら、自動車メーカーの活躍の場がなくなるわけではない。信頼おけるハードウェア・メーカーであることが自動車メーカーの価値である点はかわらない。そして、その上に載る便利なサービスを、誰もが広く開発していく時代になるのだ。

川端由美(かわばたゆみ):自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。。International Engine of the Year選考委員なども務める。

※『デジモノステーション』2018年4月号より抜粋。

text川端由美