高級な宮崎の地鶏を安く提供することで知られている地鶏居酒屋チェーン「塚田農場」が、45ヶ月連続となる既存店の売上減に苦しんでいます。一方で、その打開策として、佐藤可士和氏にプロデュースを依頼した新業態「焼鳥つかだ」で起死回生を狙っていることも報道され、復活への道を手探りで進んでいるようにも見えます。なぜ塚田農場は、ここまで隆盛を極め、また売上をここまで落としてしまったのか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、塚田農場のこれまでの軌跡と、新業態の期待感までも鋭く考察しています。

45ヶ月連続で既存店売上が減少。塚田農場は、新ブランド「焼鳥つかだ」で起死回生となるのか?

地鶏居酒屋チェーン「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーは、2014年5月から直近の18年1月まで、45ヶ月連続で既存店売上が減っている。既存店とは、オープンから13ヶ月以上経過した店舗を指す。

塚田農場」はエー・ピーカンパニーの国内店舗数198店のうち149店と、4分の3を占める主力業態である。この「塚田農場」の不振が全社の業績に響いており、これまでは新規出店によって既存店の売上減をカバーして成長を遂げてきたが、昨年7月以降は全店売上高も減少に転じ、経営危機が迫っていた。

今年1月の既存店の売上高は前年同月比9.5%減、客数は9.0%減、客単価0.9%減で、売上と客数は10%近く落ち込み、単価も低落と全くいいところがない。しかしリピート率は55.7%と相変わらず高いことから、太いファンが付いている強みも浮かび上がってくる。

塚田農場」の店舗では、どこにもないユニークな創作料理を次々に投入するなど、決して無策だったのではなく、太いファンに支えられ、月に1万食売れる「加藤えのき 月見ステーキ」のようなヒット商品も生まれたが、それでも地滑り的な売上減が止まらない状況にある。

地鶏ブームを巻き起こした立役者

同社は2004年東京都八王子市に出店した「わが家 八王子店」(既に閉店)によって地鶏居酒屋に進出。06年には宮崎県日南市に自社養鶏場を建設し、「みやざき地頭鶏」の生産を開始した。翌07年より「宮崎県日南市 塚田農場」ブランドの出店を八王子市からスタートして、全国に地鶏ブームを巻き起こした。

自社農場、提携農場は今では宮崎県日向市、北海道新得町、鹿児島県霧島市などにも拡大。現在では、「塚田農場」は「宮崎県日南市・日向市 塚田農場」、「北海道シントク町 塚田農場」、「鹿児島県霧島市 塚田農場」の総称となっている。

2010年前後の「塚田農場」は、出店すれば全国どこもかしこも毎日満席というずば抜けた繁盛ぶりで、居酒屋チェーンが軒並み苦戦する中で圧倒的に成功。やや遅れてブレイクした鮮魚居酒屋「磯丸水産」と共に、総合居酒屋から専門居酒屋へと、居酒屋のビジネスモデルの転換を先導する旗頭と目された。

地鶏ブームに乗って、エー・ピーカンパニーは12年9月、「塚田農場」を出店してからわずか5年あまりで東証一部への上場を果たしている。

模倣されたサービス、奪われた顧客

塚田農場」の成功要因は、自社農場によってメイン食材である「みやざき地頭鶏」を飼育し、流通を簡素化して中間マージンを省き、これまで庶民の手が届かなかった高額な地鶏を、こなれた価格で提供したことにある。加工工場も宮崎県内に有して、地元に雇用を創出。また、地元の契約農家から高品質な農作物を仕入れて店舗で提供したため、今で言うところの地方創成に貢献する姿勢が消費者に支持された。

農業と農産物加工業、飲食業を一体化した生販直結の方法論により、農業経済学者の今村奈良臣・東京大学名誉教授が提唱した「6次産業」理論の体現者とみなされた。農業のあるべき姿を求めて、多くのビジネスパーソンが学びも兼ねて来店した側面がある。

そればかりでなく、サービス面でも来店回数によって位が上がる名刺システムを導入。初来店では主任、2回目で課長、5回目で部長、といったように昇進し、専務、社長、会長にもなれる。人は誰しも、「社長」、「会長」と呼ばれて悪い気はしないものだ。昇進ごとにもらえる特典があり、位が上がれば相応に豪華になる。それが楽しみでリピートする人が続出した。

フロアー係の浴衣の制服もかわいらしく、アルバイトの意見も吸い上げて改善するシステムなので、モチベーションが全般に高くて、接客も良い。たとえば、料理を残した場合に、店員の裁量で別の料理に仕立ててくれたりもする、サプライズがある。

しかしながら、モンテローザが浴衣の制服や名刺システムまで模倣した、地鶏居酒屋「山内農場」を出店して全国に拡大すると、「塚田農場」との混同が起きて顧客が奪われるケースも生じた。

社内の問題としては、急成長したツケとして、店長や料理長の不足が露呈。結果的に接客、料理のレベル低下を招いて、顧客離れを引き起こしてしまったのではないかと考えられる。

新業態を模索するも、続く空回り

一方で、2015年12月、品川駅構内「エキュート品川サウス」に初出店した、「塚田農場」の弁当店は、品川駅の弁当ブランドではトップクラスの売上と高い人気を誇っている。弁当店は、味が評価されて、上野駅、東京駅にも拡大しており、生販直結のビジネスモデルが弁当業態にも有効であることが証明されている。

また、同社は「塚田農場」の既存店が振るわない原因として、顧客単価の3500〜4000円が高額に思われているのではないかと考え、2000円程度と半額に抑えた焼鳥業態を開発。一昨年より、立ち飲みの「やきとりスタンド」、座れる「やきとりスタンダード」として展開を始め、一部の「塚田農場」の店舗が転換されたが、未だ10店に留まっている。

「やきとりスタンド」、「やきとりスタンダード」では、地鶏を使わず、ブロイラーで提供しているが、安くしたからといって必ずしも売上が上がっていない厳しい状況だ。

先日、神奈川県内の「やきとりスタンダード」を訪問したが、着席して10分近くオーダーを取りに来ず放置されたうえに、ようやく注文した焼鳥が一向に提供されないので確認したらオーダーが通ってなかった。やっと出てきた焼鳥は、焼き過ぎで炭化した部分が多く見られた。「日向夏サワー」はかき混ぜず、マドラーもなく提供されるので、シロップが底に沈んで、飲み始めは味がせず、やがて甘過ぎておいしくないという、さんざんな体験に遭った。

立ち飲みでも人懐こく接客が良い、調理に細心の注意を払うエー・ピーカンパニーの店とは到底思えないお粗末さだった。

佐藤可士和プロデュースの新業態で起死回生なるか?

そして同社は、ヒットメーカーで知られるクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏がプロデュースする新業態「焼鳥つかだ」を開発。3月16日、東京・中目黒に1号店をオープンする。

詳細は15日に開催される予定のリブランディング発表会により、エー・ピーカンパニーの米山久社長、佐藤氏の両名より語られるという。新ブランドとして「つかだ」が生まれ、劣化した「塚田農場」の店舗は「つかだ」への転換がはかられる。

中目黒「焼鳥つかだ」は、14年11月より営業していた「塚田農場」の店舗を閉めて改装した。

米山久社長のFacebookより

 

佐藤氏は、消費者に飽きられつつあり、もう4年近くも1店舗あたりの売上が減り続けている「塚田農場」を、リブランディングするミッションで招かれた。宮崎県産地鶏「みやざき地頭鶏」を焼鳥として提供する新しいスタイルの店として、「焼鳥つかだ」を提案する模様だ。

佐藤可士和氏には、「塚田農場」から「やきとりスタンド」、「やきとりスタンダード」への転換が事実上、失敗した後に、どんな手を打ってエー・ピーカンパニーを再生させるかという、たいへんな難題が課せられている。

今治タオルを立て直し、セブンカフェをヒットさせた実績

佐藤氏はクリエイティブディレクターとして、ブランドコンセプト、デザイン、CIなどを手掛けるが、過去にも生産高が5分の1にまで落ちた、愛媛県今治市の地場産業「今治タオル」を立て直した実績があり、業種は違っても地方創成案件のソリューションには自信を持って取り組まれたのではないかと推測する。

また、「ユニクロ」、「楽天市場」のロゴのみならず、昨年には外食大手のDDホールディングスがダイヤモンドダイニングから社名変更した際のロゴデザインも手掛けている。その際には、飲食業に関する知見も得られているので、その経験も生きてくるだろう。

佐藤氏の最も成功したリブランディングの成果に、「セブン-イレブン」の100円コーヒー、「セブンカフェ」がある。「セブン-イレブン」では何度か淹れ立てコーヒーのサービスにチャレンジしては失敗を繰り返していたが、「セブンカフェ」は13年より導入されると大反響を呼び、今や年間10億杯が飲まれるメガヒットとなっている。

「焼鳥つかだ」は佐藤氏にとって初の飲食店プロデュースになるが、「セブンカフェ」のような一発逆転が起きるか。注目される。

「焼鳥つかだ」のコンセプトは「大人への入口」となる模様で、若い人たちに地鶏の良さをアピールする店になりそうだ。地鶏は肉質が硬く、焼鳥に向かないとされてきたが、つくねにするのか、それとも常人には思いつかない妙案があるのか、楽しみだ。

河野俊嗣・宮崎県知事(中)を訪問した、米山久社長(左)、佐藤可士和氏(右)。米山久社長のFacebookより

米山社長のFacebookには、「焼鳥つかだ」の内装と思しき写真、佐藤氏と2人で河野俊嗣宮崎県知事を表敬訪問した際のスリーショットなどが掲載され、期待の高さが伝わってくる。

氏がいかなる魔法をかけるのか。「焼鳥つかだ」のオープンが楽しみでならない。

image by: Trip Adviser(塚田農場 イオンモール幕張新都心店)

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