典型的日本人は大企業で働く「顔のない」サラリーマンか?(撮影:今井康一)

海外のビジネスパーソンは「『出る杭は打たれる』ということわざに日本人の考え方がよく表れている」と教えられることが多い。典型的日本人は大企業で働く「顔のない」サラリーマンであり、特徴のなさが他国に比べて起業の少ない理由だというのだ。当の日本人が自らについて語るときにもよく持ち出される話である。

こういう型にはまった見方は、往々にして正しい理解の妨げとなる。日本では全企業の99%超が中小であり、その経営者たちは他国の起業家と同様の願望を抱いている。

約50万人が大企業から中小に

「2017年版中小企業白書」で経済産業省は起業家に起業した理由を尋ねているが、最も多かったのは「自分の裁量で自由に仕事がしたい」で回答者の半分がそう答えた。次いで多いのが「社会貢献したい」と「経験・技術・知識・資格を生かしたい」だ。

これらの願望は、何も会社オーナーだけのものではない。優秀なビジネスパーソンの中には大企業を辞めて、自らのアイデアを形にできるチャンスの多い中小企業に活躍の場を求める人たちもいる。2015年には約50万人が大企業を辞めて中小企業に転職した。1つの会社に勤め上げることを前提にした日本の終身雇用システムでは相当なリスクが伴う行動なのに、だ。

創業から100年というある中小企業は、ITやマーケティングの専門家を何十人と採用しているが、ほとんどが大企業からの転職組なのだという。上司に何か提案しても、まるで反応がないのにうんざりして転職してきたらしい。

似たような例は、「ショップジャパン」を手掛けるオークローンマーケティングに見て取れる。1993年に日本人と米国人が設立した同社は昨年、500億円強の売上高を計上、従業員数は1022人(2016年2月末時点。うち正社員は481人)に拡大している。最近まで社長を務めていたハリー・アレクサンダー・ヒル氏は、専門的なスキルを持つ40歳以上の転職者を数多く採用してきたと語る。

こうした人たちがオークローンに転職してくる理由とは何だろうか。「『面白い仕事をする最後のチャンスだ』。50代を目前にして、そう自分に問いかけるサラリーマンがたくさんいるということだ」とヒル氏は言う。

このような野心は特に目新しいものではない。英オックスフォード大学のヒュー・ウィタカー教授は、日本の中小企業経営者が好んで使う言葉に「一国一城の主」というものがあることを紹介し、英国の「人の家は城塞である」という言葉になぞらえている。

起業が少ないのは文化のせいではない

英国人ジャーナリストのボブ・ジョンストン氏は1998年の著作『チップに賭けた男たち』で、ソニーやシャープ、キヤノン、カシオ計算機といった世界トップクラスのAV・家電メーカーを創り上げた、強烈に野心的で独創的な男たちの物語を描いた。

「(日本人は誤ってそのように描かれることが多いが)『顔のない人々』が、大胆にリスクを引き受け、海のものとも山のものともつかない新技術に社運を賭けるとは(中略)想像しにくい」と同氏は書いている。

日本の起業が低いレベルにとどまっているのは、文化的な制約が原因なのではない。政府や大企業に責任があるのだ。資金調達できなければ企業は成長できないが、中小企業向け融資の85%では銀行の要求によってオーナーの個人資産が担保に入れられる。担保の評価額が、借入額の上限を自動的に決めているのだ。

他の先進国では、個人が担保として差し出す金額は日本ほど多くはない。日本の個人破産制度も他の先進国に比べると相当に厳しい。状況は改善されつつあるが、起業を阻む障壁は今も厳然とある。