極寒のムーミンの国で「アストンマーティン・ヴァンテージ」に試乗

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ここムーミンの国フィンランドは、零下30度の世界。北極圏に200kmも入ったイヴァロ空港の隣りに寒冷地試験場がある。こんな北極に最も近いコースにやってきたのは、新型アストンマーティン・ヴァンテージの走りを試すためだ。とにかく寒い。

なんで野生のトナカイが出るこんな極端な環境でテストしなければならないのか? と疑問を持ちませんか。僕は最初、首をひねった。僕らジャーナリストは普段は一般道かサーキットで試乗する。けれど、この滑りやすい路面で走行性能を試す意味が、コースを走ってみてわかった。



でも、インプレッションは後で伝えることにして、まずはヴァンテージの外観と性能に触れてみよう。テストセンターの奥に大きな格納庫があって、その中でカモフラージュ付のヴァンテージが私たちを待っていた。

そして車両実験部長でトップガンのマット・ベッカー氏が新型車の秘密を明かしてくれた。同氏は今年の春の販売開始に向けて、ここで最終調整を行なっている。彼はこの1年、-30℃のフィンランドでも、+50℃のデスバレーでも何と2万kmずつテスト走行してきた。



「やはり、ライバルのポルシェとベンツの実験車と同じ距離を走らなければ、顧客が納得できる耐久性と信頼性は得られないんですよね。今回はポルシェ 911をベンチマークにしましたので、ハンドリングは絶対保証できます。50:50の前後重量配分だからとにかくバランスがいいし、V8と8速AT、それに新しく加えたEデフ(電子デフ)の組み合わせは素晴らしい。またデザインも美しい!」と自信満々にいう。

確かに美しい。この写真を見て真っ先にわかるのは、派手な黄色の偽装テープに巻かれていても、新型車のシルエットやプロポーションはとにかく美しいことだ。「最もデザインのバランスが取れた世界一綺麗なスーパーカーだ」という評価は業界では良く耳にする。

でも今回は、デザイン・ディレクターのマレック・ライヒマン氏が、今までのアストンの美しいプロポーションを保ちながら、21世紀にふさわしいアストンの新しい顔に挑んだ。正直なところ、最初は賛否両論の新しいヘッドライトに抵抗があったけど、1日乗っていたらそのルックスに慣れてしまった。こんなノーズがあってもいいと思うようになった。



実はヴァンテージができたのは、DB11があったからだと言えるだろう。というのは、同車が採用しているサスペンションと、ツインターボ4.0LのV8エンジンとZF製8速A/Tは、DB11とほぼ同様のスペック。DB11よりも10cm短いけどね。V8エンジンは、実はメルセデスAMG製で510psと685Nmを叩き出しているので、性能は申し分ない。スロットル・レスポンスが非常にスムーズで速いのには驚いた。

ただ、AMGのアグレッシブな音作りとは対照的に、ヴァンテージはトラックモードでは「ポポポ」とか「カカカ」という音を出すので、よりスポーティで品のいいエキゾーストノートと言えよう。サスは特別にチューニングされていて、ステアリング比もDB11と同じだけど全長が短い分、レスポンスが良くなってターンインが速い。

V8のパワー感と後輪駆動のコーナリングのバランスは抜群にいい。低速で滑りやすい道で走れるからこそ、その走りのできの良さが伝わってくる。



氷上トラックでの走行は、速くても40〜50km/hなので、まるでスローモーションの感覚。この状態でヴァンテージの評価ができる貴重な経験だ。微妙なステアリングの修正、小まめなアクセルワークをするように心掛けながら、できる限り雪の壁に刺さらないように気をつける。そういうハンドリングを可能にするのは、新しいコンピュータ制御によるEデフだ。

旧型車には機械式デフだったけど、Eデフを採用していることによって、減速時と加速時にスタビリティを重視し、ターンインではデフをフリーにして旋回しやすくしている。見事だ! トラクション・コントロールがオン状態では、前輪がキュッとコーナーの内側に向けると同時に、後輪が流れないように加速を上手に調整する。

ベッカー氏はさらに説明してくれた。「ブレーキによるトルクベクタリングも力強く働いているおかげで、デフをフリーにして走行できる。そうすると、前後バランスは抜群だし、ノーズが思う通りに素早くターンインしてくれる。これは最もハンドリングの優れたアストンですね」という。

トラクション・コントロールを解除してコースに出ると、20km/hでもドリフトし放題。でも、Eデフのおかげで、修正しやすいし、ドライバーに自信を与えるというか、本当に車と会話ができている。コクピットも当然、上質の本革などを使っていて、スイッチ類が独特で格好いい。シートのサポート性もいいし、視認性も文句なし。



この雪上コースで乗って、1分でわかった。新ヴァンテージのニューフェースは十分迫力があり、音も病みつきになる。でも、何よりも良かったのは、FR車でありながら、アンダーが出にくく、とにかくテールが綺麗に曲がってくれる抜群の旋回性だ。

雪上もいいけど、ぜひとも+20℃の一般道でも乗ってみたい。新ヴァンテージの欠点? ま、確かにあの新ヘッドライトには慣れが必要だけど、1980万円という価格かな。でも、これほど五感をくすぐってくれるスーパースポーツは、さすがアストンの新時代に相応しく刺激的だ。

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