コクヨは帳票に書き込んだ内容をデジタル化し、業務効率化を提案する

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 手書きを自動的にデータに変換する「デジタル文具」が注目されている。人はノート、手帳や、教科書の端、資料の裏といったところにまで文字を書く。通常は用が済めば捨ててしまうこうした情報をデジタル化して効率的に管理することにより、膨大な“手書き”情報の新たな活用の道が拓(ひら)ける。

 米マイクロソフトの「サーフェス」や韓国サムスン電子のスマートフォン「ノート」シリーズなど、市場にはペン付きデバイスの種類が増加している。

 ペンへの力のかけ方で線の太さを変えられ、多彩な色を使ってスマホに精密で複雑な絵を描ける。サムスンのノート8は、画面オフのままメモしたり、ペンでなぞった英文だけ翻訳したりと、新たな機能を追加。ペンはデジタル文具の代表格として、身近な存在になってきた。

新たな知見につながる?
 デザイナーやクリエイター向けにタブレットやペンを展開するワコムは、パソコンやスマホメーカーにペン技術の提供も行っている。

 井出信孝ワコム取締役エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)は「ずっと、プロ以外にも使ってほしいと思っていた」とした上で、「やっとITの巨人たちが手書きの可能性に気づいた」とにやりと笑う。

 IT大手が手書きに注目し始めた理由は想像にかたくない。手書き情報をキーボード入力する手間を減らし、業務を効率化できる。

 自社製品によるオフィスの生産性向上をアピールしたいマイクロソフトにとって、十分に使い勝手が良ければペンを取り入れるのは自然な流れだ。技術の進化で、そのタイミングが来た。

 米グーグルは人が生み出すあらゆる情報を収集・整理し、それを人に戻してビジネスに役立てているが、手書きデータは膨大な未利用の情報を含む宝の山だ。

 井出取締役EVPは「手書きはアイデアを出したり、二つのアイデアをぶつけたり、考えを整理したり、自分にベクトルを向けて考える時に有効だ」という。

 さまざまな発明や創造がちょっとした書き込みから生まれてきた。発明・創造の瞬間に近い情報の収集は、新たな知見を生むかもしれない。

 紙に書いたあらゆる情報をデータ化できれば、集まる情報は爆発的に増え、情報の利用先も広がる。その足がかりとなる商品が、複数のメーカーから市場に登場している。例えば、ワコムのデジタル文具「バンブー」シリーズの一つは、ペンと紙を挟むクリップボード状の本体などで構成する。

 ペンはコイルを内蔵し、周りに磁界を発生させる。ペンでボード上の紙に文字などを書くと、本体内の平面状センサーがペンの通り道を検知してデータ化する。

 このデータをペアリングしたスマホなどの端末に移す。端末内でテキストへの変換や、書いた順番に沿って分割保存するといった編集もできる。

在宅介護で効果発揮
 コクヨは帳票にデジタル文具の技術を取り入れ、在宅介護の現場で効果を発揮している。業務内容に合わせた帳票を用意し、帳票のどこに書き込まれたかによって、データを分類して保存する仕組み。

 同社によると、あるホームヘルパーステーションでは、手書き内容をキーボード入力する従来方法に比べ、記録報告書の作成時間を4分の1に削減した。

 最初からタブレット端末に入力すれば簡単そうだが、コクヨの事業開発センターネットソリューション事業部事業企画グループの田中克明課長は「紙はなくせない」と説明する。

 在宅介護には医師や看護師、ヘルパーなどさまざまな人が関わるが、端末に慣れていない人も多い。初期教育に時間とコストがかかるが、転職や退職があると最初からやり直しだ。

 また、医師や看護師、ヘルパーらは患者の側に置いた連絡ノートで情報を共有するため、紙の帳票をノートに貼る方が便利だ。「他にも、役所に持って行く書類など、紙で証拠を残したい用途はある」(田中課長)と指摘する。

選ぶ喜び提供
 デジタル文具の普及には、ペンやその他の製品の種類を増やしていくことが必要だ。文具は趣味や嗜好(しこう)の対象でもあるため、「使った時に違和感があってはならないし、選ぶ喜びも必要」(井出取締役EVP)。他社のデバイスから取り込んだデータとの互換性や、データ活用時のアプリケーション、サービスの拡充も求められる。

 ワコムは2016年に富士通や電子ペーパーの台湾E Ink、韓国サムスン電子、老舗文具ブランドのスイス・モンブランとともに、デジタル文具の普及に向けた「デジタル・ステーショナリー・コンソーシアム」を発足させた。

 100年以上、ペンの製造に携わってきたモンブランが、文具の次の進化に関わる。コクヨもコンソーシアムに協調し、製図用文具ブランドの独ステッドラーなどもデジタル文具の展開を始めた。「コンソーシアムは異種格闘技にしたい」(井出取締役EVP)としており、幅広く参加を募っていく方針だ。

(文=梶原洵子)