トヨタの高級ブランド「レクサス」ですが、どうやら日本国内と海外、特に北米では、ずいぶんとブランドイメージが異なるようで、その一端が映画『ブラックパンサー』での描かれ方にあらわれています。

レクサス車、マーベルヒーローのクルマ

 米・マーベルの最新作『ブラックパンサー』が2018年3月1日(木)、日本でも公開となりました。ひと足先に公開されたアメリカでは、オープニング週末興行収入がアメリカ映画史上第5位となるなど、歴史的なヒットとなっているようです。また映画公開に合わせてレクサスのテレビCMにも登場。『ブラックパンサー』の国民的人気を裏付けるような盛り上がりなのです。


映画『ブラックパンサー』より。ブラックパンサーの専用ヴィークルとして登場するレクサス「LC500」(画像:マーベル)。

 ところでこの映画にレクサス「LC500」が超絶カッコよく登場しているのをご存知でしょうか。劇中では過激なカーチェイスを展開。撮影が行われたのは韓国 釜山市の街中で、坂道が多くアップダウンの激しい繁華街を走り抜ける「LC500」の疾走感、躍動感が伝わってくるシーンが次々に展開されています。

 この映画に登場する「LC500」をベースとした特別仕様車とコンセプトカーは、昨年(2017年)の「SEMAショウ」(米・ラスベガス)にて、大々的にお披露目されていました。

「LC500 Inspiration Series」と題されて出展されていたモデルは、レクサスが15年かけて開発した「Structural Blue」という特殊な塗装技術がポイントで、青色の光を反射させて幻想的で独特の印象の外観を作り出しています。とても手間がかかる塗装のため1日に2台のみの生産とか。劇用車のイメージそのままに、「LC500 Inspiration Series」第一弾として2018年春より限定100台で販売(米国)される予定です。

 一方、「BLACK PANTHER INSPIRED LC」とのネーミングで出展されていたモデルは、こちらも映画には登場しませんが『ブラックパンサー』のコンセプトカーと言えるカスタムモデルです。過激にワイド化されたボディやドアミラーとフロントのホイールアーチ後方にしつらえられたパンサーのかぎ爪、ボンネット全面に大きく描かれた巨大な「ブラックパンサー」のマスクも迫力がありますね。

ブランディングは国内外で異なる?

『ブラックパンサー』に絡んだ2台の「LC」が世界に向けて発表されたのは「SEMAショウ2017」のレクサスブースです。例年日本からもトヨタ、ホンダをはじめ多くの企業が出展する「SEMAショウ」ですが、レクサスも10年前から自社ブースを展開しています。

 筆者(加藤久美子:自動車ライター)は何度か「SEMAショウ」のレクサスブースを取材していますが、最初は日本との雰囲気の違いにかなり驚かされました。日本での優等生的イメージと違っていて、とても情熱的で、時には過激かつ超クールな仕様で来場者を圧倒し、魅了していました。ブースも全体的にとてもフレンドリーで陽気な雰囲気でした。


「SEMAショウ」にて、「LC500 Inspiration Series」(2017年11月、加藤博人撮影)。

 ちなみに、日本では「SEMAショウ」に相当する「東京オートサロン」において、レクサスが公認のカスタムカーを出展したことはありません。自社ブースの出展は過去数回ありましたが、いずれもモータースポーツをテーマとした内容でした。

 レクサスの日本国内販売が正式にスタートしたのは2005(平成17)年(編集部注:それまでは『ウィンダム』の名称で、トヨタが販売した逆輸入モデルが存在します)。アメリカはそれより16年も早い1989(平成元)年で歴史の違いはかなりありますが、現在では日米はもちろん、世界の多くの国々で文句なしの高級車として認められる存在となりました。しかし、公式カスタムモデルなど、メーカーによる「いじられ方」はまだまだ各国ごとに差があるようです。

 とはいえ、そうした状況にも変化の兆しが見られます。

 日本への導入当初はフラグシップの「LS」のイメージが強く、実際、販売車種の価格帯も500万円から600万円台以上が中心となっていました。しかし2011(平成23)年に300万円台から買える「CT」の発売から、続々と400万円台のモデルが登場し、現在では400万円台からのレクサスは「CT」「RX」「HS」「IS」「NX」の計5車種にまで増えました。また、2013年4月以降、トヨタ自動車の「レクサス部門」から独立した「レクサスインターナショナル」という組織が正式に稼働となったことで、商品企画や開発、デザイン、広報・宣伝など、ブランド構築を独自で行う体制もスタートしています。

イメチェン? キーワードは「エモーショナル」

 レクサスインターナショナル広報室は「グローバルなイメージ戦略として2012(平成24)年以降はレクサス車のエモーショナルな走りをアピールするPRを展開しています」といいます。

「スピンドルグリルの採用もこの頃から始まり、デザインイメージの統一化も進められてきました。世界的なデザインイベント『ミラノデザインウィーク』への出展や、日本のどこかで数日だけオープンするプレミアムな野外レストラン『DINING OUT』、室谷選手の活躍でおなじみのエアレースなど、車以外へのサポート活動も積極的に行っており、真のグローバル・プレミアム・ブランドとしての位置を確立すべくさらに進化を続けています」(レクサスインターナショナル広報室)

 2016年1月、「北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)」の会場で「LC500」が発表された際、レクサスのチーフブランディングオフィサーでもあるトヨタ自動車 豊田章男社長が行ったスピーチもまた衝撃的でした。レクサスに「退屈」のイメージがあったことを認め、「レクサスを熱いブランドにする。これからはもう退屈とは言わせない」と語ったのです。2017年には世界統一のスローガンを「AMAZING IN MOTION」から「EXPERIENCE AMAZING」に変更し、「東京モーターショー2017」でのプレゼンでも「エモーショナルなグローバルブランド」への進化をアピールしていたことは記憶に新しいでしょう。


「SEMAショウ」にて、「BLACK PANTHER INSPIRED LC」(2017年11月、加藤博人撮影)。

 ところで、今年の「東京オートサロン」には「LC500」をベースにしたカスタムカーが多数出展されました。リベット止めのオーバーフェンダーをはじめとする過激なカスタムでおなじみのリバティウォークからもLBワークスブランドで「LC」のカスタムモデルが登場し、来場者の注目を集めました。

「エモーショナル」を通り越して、ヤケドしそうに熱すぎるこれらのカスタムカーについて、レクサス本家ではどのように感じているのでしょうか。前述のレクサスインターナショナル広報室に聞いてみたところ、「レクサスブランドとしては、カスタマイズを主体としたアフターマーケットでの展開は積極的には行っていませんが、レクサスの新しいフラグシップモデルである『LC』をベースにカスタマイズを楽しんでくださっていることは、とてもありがたく光栄に感じています」と、やはり優等生的ながらも好意的なコメント。ちょっとほっとしました。