東京湾アクアラインなどの影響でかつての勢いを失った特急「さざなみ」(筆者撮影)

特急列車は、鉄道ネットワークのエースとして各地で活躍を続けている。往年の特別急行列車という豪華さやハレの舞台というイメージはすっかり薄れ、大衆的にはなったけれど、だからこそ主役であり続けているとも言える。

ところが近年、一部の列車は、他の交通機関との競争や沿線の衰退もあって苦戦を強いられ、あるいは撤退を余儀なくされている。今回は、そうした過去の栄光にもかかわらず残念な結果に至っている特急列車の現状を知ることにより、改善策を考えるきっかけになればと思う。

アクアラインに勝てず…

1)「さざなみ」(東京―君津)


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都内から南房総へ向かう優等列車として、準急「内房」や急行「うち房」の伝統を引き継ぎ、1972年7月の総武線東京地下駅乗り入れ開始を期して誕生した。当時最新鋭の183系特急電車を使い、1日8往復(季節運転3往復を含む)、のちに急行全廃とともに本数が増え、「数自慢のエル特急」の呼称通り、週末には1日12往復になったこともあった。

しかし、成田エクスプレスの運行開始にともない、線路容量の関係で総武線ではなく京葉線経由に変わった。これにより東京駅での乗り換えが不便になったこと、県都である千葉駅を経由しなくなったこと、そして東京湾を横断するアクアラインや南房総への高速道路の開通により道路事情が飛躍的に改善されたことで「さざなみ」の優位性は完全に失われてしまった。本数がどんどん削減され、ついに平日は、東京―君津間の通勤ライナー的な運行のみとなってしまったのである。かろうじて、土休日に「新宿さざなみ」が新宿―館山間で2往復運転されているのが救いといえるかもしれない。

所要時間では高速バスの方が速く、運賃と特急料金を足すと割高になる現状では、今後の状況も厳しい。競争力をつけるには一部車両を指定席とする快速列車化を考えた方がいいかもしれない。地元は特急列車の復活を要望しているようだが、応分の負担をするなり、思い切って観光列車を走らせ、鉄道ならではの魅力をアピールするのではないかぎり、残念ながら前途は厳しそうである。

かつては1日5往復が運転されていたこともある特急「あやめ」も完全に廃止となり、佐原観光用に臨時列車が細々と走る程度の成田線(成田・佐原方面)など、千葉県内の特急列車はどこも精彩を欠いている。

一見苦戦、でも外国人に人気

2)「成田エクスプレス(N’EX)」(成田空港―東京など)

千葉県内を走る特急列車で元気そうに見えるのは成田エクスプレス(N’EX)だけかと思いきや、こちらも現実にはなかなか厳しく、不人気だという報道をよく耳にする。


ジャパン・レール・パスが使えることから訪日外国人には引き続き人気の「成田エクスプレス」(筆者撮影)

鉄道に関しては、京成の成田スカイアクセス線の開業以来、速さ、運賃&料金ともに京成スカイライナーの方がお得になった。また、格安高速バスも普及し、とくにコストに敏感なLCC利用者の選択肢にN’EXは入っていない。羽田空港に発着する国際線が多くなっている現状を考えると、N’EXは今後も苦戦を強いられるのではないだろうか。時間帯によっては、かなり空いている列車もある。

しかし、実際に乗ってみると、最近は訪日外国人の姿を車内で見かけることが多く、列車によっては乗客の半数以上が外国人で混雑していることもある。理由の一つは、ジャパン・レール・パスで乗れることであろう。パス利用者なら、追加料金が発生しないN’EXはお得になるからだ。

さらに、東京の地理に不安な外国人にとっては、乗り換えなしで空港から新宿、池袋、横浜方面へ行けるメリットは大きい。車両もシートをはじめ高級感のある優れたもので、グリーン車も連結されているのでビジネスパーソン、とりわけエグゼクティブには愛用者がいる。一般人には不人気で残念な列車であっても、ある程度の固定客がいるかぎり、それほど心配する必要はないのかもしれない。

3)「草津」(上野―長野原草津口)


川原湯温泉駅付近を走る特急「草津」(筆者撮影)

首都圏から手ごろな温泉地へ向かう行楽特急が不振である。とくに、群馬県内の温泉地へ向かう特急は人気がない。上越線の水上へ向かっていた「水上」(かつては「谷川」という愛称だった)は、現在では臨時列車としてわずかな期日に運転されるのみである。

一方、吾妻線に乗り入れる「草津」(かつては「白根」)も1日4往復プラス臨時列車だったのに、いつの間にか平日は2往復となり、長年、万座・鹿沢口行きだったのが手前の長野原草津口行きに短縮された。さらに、特急停車駅だった群馬原町駅と川原湯温泉駅が通過となってしまった。

長野原草津口駅までの所要時間を短くして草津温泉へ向かう観光客に特化する列車となったが、果たしてそれで効果はあるのだろうか? 東京駅や新宿駅から温泉地への直行高速バスが発達している現在、影が薄くなったのは残念ながら事実である。このままジリ貧にならないことを祈るばかりだ。

車両が交代したらどうなる?

4)修善寺行き「踊り子」(東京―修善寺)

歴史ある伊豆の名湯、修善寺温泉へは、古くから東京駅発の直通列車が出ている。現在も特急「踊り子」号のうち伊豆急下田行きに併結される形で、平日2往復、土休日4往復が熱海で分割併合、5両編成で修善寺駅まで走っている。


修善寺駅に到着した特急「踊り子」(左)(筆者撮影)

伊豆急下田行きが10両(グリーン車2両)、修善寺行きが5両(すべて普通車で指定席車3両)という車両編成の差の通り、修善寺行きは特に平日はガラガラのことも多く、閑散としている。車両の構造上、伊豆急下田行きと修善寺行きは通り抜けができないので、伊豆急下田行きにある車内販売は、修善寺行きにはない。どこか冷遇されている感じで不人気なのもやむを得ないのかもしれない。

現在使用中の185系電車は老朽化が進んでいて余命いくばくもない。新しい車両に取り換えられる時期が近づいているのだが、それを機に直通列車が廃止されるのではとの懸念もある。

もっとも、東海道新幹線で三島まで行き、そこで伊豆箱根鉄道に乗り換えれば済む話ではあるが、東京駅で修善寺行きという表示があちこちで見られるのは修善寺温泉にとって宣伝の手段でもあり、それが皆無になれば知名度が下がる懸念もあると地元は気をもんでいる。長年続いている列車であるだけに、なくなるようなことがあれば残念な話だ。

5)「あさぎり」(小田急新宿―御殿場)


小田急ロマンスカーMSEを使用する特急「あさぎり」。3月ダイヤ改正で「ふじさん」に改名する(筆者撮影)

小田急新宿駅から小田急線とJR御殿場線を経由して御殿場まで行く直通特急電車。御殿場線が非電化の時代からディーゼルカーによる直通の準急列車が運転され、半世紀以上の歴史がある。1991年には、小田急がRSE、JR東海が371系という斬新な一部2階建ての車両を導入し、運転区間も沼津まで延長され、人気も上々だった。

しかし、景気が低迷するとともに利用者も減り、2012年3月にはRSEと371系が引退。その後は小田急のMSE(青いロマンスカー)のみの運転になり、運転区間も御殿場止まりに戻ってしまった。

現在、平日は一日3往復、土休日のみ4往復である。小田急線内の乗車率はともかく、御殿場線内の乗車率は低く、ガラガラのことも多い。小田急線とJR線の運賃、特急料金の合算となるため割高でもある。2018年3月のダイヤ改正を期して列車名を「ふじさん」に改名するが、気分を一新して、持ち直してほしいものだ。

個性的な車両だったが…

6)E351系「スーパーあずさ」(新宿―松本)


3月のダイヤ改正で全列車が新型に置き換わるE351系「スーパーあずさ」(写真:tarousite / PIXTA)

1993年にJR中央本線の特急「スーパーあずさ」用に登場し、グッドデザイン賞も受賞した個性的なスタイルの電車。振り子式を採用したが、揺れがひどく、人によっては酔うと嫌う人もいた。独特の形状ゆえ車内では圧迫感を感じることもある。座席背面にはテーブルがなく、肘掛に収納式のテーブルがあるものの小さいため、ちょっと使い勝手が悪かった。観光客のみならずビジネスパーソンの利用も少なからずあったのだが、ノートパソコンが使いづらくて不便だと言う人もいる。

このような状況のE351系は、ほぼ四半世紀にわたる活躍を終え、2018年3月のダイヤ改正では全車両が引退、新しいE353系に取ってかわる。静かで揺れが少なく、座席もインテリアも優れ、コンセントもついているので便利と人気上々の新型車両E353系に乗ってみると、E351系にはもう乗らなくてもいいかなと思ってしまう。ある意味、残念な車両だったのかもしれない。

7)「スーパー北斗」(函館―札幌)

特急列車の進化は高速化の歴史でもある。JR北海道の看板列車のひとつである特急「スーパー北斗」も、かつて同区間の列車名が「おおぞら」であった頃、4時間あまりかかっていた所要時間を短縮し続けてきた。


東室蘭駅付近を走る函館行き「スーパー北斗」(筆者撮影)

国鉄からJR北海道にかわった頃は3時間半、その後、3時間を切り2時間59分で函館―札幌間を走破する列車が登場し、表定速度が在来線最速の時速106kmとして話題になった。しかし、近年の相次ぐ車両トラブルにより減速運転を余儀なくされ、現在、ほとんどの列車が3時間40分台へと後退してしまった。

また、保線状態がよくない区間が散見されるため揺れもひどい上、車両故障やトラブルで運休や遅延が発生することがたびたびある。すべてがJR北海道のせいではなく、やむを得ない事故もあるとはいえ、不安定輸送は鉄道利用を敬遠させることにもなり、マイナスとなっている。

それにしてもJR北海道は、スーパー北斗の速達運行をすっかり諦めてしまったかのようにも思える。北海道新幹線札幌延伸まで、現状のままで済ますつもりだとしたら、これは怠慢ではないだろうか? それくらいだったら、一部で提案されているように倶知安あたりまで早期に(といっても2025年以降の話だが)新幹線の部分開業を行い、長万部あるいは倶知安での特急乗り継ぎにより、結果として所要時間短縮を行うのが最善策かもしれない。

いずれにせよ、北海道の看板特急なのだから、その名に恥じないよう一刻も早く汚名を返上してもらいたいものだ。

いつの間にか3往復に減便

8)「つがる」(青森―秋田)


3往復に減便された特急「つがる」(筆者撮影)

青森―弘前間は、かつては優等列車が頻繁に走っていた。現行の「つがる」以前は、「白鳥」「いなほ」「たざわ」と様々な愛称を掲げた優等列車が2時間に1本は行きかう幹線だった。夕方になるとブルートレイン「日本海」「あけぼの」もあり、この区間では寝台を座席として使う「ヒルネ」と呼ばれる利用も可能で、変化に富んだ列車旅が楽しめたのである。

しかし、いつの間にか「つがる」の本数は削減され、今や1日3往復にすぎない。利用率が芳しくなかったからであろうが、時間帯によってはオールロングシートの701系に乗らなくてはならないと思うと、気が滅入り、足が遠のく区間である。

9)「はやとの風」(吉松―鹿児島中央)


嘉例川駅に到着した「はやとの風」(筆者撮影)

わが世の春を謳歌しているかに思える観光列車。全国いたるところで個性的な車両が走りまわり人気も上々、予約が取りにくい列車もある。そんな中、観光列車王国のJR九州から「はやとの風」が今春のダイヤ改正で毎日の運行を取りやめ、不定期列車とするとの発表があった。

廃止ではないので一安心だ。新ダイヤでは、年間の運転日数は210日。土休日以外では、夏休みなど学校の長期休業期間や観光シーズンには平日の運転もあるが、閑散期の平日は運休となる。もっとも、各地の観光列車の多くは、週末のみ運転なので、今までが特別だったのかもしれない。しかし、観光列車(JR九州では「D&S列車」と呼んでいる)に熱心なJR九州が目玉商品のリストラを行ったことで、各方面に影響を及ぼしそうだ。残念というほかない。

車内で何も買えないのはおかしい!

10)車内販売のない特急列車


観光列車の車内販売。特急では車内販売のない列車も増えた(筆者撮影)

特急列車は長距離移動が多いので、車内での飲食の販売は必須ともいえるし、それが当然のことと長年思われてきた。食堂車が連結されていない特急列車は一段落ちる列車と評価されていた時代もあったのだ。

もっとも、時代の変遷とともに食堂車はないのが当たり前となり、車内販売があれば十分ということになった。ところが、その車内販売もどんどん廃止され、今や飲食物をあらかじめ用意しないと長時間飢えに苦しむ状況が普通になってしまった。

しかし、これは冷静に考えるとおかしなことで、サービスの甚だしい低下である。せめて飲料の自動販売機くらいはあってもいいのではないだろうか?

最近の日経新聞の報道によると、JR北海道の特急「大雪」の車内で沿線自治体などが地元の特産品を販売する取り組みが好調とのことだ。一時的な試行ではあるけれど、2月10日からは特急「サロベツ」の一部区間でも地元産食材を使ったスイーツや乳製品などを販売する。すべて鉄道会社任せにするのではなく、沿線も積極的に協力し、工夫を凝らすことにより列車を魅力あるものとしていけたらよいのではないだろうか。残念な特急列車が減り、乗客も少しずつ戻ってくるのを期待したい。

以上、厳しい状況にある特急列車の実態をリポートしてみたが、積極的に議論することで活性化の取り組みが行われ、それにより乗客が増え、ひいては利便性も向上すればと思う。