神戸、阪急沿線に広がる山の手エリア。そこには、一般人には決して足を踏み入れられぬ世界が広がっている。

華やかでありながらも強固なネットワークと古いしきたりに縛られ、“生まれた家柄で全てが決まる”閉ざされた世界。

そして、そんな彼らのレベルを決めるのはいつだって「出身校」なのだ。

公立校出身者はよそ者扱い、私立大学で幅を利かせられるのは内部進学者のみ-。

神戸に渦巻く学校別ヒエラルキーに翻弄される者たちの人生。その実態を暴いていこう。



【今週の神戸女子】

名前:恵理子(30歳)
出身:兵庫県芦屋市
出身校:甲南女子大学
親の職業:不動産会社経営
家賃:なし(実家暮らし)

「私、“小学校から”甲南なんです」

恵里子はそう言って、自信たっぷりに笑った。それが彼女の自己紹介の、第一声だった。

恵里子は、神戸にある甲南小学校から、甲南女子大学・通称「南女(なんじょ)」までをエスカレーター式で進学した。

「南女」はいわゆる神戸の超お嬢様大学として知られているが、そのことを指摘すると、恵理子は首を横に振る。

「食事会に行くと、大学名を伝えただけで男性にはチヤホヤされますが、それは彼らが内部事情を知らないから。大学から南女に通っても、本当の価値はありません。神戸では、出身校を尋ねるときはまず高校を尋ねるのがご挨拶ですから」

高校を聞けば、どの程度の育ちなのか大抵想像がつくと彼女は語る。

公立高校に通っていると答えた者は、その時点で見下され、部外者扱いをされる。それが神戸なのだ。

そしてその世界において、最も市場価値が高いとされるのは「小学校から甲南」という肩書きだ。

神戸の中のみと言わず、関西地方全体に於いて、そのブランド力はトップに君臨すると言っても過言ではないだろう。

「私たち南女の間では、大学からの進学組…つまり外部生の女の子なんて、鼻で笑われるような存在。男友達が外部生の子と付き合いだしたなんて聞いた日には、嘲笑の嵐です」


内部生>>>外部生。その絶対的なヒエラルキーとは?


グループに入れるのは#内部生だけ


恵理子が大学に入学してまもない頃、はじめて外部生と話した日には衝撃を受けたそうだ。

「外部生から、大学に入ってブランド物をはじめて購入したって聞いて、本当にビックリしました…。私たちが中学生の時にはシャネルのトラベルラインが流行っていて、同級生は全員、制カバンのように持っていたのに…」

それ以外にも、クラスメイトの外部生から「彼氏がBMWに乗っている」と得意げに言われたときは反応に困ってしまったと言う。

内部生にとっては、免許を取って親から初めて買ってもらう車がメルセデスかBMWなのは当たり前で、これらの車が高級車というイメージがそもそもないからだ。

外部生とは決してつるむことのない恵理子。では、彼女の交友関係は一体どのような世界なのだろうか。

「卒業した今でも、集まっているのは芦屋会メンバー。全員が芦屋で生まれ育った、中学時代からの同級生グループです。私が唯一心を許せる友人たちなんです」

芦屋会メンバーでよく訪れるのは、芦屋川沿いにある『Bellini』だ。

彼女たちと集まった後には必ず、Instagramで写真をアップする。そしてハッシュタグに、#南女 #内部生 と書くのがお決まりのルールだ。

ちなみに、恵理子以外の芦屋会メンバーは、誰一人として働いていないそう。十分な小遣いとファミリーカードをもらっているため、働く意味がないからだ。

そんな恵理子自身も、これまで生計のために稼ぐ必要はなく、仕事をするのは暇つぶしや趣味のため。困った時には両親が助けてくれる。




公立校出身者は当然入ることができない華やかな世界。そしてそれは、男女の恋愛の舞台においても同じことが言える。

「神戸では圧倒的に、私学の男女同士が付き合うケースが多いです。だって、公立の子とではあまりに育ちが違いすぎて、まず関わりを持つことがありえないんです」

当然だと言わんばかりの顔でそう語る恵理子にも、高校時代に交際を始めた男性がいた。甲南高校に通っていた、裕太である。

裕太は某大手製薬会社の息子で、彼自身も小学校から甲南組。家庭環境が似ており、ごく自然な流れで付き合うことになったのだ。

ここまでの恵理子の人生を聞いていると、思わずため息が出てしまう。

華やかな交友関係に、御曹司の彼氏。さらに彼女はルックスにも恵まれており、誰もが認める美人で、抜群のスタイルだ。

そしてなにより、恵理子の実家は代々続く不動産屋を営んでおり、JR芦屋駅近辺の土地を何十箇所も所有している大地主。

これほど恵まれた境遇の彼女に、きっと悩みなんてないのだろう。そう尋ねると、恵理子は突然表情を曇らせた。

「それが…28歳のときに裕太と別れてしまったんです。私もお互いの両親も、てっきり結婚すると思っていたのに」

そしてここから、彼女の人生は狂い始めたのだった。


彼女が結婚できない理由。そこに過去と神戸の呪縛あり



神戸嬢の狭い恋愛事情


裕太と別れた後、恵理子は食事会へと参加し始めるようになった。

「食事会の場は、大人カジュアルなお店が多い福島エリアに行くことが多いですね。」

食事会へ行けば、出会いもあるし、いいなと思える男性もいる。ところが、ある事実に気がついた。

いい出会いがあったの、と友人に伝えると、必ずこんなことを言われるのだ。

「その人って…もしかして芦屋出身の二代目で、あの子の元彼じゃない?」

神戸は狭い世界。恵理子が目をつけるような男の情報は、すでに神戸じゅうの女の間で知れ渡っている。

こうしているうちに気がつくと、30歳。その頃にはほとんどの友人は結婚をし、子供も生まれていた。

神戸嬢のトップの地位に君臨する肩書きに恵まれ、順風満帆な人生を送ってきた彼女が、初めて敗北感を抱いた瞬間だった。



そんな恵理子を悲劇が襲った。

元カレの裕太のFacebookから、彼が結婚したことを知ったのだ。しかも相手は、大学から甲南女子に入学した、まさかの外部生。

-外部生のくせに…。どうして…?

裕太と結婚した相手は、大学卒業後一人暮らしを始め、大手企業の総合職として働いている、恵理子とは正反対のタイプだ。

「芦屋会のメンバーに見せたら、皆、裕太の選んだ子がまさかの外部生だってことに目を丸くして驚いて、その場は笑い声で包まれました。皆が“裕太は見る目がなかったんだよ”って慰めてくれて、その通りだと思いました」

恵理子は納得したように頷く。




今や恵理子は、すっかり婚活ブームに乗り遅れてしまっているようだ。

それでも食事会に行けば独身メンバーの中では断トツの人気があるし、必ずデートにも誘われる。でも、誰と会ってもピンと来ないのだという。

きっと彼女ほど恵まれた境遇の持ち主は、相手にもそれなりのスペックを求めてしまっているのではないか。そう質問を投げると、恵理子はきっぱり「いいえ」と答えた。

「意外だって言われるかもしれないですが、男性のスペックなんてどうでもいいんです。どのみち、この先、生きて行く上で何かあれば親が助けてくれることが分かっていますから」

得意げに微笑む恵理子。元彼の裕太と付き合ったのも、彼のスペックに目がいったわけではなく、似た者同士の安心感があったからだそうだ。

「世の女性は、相手の年収や学歴にばかりとらわれているようだけど、私は違います。私が相手に求めるのは、安心感だけ。シンプルでしょう」

どうやら、男性にスペックを求めない自分は、ハードルが低い分、望みがあると信じているようだ。

しかし恵理子にとっての「安心感」とは、神戸という限られた世界の中で、同じ境遇と価値観を持つ相手にのみ抱く“仲間意識”のことではないだろうか。

そのことに彼女自身が気付くのは、どうやら当分先になりそうだ。

「今夜はこれから、南女のお友達と一緒にお食事会に行くんです。あっ、もちろん、内部生の子達ですよ。今日来るのは、芦屋生まれ・芦屋育ちの、“本物の”お嬢様たちばかり。男性陣も間違いなく喜ぶと思います」

そう言ってにっこり微笑むと、恵理子は神戸の街並みの中へ颯爽と姿を消していった。

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