目の前で揚げられた天ぷらと極上の蕎麦。江戸のご馳走がここにある

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蕎麦店の定番メニューである「天ぷら蕎麦」。江戸時代に生まれたといわれるこの絶妙なコラボ。目の前で揚げられたアツアツの極上天ぷらと丁寧につくられた蕎麦を楽しめるお店があるのです。

天ぷらが好きな店主のいる蕎麦店を訪ねて


天ぷらと蕎麦は切っても切れない深い仲。今回は「天ぷら蕎麦」はもちろん、「天ぷら」そのものも美味しい蕎麦店を、そば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。

天ぷら蕎麦といえば、今は蕎麦店の定番メニューですが、天ぷらはもともと江戸時代に屋台で親しまれた料理。果たしていつ頃から蕎麦屋に定着したメニューなのでしょうか? 実は正確なことは分かっていませんが、文政10年(1827)に「天麩羅蕎麦」が登場する川柳が詠まれていることから、少なくともこの時迄には天ぷら蕎麦が誕生していたと考えられています。

さて、前島さんが薦める蕎麦店の天ぷらは、神田猿楽町の「松翁」と、神楽坂の「蕎楽亭」です。

「『松翁』は小野寺松夫さんという方が1981年に明治大学の裏手に開業した手打ち蕎麦店で、揚げたての天ぷらを出してくれます。普通の蕎麦店の天ぷらは盛り合わせですが、ここは違って、まるで天ぷら屋さんのようにひとつひとつ揚げたてを出してくれるんですよ。『松翁』で修業した長谷川健二さんが1998年に開業した『蕎楽亭』もやはり、ひとつひとつ揚げたての天ぷらを出してくれる手打ち蕎麦店です」(前島さん)

実は「蕎楽亭」の店主の長谷川さんは、天ぷら好きが高じて5年前には曙橋に「天ぷら蕎楽亭」(完全予約制)を開いているほどです。今回は、そんな長谷川さんの「蕎楽亭」を取材しました。

「私が天ぷら好きになったのは、昔『松翁』で揚げたての活け海老と穴子の天ぷらに感動したのがきっかけです。それで自分の店でも揚げたての天ぷらを出したいと思い、『松翁』のように店内に水槽を置きました。才巻海老はいつも必ず水槽に入れていますが、他の魚介は季節によって替わります。3月からは稚鮎が入荷しますよ」(長谷川さん)

カウンター席で天ぷらを注文すれば、長谷川さんが水槽から海老や魚をすくって衣をつけて揚げる様子を目の前で見ることができ、まるで天ぷら屋さんにいるかのような臨場感。しかも、春ならではの「白魚(4月末まで)」や「ホタルイカ(3月末〜5月)」、朝締めの「穴子」など、好みのタネを1種類ずつ注文することも可能です。

大人気の「天ぷらそば」は、十割のざるそば(冷・温)に、海老、穴子と野菜3種の天ぷらを添えたもの。新鮮な食材の旨みや香りを閉じ込めた天ぷらは、さっくりしたきつね色の衣の風味も豊かで、気持ちもほっこりと温まるような美味しさです。

「私が理想とする天ぷらは、油の力で素材の旨みを引き出し、そこに油のコクを足したもの。揚げ油は、太白胡麻油の甘みのある旨みと、綿実油のクリーミーな柔らかさを活かせるように、5:5の割合でブレンドして使っています。天ぷらの衣は、以前は薄ければ薄いほどいいと思っていましたが、最近は昔より多くつけて“やさしい味”になるように仕上げています」(長谷川さん)

蕎麦は、ご主人の故郷・会津産の甘みのある蕎麦を中心に、厳選した産地の蕎麦を石臼で自家製粉し、十割で打つのが「蕎楽亭」の特長。殻付きの玄蕎麦を挽いた「田舎」と、殻を取った丸抜きを挽いた「ざる」の2種があり、後者は石臼で粗く挽いた蕎麦と細かく挽いた蕎麦をブレンドして打つという徹底ぶりです。

揚げたての天ぷらは、そんな蕎麦の繊細な甘みや香りを油のにおいで邪魔することも皆無。しっかりと衣をまとった天ぷらをキレのよいツユで味わい、蕎麦店ならではの魅力に浸ってみてはいかがでしょうか。



撮影:小野広幸