DMM.comが金沢に開設したマイニングファームには、大きな音を出しながらマイニングに励むマシンがずらりと並ぶ(左写真:DMM.com、右写真撮影:今井康一)

フロア全体にすらりと並ぶむき出しのマシン。すぐ横にいる人との会話もままならないほどの稼働音――。そんな仮想通貨の“採掘”現場を一般消費者が気軽に見学できる、世界的にも珍しい施設が今年2月、石川県金沢市に開設された。運営するのは、ゲームや動画配信などの事業を手掛けるDMM.comだ。

採掘(マイニング)とは、仮想通貨に関する取引データの集合体=ブロックが適正かどうかをマイナー(採掘者)たちが計算・判断し、承認する作業を競い合う仕組みだ。承認作業を行い新たなブロックが生成されると、一定額の仮想通貨が発行される。これがマイナーの”報酬”となる。ブロックの生成は、早い者勝ち競争だ。この競争に挑むにはコンピュータによる膨大な演算能力が必要となる。一連の作業が金を掘り当てるのに似ていることから、マイニングという言葉が当てられている。

世界のIT企業がマイニング競争に挑む

マイニングの報酬で一稼ぎしようと、IT企業が事業として目をつけた。多数のマシンを並べ、「マイニングファーム」と呼ばれるデータセンターのような施設を建設し運営する。世界で過半のシェアを握るのは中国のIT企業だ。国内でも、マイニングに使用する半導体チップ開発から手掛けるGMOインターネットなど、資本力を生かしたIT大手の参入が目立っている。

DMMは2017年9月に仮想通貨事業部を発足。10月からはビットコイン、イーサリウム、ライトコインなど、複数の仮想通貨のマイニング事業を始めたが、大規模なマイニングファームの運営は今回が初めてだ。段階的に稼働を引き上げ、4月には約500平方メートルのフロアで1000台のマシンが動く様子を一般に公開する見通しだ。


DMM.comの金沢にあるマイニングファームの外観(写真:DMM.com)

大規模なファームでは、膨大な数のマシンを冷却するために多額の電気代がかかる。多くの業者は収益性を高めるべく、年間を通して寒冷な気候の北欧をはじめ、広大な土地を確保しやすい国や電気代の安い国など、海外で立地を検討する。また、セキュリティを確保するため、ファームの詳細な場所を公開していないケースがほとんどだ。

そんな中、DMMがあえて国内で、しかも誰もが見学できるショールーム的なファームを建てたのはなぜか。「僕たちもアイスランドでファームを視察したが、ものすごくインパクトのある光景だった。金沢への観光がてら、非日常的な仮想通貨マイニングの現場を生で体験してもらえたら、結構楽しいんじゃないかと考えた」。DMMの川本栄介・仮想通貨事業部長はそう話す。

将来的には自社で投資するマイニング事業だけでなく、個人から投資を募り、稼いだ収益を分配する「クラウドマイニング」の計画があることも、ショールームを設ける動機となった。「いただいたおカネをちゃんとマシンに変えて運用していますよ、いつでも見に来ていただけますよ、と打ち出せば信頼を得られる。僕らは1万円とか小口の投資も集めたいと思っているので、消費者の心理的ハードルを下げる必要がある」(川本氏)。


DMM.comの川本栄介・仮想通貨事業部長は、マイニングでも収益性を出せると強調する(記者撮影)

あえて国内の立地を選んだ趣旨は理解できるが、気になるのは収益性だ。川本氏は「現在の仮想通貨の価格相場であれば、日本の電気代でも十分利益が出る」と説明する。マシンの冷却を効率的に行うための研究も進めており、マシン価格やマイニング競争率が上がっても利幅を確保できる体制を作りたい考えだ。

もっとも、今後さらにマシンを増やすにあたっては海外でファームの立地を選定していくという。日本の拠点は利益度外視とまでいかないものの、あくまで広告塔という位置づけ。クラウドマイニングの受け付けを開始する初夏には、海外をベースにトータルで1万台程度のマシンの稼働を目指す。国内外のマイニングファームへの投資は、100億円以上となる見込みだ。

「ブロックチェーンの本質を見せたい」

DMMにとってのマイニング事業は、収益を上げて終わり、というわけではない。同社は1月、ブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクト(契約のスマート化)事業を開始。マイニング事業で得た利益をこちらの技術・製品開発に充当していく方針を明らかにした。

なじみのない概念かもしれないが、スマートコントラクトはいわば「究極の個人間取引」。商取引を行う場合では、流通業者や決済業者など第三者が介入しないかたちで、契約をプログラムで自動化する。ブロックチェーンに記述された情報を基に契約が履行されるため、不正防止やコスト削減に寄与するという。


マイニング事業で得た収益は、ブロックチェーン技術を活用したスマートコントラクト事業に充てるという(写真:DMM.com)

「たとえば、アーティストやクリエイターの作品が消費者の手元に届くまでには中間業者がたくさんいて、結局作った本人の元に入るおカネはかなり減ってしまう。ブロックチェーンの大きな価値は、その中間的なコストをなくせること。より大きい利益を享受すべき人に、瞬時に、ちゃんとおカネが渡るようになる」(川本氏)。

まずDMMとしては、数カ月程度で開発できる消費者向けの簡単なサービスから取り組む。グループ内でモノづくり拠点を運営している「DMM.make AKIBA」と連携したIoT関連製品のほか、民泊やゲームなどの分野などでサービス開発の検討を進めているという。

「ユーザーからすると、持っている仮想通貨を使える、決済がスムーズに済むというくらいの認識かもしれないが、ちょっとでもブロックチェーンの本質が垣間見えるようなサービスを作りたい。まずは良い・悪いのフィードバックをたくさん得られれば」(川本氏)。

DMMグループ内では仮想通貨取引所のサービスも立ち上がっており、マイニングやスマートコントラクトの事業との相乗効果を生む可能性はある。各社がこぞって研究開発を進めるこの領域で、頭一つ抜けられるか。