女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。

会計士として働くあおいは、女性ファッション誌『GLORY』の読者モデルとなり、ロールモデルである景子らと出会い、インフルエンサーとしての地位を確立してゆく。

ついに編集部からスタイルブック発売企画の候補であることを知らされたが、選ばれる為には自分とは桁違いにフォロワー数の多いG3メンバーに勝つことが必要だと知らされた。




「お母さん?」

数時間後に控えている撮影と夜の食事会の為にと、念入りに半身浴をしてシャネルのボディクリームを塗りこんでいるところだった。

ココ マドモアゼルの鼻孔をくすぐる香りと、懐かしい声に思わず心がほぐれる。

帰省の予定を確認し終えると、母が嬉しそうに切り出した。

「それにしてもあおい、東京できちんと会計士さんしながらモデルもやるなんて、凄いこっちゃ。」

仕事をこなしながらも雑誌に掲載されるほど洗練された娘が、自慢で仕方がないようだった。妹の梢も毎月GLORYを買ってくれているらしい。

ふと、学生時代の記憶が蘇る。

とにかく要領がよく楽しみ上手な妹に対して、あおいは真面目過ぎて少し融通が利かない部分があった。

あおいが一番嫌だったのは、母が悪気なく口癖にしていた「もっと梢みたいに上手くやればいいのに」と言うセリフ。

思春期真っ盛りのあおいにとって、その言葉に自分を否定されたような気がして、楽しげな母と妹の会話に入ることすら難しくなるほどだったのだ。

でも今の私はきっと、母から見ても妹よりも輝いているし要領もいい。

資産家の息子かもしれないが、所詮宮崎県のしがないサラリーマンの男の元に嫁いで専業主婦に収まってしまった妹よりも、自分の方がよっぽど「上手いこと」やっているはずだ。


“読モ”として、スタイルブックを出版するメリットとは?


将来設計の為の長期計画


あおいには自負があった。

もう随分と馴染み深くなっている、撮影スタジオのメイクルームの鏡を見つめながら思う。

自分はただ「若くて可愛い」だけの読者モデルではない。キャリアも兼ね備えた上に、努力も知っている、と。

スタイルブックにしてもそうだ。副編集長の大沢が言うように、“早稲田大学卒業の会計士”というファッションだけでない「ライフスタイル」を表現することができる。

そして例えば将来独立した時に、「知的で美人」というイメージで知名度があれば、クライアント開拓にも大いに役立つかもしれない。

そう思えるのも、景子の影響だった。

景子がしているように、あおいもゴルフを始めた。若くて愛嬌がありゴルフの出来る女子は、東京ではとにかく重宝される。そして、そうした場では食事会では出会わない層の経営者達とも多く知り合うことができた。

景子が影で自分の悪口を言っていることは珠緒から聞いていたが、もはやそんなことはどうでも良いことに思える。それよりも、彼女と一緒に居ることで得られる恩恵の方が多いのだ。




「次、木下さんお願いします。」

撮影に呼ばれ、ふと我に返る。

今日は、一足先に購入した私物の春服の撮影だった。ワンピースやジャケット、アンサンブルなどの上質でフェミニンなアイテムばかりだ。

というのも、あおいは「自分のお金で着飾れるけれど、男性にも甘えられる25歳」というイメージ像を作り上げることに没頭しており、そんなセルフイメージに沿った服ばかり購入しているので、自然とそうなってしまう。

Instagramでも、清楚フェミニンなファッションに、ハイブランドの定番バッグや靴を効率良く着回すというコーデ写真をアップすることにした。

雑誌はもちろん、インスタも所詮虚像の世界に過ぎない。セルフプロデュースに長けた者がより多くのフォロワーを得るだけのシンプルな構図の中で、巨額の金額が世界中で飛び交っている。

センスが良く可愛い女など、掃いて捨てるほどいる。

自分が他者と差別化を図るとしたら、「会計士の仕事もきちんとこなしていること」を最大限にアピールする必要があった。

だからあおいは、同期の中でも誰よりも、仕事で目に見える成果を出すことに拘りもした。

手の抜きどころと掛けどころを見極め余力を残すことを覚えたため、職場での評価も高い。同期の中でも、一番先にスタッフからシニアスタッフに昇格するのはあおいだと噂する声があるほどだ。

だが、会社で順調に出世するだけではまだまだ足りない。

どこまでも、行けるところまで登り詰めたくなっていた。


好きと嫌いは、紙一重...?


良い子が成功できるわけないじゃない


「あおい、お疲れ〜♥」

次回の撮影の打ち合わせをしていると、撮影を終えた珠緒が、フワフワとカールさせた栗色の髪をなびかせながらこちらにやってきた。

今夜は珠緒とあおいの2人で食事会に行くのだ。男性陣が、西麻布の『ワカヌイ グリルダイニング・バー東京』を予約してくれているらしい。




あの日以来、珠緒は頻繁にあおいを食事会へ誘うようになった。

長きに渡り溜め込んでいた景子への怨念に近い不満を、気楽に吐き出せる相手を見つけたとでも思っているのかもしれない。

「ねぇ聞いてよ、景子ったらね…」

珠緒がそう語り出すとき、男たちに「癒し系プリンセス」とあだ名される所以の優しげ気な表情の面影はない。

だが、あおいは珠緒の事を批判などできなかった。

「人の悪口を言わない良い子」でいたところで、一体何が得られるというのだろう。

良い子でいても、真面目に生きて努力を重ねても、本当に得たいものなど得られないではないか。

「それにしても今日の2人でのお食事会、本当楽しみ!景子がいるといつも婚活に必死なあの子の独壇場みたいになっちゃうから。」

珠緒はもはや、景子に対する嫌悪感を隠そうともしていない。

「ホントホント。人のこと気に入った男にアピールするとか、あんな風にはなりたくないよね。」

斎藤の件だった。うっかり大きな声を出してしまったからか、側にいた副編集長の大沢がじっとこちらを見ている。

反射的に芽生えた反発心から大沢の視線を追うと、今日は撮影に来ていないはずの景子が、能面のような顔をしてこちらを凝視していた。

「ふーん…。あおいって、私のことそういう風に思ってたんだ。」

全身の神経が緊張し、心臓がバクバクと強い音を立てた。助けを求めるために珠緒に目線を向けるが、目を逸らされてしまう。

「まぁ、別に構わないけど。でも私なら、言いたいことは目の前で正々堂々と言うわ。」

だが、景子こそ陰で珠緒に自分の悪口を言っていたではないか。そう訴えると、今度は景子が珠緒を思い切り睨みつけた。

「そんなこと、一切言ってないわよ。珠緒、あることないことあおいに吹き込んだの?」

…信じられない。珠緒の話は、全部嘘だったというのか。

見かねた副編集長の大沢が口を開く。

「まぁ皆さん、落ち着いてください。」

こうした状況だというのに、全く感情を入れずにまるで業務のように話す女だと思った。

「皆さんはスタイルブック企画の大事な候補なんです。不要なトラブルは避けて、今まで通り本誌の撮影も頑張ってください。ねっ!」

最後、大沢が無理やり作った笑顔があまりにも不自然で、思わず気が抜けた。

だが、

「私、陰で人のこと悪く言うような人なんかには、絶対負けないから。」

という景子の激しい敵意に満ち溢れた言葉に、あおいは足が竦むばかりだった。

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あおいの本音を聞いた景子が、起こした行動とは?