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●老舗企業のイケイケチームからヒント

オフィス環境の設計などを手がける文祥堂。会社としてはこれまで、JXグループやエーザイといった企業のオフィス作りにも携わってきた。同社 クリエイティブプランニング室 室長代理の山川 知則氏は、さまざまなオフィスづくりに携わる中で、「良いオフィスを造りたいけど、良いオフィスとは何か、改めて考えた」と話す。

これまでのオフィス設計は、プロの手にすべてを委ねるケースが多かった。それはもちろん、専門性の高い建築士という特殊な作り手を必要とするからでもあるのだが、「人間の根幹を成す『衣食住』のうち、衣食は個人の感覚で簡単に選べる。だけど、住はその現場にいるユーザーが『場作り』に参加できない。それがもどかしかった」と山川氏は指摘する。

では、改めて「いいオフィス環境」とは何か。それは、業種・業態を問わずすべてに通じる共通の価値観が存在するというわけではなく、あくまで働く人たちが求めるオフィス環境が最良である、というものだ。ただしそれでは、山川氏らがビジネスとして顧客に価値提案できない。

そこで開発したものが「成果行動カード」だ。さまざまな企業の成果が出ているチームに山川氏らがインタビューし、どのような行動が成果に繋がっているかと自己分析してもらった上で、それらに共通する項目を180件抽出し、まとめた。そのカードをクライアントの社員に選んでもらった上で、「その会社にとって最適なオフィス」を見出す。

○変えてはいけないコアを見つける大切さ

ソフトバンクの子会社で、流動人口データを活用したビッグデータ分析・データ販売を行う「Agoop」は、その成果行動カードを活用した「オフィスづくりワークショップ」の最初のクライアントとなった。

Agoopの取締役 兼 CTO/技術本部 本部長の加藤 有祐氏は当初、「木を利用したオフィスづくり」を最優先に考えていたが、それはあくまでオフィスの雰囲気を「ベンチャーっぽく明るいものにしたいだけで、オシャレな感じというイメージでストップしていた」(加藤氏)という。

ワークショップでは、オフィスで働く社員全員が一人3枚、カードを選んで「私が働きたいオフィス」の理想像を見出す。とは言え、文祥堂が用意したカードの内容は「しゃべらないコミュニケーション」「数字、結果に貢献する」といった、オフィスとは一見無縁なものも多くある。

「カードを選んだら、なぜそれを選んだのか、なるべく普段は話さない社員同士でインタビューし合ってもらいました。オフィスを構成する要素は、インテリアやモノ、制度などで、インタビュー後にアイデアを全員で出していきます。選ばれたカードを元に膨らませたアイデアを、具体的にに落とし込んでいく、という作業です」(山川氏)

例えば、「ビジョンや理念を共有する仕組みが必要」というアイデアに対しては、オフィスの中央の柱にビジョンを書き込めるよう、ホワイトボードを全面的に貼り付けた。「経営メンバーと現場のコミュニケーションの活性化」というお題目に対しては、Agoop 代表取締役社長 兼 CEOの柴山 和久氏のデスクの裏に本棚を設置して、"頭の中を覗ける"ようにしたほか、掘りごたつ式の会議スペースをデスクの横に配置した。

「当初は長机や椅子がいくつというだけで良いと思っていたが、このオフィスづくりのプロセスで気付いたことは、『考え方を意識することは大切』だということ。変えてはいけないコアを見つけることで、根幹がぶれないし、全員が求めるオフィスになった」(加藤氏)

文祥堂はカード制作にあたって、「イケてるオフィス」を最優先するITベンチャー企業よりも、富士通やリクルート、ワコール、オムロンといった長年の老舗日本企業の成果を残しているチームにフォーカスしてインタビューした。その中で見えてきたものは、能力の高さよりも「当たり前をこなす姿勢」だったという。

「もちろん、みなさん凄いことをやってるとも思うんですが、それ以上に人間的に素晴らしくて、『やって当たり前』を着実に履行しているんです。その中でも一番共通していたポイントは『良いチームは、お客さんに関するコミュニケーションが多い』ということ。クライアントやユーザーに対して何を実現するのか、営業と企画、エンジニアが一体となって前へ進める。そんなオフィスが重要なんだなと」(山川氏)

●"スタバ風"だけでは良いオフィスじゃない

山川氏は、オフィス設計でクライアントからの要望について「スターバックス風やロンハーマン風、西海岸風という依頼が多い」と苦笑いする。もちろん、雰囲気が仕事に対するマインドを変える要素はあるだろう。だが、それはあくまで副次効果であって本質ではないし、あくまで本質を捉えた後の「最後に決めるべきスタイルだ」と山川氏は話す。

例えば社員のコミュニケーションを増やすことを考えて会議室を増やしたいといった要望がある。だが、それが成果に繋がるのかと言えば箱を無駄に増やすだけで、むしろ「普段からコミュニケーションを容易に、多様なメンバーで議論できる立ち会議の場を作った方がいい」(山川氏)。

Agoopはビッグデータの解析・販売という「クライアントが求めるデータ加工・分析」が重要になる。そのため、営業とエンジニアの距離が可能な限り近くで顧客目線を貫かなくてはならない。

「移転前は、(親会社の)ソフトバンクのオフィスで仕事する営業が多かったんですが、移転後はメンバーみんながオフィスに集うようになりました(笑)。我々は機械的な営業・技術であってはいけない。一緒に話してちゃんと顧客に寄り添って改善を続けないといけない。移転して2カ月弱ですが、顧客課題に対して、技術的にフィットしたものをより一層出せるようになってきたという手応えはありますね」(加藤氏)

文祥堂がワークショップで描いたオフィスのイメージ、実はコンペで他社にも共有されていた。「そこは公平にやらなくてはいけないですから」と山川氏は語るが、そうやすやすとできるものでもない。ただ、文祥堂としては手応えがあった。それは「オーナーシップ」だ。

「最終的に、Agoopさんの満足度は、これまでで一番高いものでした。何故かというと、自分たちで作り上げたオフィスだから。文祥堂としても、『文祥堂の提案』ではなく、『文祥堂とAgoopの提案』として捉えていた。オフィスづくりの正解を知っているのはデザイナーや設計ではなく、お客さま。そのお客さま自身が自分たちの手で作り上げたイメージだから、良いものが出来上がるんだなと」(山川氏)

Agoopの加藤氏も、その意見に賛同した上で、「コンペで他社に見せたレポートですが、やはり最終的なアウトプットは、共に作り上げてきた文祥堂さんと大きく異なるものでした。フォーカスすべきポイントを握っていることは、Agoop、文祥堂の双方にとって大きかった」と話す。

Agoopのオフィスでは、最初に加藤氏らが望んだ通り、木の素材をふんだんに利用することになった。国産木材を利用して、机は高知四万十のひのき、床が岡山西粟倉村の杉、照明には福島の杉を利用した。顧客の要望をうまく抽出するのみならず、大命題も叶える。単なる「オフィスづくり」の枠を超えた「働き方改革」を実現する文祥堂の取り組みは、緒に就いたばかりだ。