本記事は、電通総研 カウンセル兼フェロー/電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント/アタラ合同会社 フェロー/zonari合同会社 代表執行役社長、有園雄一氏による寄稿コラムとなります。

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2月19日にNTTがスポーツの試合を立体的に映し出す最新技術を公開した。2020年の東京オリンピックに向けて実用化を目指すとのことだ。

私はこのニュースを聞いて、あるイギリス人のことを思い出した。

「もうマッキンゼーの時代は終わった。だから、Googleに転職した」。

当時の私は、彼の言葉の真意がよく分かっていなかった。

Google Japanで働いているとき、いくつかのポジションを経験したが、最後は「Sales Strategy and Planning」(営業戦略企画)という部門にいた。

私の仕事は、AdWordsを中心とした広告プロダクトの営業戦略を立案・実行することだった。

といっても、ひとりで戦略を作る訳ではない。自分のチームのスタッフ、ほかのセールス部門やマーケティング部門、エンジニア部門、そして、Google本社やGoogle Japanの役員たちと連携しながら仕事をしていく。

まぁ、簡単にいえば、体力と忍耐力が勝負の、根回しと調整役だ。

そして、厄介なことに(ありがたいことに?)、私の上司はイギリス人でGoogleオーストラリアにいた。APAC(アジア太平洋地域)で戦略チームは束ねられ、インドやシンガポール、香港、台湾、韓国、オーストラリアの戦略担当たちと、ビデオ会議やメール・チャットなどで連絡を常にとり合っていた。

このAPACの戦略担当者の多くは、マッキンゼー、ボストン・コンサルティング、ブーズ・アレン、アクセンチュアなどからGoogleに転職してきた外国人たちだった。

マッキンゼーのスピードではダメだ



そのAPAC戦略チームをマネージする元マッキンゼーのイギリス人上司が続けた。

「マッキンゼーのやり方では、世の中のスピードについていけない。クライアントの現場に貴重なデータがある。それを吸い上げて中央で戦略を作るのでは間に合わない」。

彼が東京オフィスに出張に来たときだ。昼間の打ち合わせをすべて終え、私たちは夜の渋谷の街に出た。彼の希望で日本酒の美味しい店に行き、一緒に話し込んでいた。

日本酒が燃料となり、彼は興に入る。ブリティッシュ英語で彼は、独自の戦略コンサルティング論を深夜まで話してくれた。

現在の勝者で、マッキンゼーに助けられてその地位を獲得した企業はほとんどない - アップルやグーグルを考えればわかる。マッキンゼーの代表的な勝者は、アメリカン・エキスプレスやAT&T、シティバンク、GM(ゼネラルモーターズ)、メリルリンチなど、古くからある産業分野の企業だ。(『マッキンゼー ― 世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』からの引用)


イギリス人上司と日本酒を飲んだのは、2009年だった。その後、彼の話を裏付ける本を、2013年に見つけた。その本によれば、マッキンゼーは活力を失い、魅力的な戦略企業ではなくなったらしい。

実際のところ、1940年代にアメリカ複合企業の再編成などの功績はあったにしろ、それ以降、マッキンゼーが何らかの持続的、あるいは根本的な効果をビジネスの管理方法に与えたと証明するのは、きわめて難しい。シリコンバレーが過去30年間でビジネスに与えた影響は、マッキンゼーが与えたと主張するものより確実に大きい。(上記の本からの引用)


Googleの現場主義とスピードの速さ



イギリス人の元上司は、オックスフォード大学を卒業しマッキンゼーへ入社、その後、Googleに転職した。ほかにも、そのAPACの戦略チームは、ハーバード大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学などのMBAホルダー、かつ、戦略コンサルティングファームを3〜10年経験してGoogleに来た人が多かった。

その世界のエリートたちは、戦略コンサルティングファームに見切りをつけてGoogleに移って来た。彼らから見たGoogleの強さは、Googleの豊富なデータ、hands-on(現場主義)な文化、そして、圧倒的な開発力だった。

そんな彼らが当時、重視していたのは、「戦略の権限委譲(delegation)」「戦略の現場(hands-on)主義」「戦略立案の速さ(velocity)」だった。言い換えれば、この3つは、Googleにある魅力だったのかもしれない。

この3つは、ある意味で、同じことを言っている。

経営サイドが戦略立案しトップダウンで現場に落としていくやり方では、スピード感がない。では、ボトムアップなのかというと、そうではない。現場から情報をボトムアップで吸い上げて経営側で戦略立案するのも遅い。だから、戦略立案そのものを権限委譲して現場で自律的に実行することで経営スピードがアップする。

すべては関係性と立体的視点



この3つに加えて、重要なことがある。それは、事実をほかの事象との関係性のなかで立体的に捉えることだ。ひとつのビジネスを、さまざまな産業の視点で、あるいは、関係性という視点で、立体的に観察してみることだ。

「ほかの事象との関係性」と「立体的な視点」。そのイギリス人上司は、酒を飲みながら話した。

「from industries to industries(ある業界からほかの業界へ)」「trans-industries(業界を越えて)」「cross-industries(業界を横断して)」「inter-industries(業界の際で)」「multi angles(いろいろな角度・観点で)」「three dimension(3次元で立体的に)」などなど、そんな単語が飛び交った。

要するに、ひとつの産業の視点ではなくて、ほかとの関係性のなかで、立体的な視点を持つことの重要性を、彼は力説した。

いま、自動車業界は百年に一度の変革期だと言われている。そんななかで、元Googleの及川卓也氏が、デンソーと技術顧問契約を結んだ。

自動車業界は、100年に一度のパラダイムシフトを迎えています。電動化・自動運転・コネクティッドなどの分野において、他業界からの新規参入や開発スピードの加速により競争が激化しています。(上記リリースから引用)


「他業界からの新規参入」とは、業界の垣根を越えた競争が起こっているということだ。

あー、なるほど、なるほど。

「戦略の権限委譲(delegation)」「戦略の現場(hands-on)主義」「戦略立案の速さ(velocity)」。 そして、「trans-industries(業界を越えて)」「cross-industries(業界を横断して)」「inter-industries(業界の際で)」「multi angles(いろいろな角度・観点で)」「three dimension(3次元で立体的に)」。

冒頭で紹介した、NTTの立体的映像のニュースで、彼のことを思い出した訳だ。

あのイギリス人と日本酒を飲んでから約10年。最近、彼の話の意味が分かってきた。

分散協調型でキュビズム(立体的)な視点を持つ



この DIGIDAYの連載で『いま知っておきたい、ブレイクスルーを生む「タコ理論」:破壊的な「分散協調型」モデル』と『幽体離脱して考える、事実とフェイクの錯綜するキュビズム:フェイクニュースとは何か?』を寄稿した。

破壊的な分散協調型モデルの重要性を説き、「タコの神経細胞の約3分の2が足にある。企業の神経細胞も、タコを見習う時代なのかもしれない」と書いた。

つまり、「神経細胞=戦略機能」を、できるだけ、現場に権限委譲し、hands-on で、スピーディに経営することが大事な時代。

そして、自分の価値観だけではなく、あるいは、その産業の視点だけではなく、幽体離脱したような複数の視点で、他者との関係性のなかで、立体的に観察する。

そうしなければ、他産業からの新規参入を予測できないし、異業種のなかにビジネス機会を見出すこともできないだろう。

固定観念に囚われてはならない。絶対的なビジネスはない。さまざまな他者との関係性のなかで、相対的に観察する。時間と空間を超越して幽体離脱する。生成変化する新しいビジネスの萌芽を浮き彫りにするためだ。

時間も空間も、量子的な事象の関係性である



アインシュタインが1世紀以上前に示したように、絶対時間・絶対空間は存在せず、時間と空間は分けられない。相対性・関係性なしに現実は存在しない。

量子力学はこの相対性を、さらに徹底的に拡張させる。ある対象がもつ「あらゆる」性質は、ほかの対象と比較したときにのみ存在する。自然界で起こる出来事はすべて、関係性という観点からのみ描写される。量子力学が記述する世界では、複数の物理的な「系」のあいだの関係を抜きにしては、現実は存在しない。(『すごい物理学講義』 から引用)


21世紀の量子力学では、事象の背後にある空間も時間も存在しない。そして、現実とはすべて、事象の関係性である。

それにしても、『時間が存在しない』というのは、いったいどういう意味なのか? はじめに強調しておくべきことは、「時間」と「変化」の関係についてである。量子重力理論の基盤を形づくる方程式(ホイーラー=ド・ウィット方程式)が、時間を変数に含んでいないからといって、それはなにも、万物が不動であり、この世界は不変であるということを意味しているのではない。むしろ、方程式における時間の不在は、世界のいたるところに変化が分布していることを意味している。ただし、量子的な事象が展開する過程は、万物にとって共通の、一瞬一瞬の積み重ねのなかに位置づけられるのではない。空間の量子をめぐる極小のスケールに、唯一絶対の指揮者はいない。宇宙でたったひとりの、普遍的な時間を刻む指揮者が、自然の舞踊のリズムを定めているわけではない。あらゆる過程は、身近な過程と手を取り合って、自分のリズムに従いながら自由に踊っている。時間の流れは世界の内側にあり、時間は世界の内部で生まれる。時間の起源は、量子的な事象の関係性である。(『すごい物理学講義』 から引用)


「他の事象との関係性」と「立体的な視点」。元マッキンゼーのイギリス人上司から学んだことだった。また、いつか、彼と日本酒を酌み交わし、彼との関係性の変化を再確認しないとなぁ。

Written by 有園雄一
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