開幕まで約1ヵ月に迫った2018年のスーパーGTシリーズ。今年は元F1ドライバーのジェンソン・バトンや小林可夢偉がGT500クラスにレギュラー参戦することもあり、例年以上に注目を集めている。また、同時にGT300クラスも話題が多く、近年まれに見る激戦となりそうだ。


Modulo Drago CORSEのホンダNSX GT3

 そのGT300クラスで大きな注目を集めているのが、ホンダが新しく導入したマシン「NSX GT3」である。

 NSX GT3は2017年2月に発売が開始されたホンダのスーパースポーツモデル「NSX」をベースにして製作されたレーシングカーだ。同じNSXの名前を冠していても、GT500クラスに参戦している「NSX-GT」はスーパーGTに参戦するために専用設計・開発されたもので、もちろん車両を購入することはできない。だが、それに対してNSX GT3は国際自動車連盟(FIA)が定めた『FIA GT3規格』に準じ、市販車をベースに製作されたレーシングカーなのだ。

 このFIA GT3車両の最大の特徴は、「完成したレーシングカーを誰でも購入することができる」という点だろう。イチからマシンを開発・改造する必要がなく、初期費用こそかかるものの全体のコストが抑えられるので、世界各国のプライベーターチームに大人気だ。

 現在では、ニュルブルクリンク24時間レースやデイトナ24時間レースなど世界各国の耐久レースをはじめとしたスポーツカーレースで、同規定をもとに製作されたマシンが活躍。日本ではスーパーGT(GT300クラス)、スーパー耐久(ST-Xクラス)、スーパーカーレースシリーズでFIA GT3マシンでのエントリーが可能となっている。

 さらに今年8月、鈴鹿サーキットで新たに開催される「サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース」にも、国内外の有力チームがFIA GT3マシンで参戦する。もちろん、今回紹介するNSX GT3もこの鈴鹿で走る予定だ。

 スーパーGTでは、2011年に初音ミクのカラーリングでお馴染みのGSR&Studie with TeamUKYOがBMW Z4 GT3で年間チャンピオンを獲得したことを皮切りに、多くのチームがFIA GT3マシンへの変更を開始した。現在では日産、レクサス、メルセデス、ポルシェ、BMW、フェラーリ、ランボルギーニ、ベントレー、アウディなどのマシンが登場し、GT300クラス全体の約3分の2が同規格の車両となっている。そこに今年、ホンダも加わることになったわけだ。

 NSX GT3は昨年、すでにアメリカのIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップで活躍しており、今年のGT300クラス初年度はModulo Drago CORSE(ナンバー34)とCARGUY Racing(ナンバー777)の2台が参戦することになった。なお、ホンダがGT300クラスのマシンを供給するのは、2015年以来となる(当時はCR-Z)。

 特に注目したいチームは、道上龍の率いるModulo Drago CORSEだ。道上はスーパーGTの前身である全日本GT選手権のGT500クラスで先代NSX-GTを駆り、2000年には年間チャンピオンを獲得。その後も2009年まで同マシンの開発を担当し、ホンダ陣営を引っ張ってきた存在だった。

 2013シーズンを最後にGT500ドライバーの座を離れ、2015年と2016年は監督としてチームを率いた。だが、ドライバーとしてレースに復帰したいという思いは消えず、昨年は世界ツーリングカー選手権にフル参戦。11月にマカオで行なわれた同大会では、日本人初となる3位表彰台を勝ち取っている。

 そして、今シーズンはホンダの純正パーツを製作するModulo(株式会社ホンダアクセス)とパートナーシップを組み、5年ぶりにスーパーGTに”ドライバー”として復帰する。チームメイトは、期待の若手ドライバーである大津弘樹。昨年は全日本F3選手権でアグレッシブな走りを披露し、スポーツランドSUGOで行なわれた最終戦で優勝を飾った。

 マシンは1月中旬にチームのもとに届けられ、同月末にシェイクダウン(初走行)を実施。2月22日〜23日、岡山国際サーキットで本格的なテスト走行をスタートさせた。この日は、昨年チームランキング2位のK2 R&D LEON RACING(メルセデスAMG GT3/ナンバー65) と、同4位のAUTOBUCS RACING TEAM AGURI(BMW M6 GT3/ナンバー55)もテストに参加した。

 このテストでは、シーズン中に使うタイヤの選定やマシンの細かな動きの確認など、各チームの行なう項目が異なるため、単純にタイムだけで「速い」「遅い」という比較はできない。さらに65号車と55号車は昨シーズンも優勝を飾っている強豪チームで、コースや車両に関するデータも豊富だ。

 それに対して34号車のNSX GT3は、日本で走行経験がないに等しいため、現状では不利な部分が多い。実際に34号車のチョン・ヨンフン監督も「NSX GT3は他のマシンと比べて幅広いセッティングの選択肢はあるが、そこから実戦で使えるものを絞り込んでいかないといけないため、悩みどころも多い」と話していた。

 実際にテストが始まってみると、NSX GT3は経験のある2台(55号車と65号車)から後れをとることになった。1日目は65号車のベストタイムが1分25秒992だったのに対し、34号車は0.665秒遅れの1分26秒657。同サーキットで行なわれた昨年開幕戦の予選データを照らし合わせると、予選Q2にギリギリ進めるかどうか、という位置だ。

 だが、2日目になると65号車の1分25秒556に対し、34号車は1分25秒992をマーク。0.436秒差まで接近し、まだ上位陣を脅かすほどではないものの、着実にペースを上げてきている印象だった。

 若手の大津にとっては、スーパーGTのようなツーリングカーでのレースは初めて。今まで乗ってきたフォーミュラーカーとは特性がまったく異なるため、最初は手探りの様子だったが、徐々に走らせ方のコツを掴んでいった。

 しかし一方で、道上は満足した表情を見せなかった。

「シェイクダウン(初走行)のときに若干のトラブルはあったのですが、今回はノートラブルで走り切れてよかったです。ただ、今日は他のGT300クラスが走っている中でのテストで、彼らと比べるともう少しクルマのポテンシャルをアップしていかないといけないな、というところです。実際に(レースを想定した)ロングランをしたら、向こう(55号車と65号車)とタイム差が全然ありすぎて。そこをもうちょっと縮めないといけないですね」

 今回の本格的にペースを上げてのテストで、NSX GT3の特徴も掴めてきたという。エンジンがマシン後部にあるために重量配分が後ろ寄りとなり、そのあたりも考慮してセッティングを合わせ込んでいくことが重要と語る。

「クルマの後ろ側が重いので、もっとフロント側のグリップ感がほしいですけど、それは(クルマの特性なので)しょうがない。それに合わせた走り方が必要になってくるし、このNSX GT3のよさを生かした走りをしなければならないと思います。

 もちろん、タイヤもマッチングのいいものを見つけていかないといけないんですが、それよりもまずは車体のほうをもうちょっとよくしていきたい。まだセットアップを詰め切れていないので、(引き続き)合わせ込んでいきたいですね」

 スーパーGTに新しく登場するマシンということで、その注目度は早くも高まっているが、現状ではまだ課題も少なからずある。ただ、伸びしろのあるマシンであるということも今回のテストでよくわかった。

 チームは開幕戦までに、公式テストを含めてあと3回のテスト走行を予定している。幸いトラブルもなく順調に周回を重ねているので、ひとつでも多くのデータを蓄積してマシンセッティングを絞り込んでいければ、上位進出も十分に有り得るだろう。

 激戦が予想される今季のGT300クラスで、NSX GT3が”台風の目”となるのは間違いなさそうだ。

◆F1ホンダは事実上「第5期」に。猛獣と呼ばれるトップが再建に自信>>>

◆佐藤琢磨、テストで最速。新チームは「何かすごい秘密」を知っている>>>

◆【新車のツボ】ホンダ・シビック・タイプRは鬼のような世界最速FF>>>

◇F1グリッドガール全写真一覧はこちらから>>