インターネットは私たちの生活を大きく変えてきた。スマートフォンひとつをとっても、もはやこれなしに生活ができないくらいだ。

 世界中のどこにいてもコミュニケーションが取れ、調べものがあれば検索ができる。わざわざオフィスに行かなくても多くの仕事が自宅でできるようになった。

 テレワーク、あるいは副業・兼業といった働き方革命が静かに進行中だ。

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ネットが促す地方創生

 東京などの大都市が地方から人々を呼び寄せていたのは、そこに情報が集まっていたからだが、ネットを通して情報が流通するようになるとその価値が下がるのは否めない。

 豊かな自然環境、ゆったりとした住環境、安い生活コスト・・・。職があれば大都市ではなく地方に住みたくなる環境が整い始めている。

 前に長野県伊那市にある伊那食品工業を取り上げたことがあった。交通手段が発達した今でも東京や名古屋から3時間以上もかかる“辺境”とも言える地域に本社を構える。

 しかし、この人手不足時代に、上場もしていない同社は多数の若者を惹きつける。大卒の新入社員は60倍以上という狭き門だ。

 もちろん、同社の社員を大切にする経営に魅力があるのは間違いない。でも大都市の若者が集まる理由はそれだけではない。時代の要請として活性化に努力を惜しまないところで地方創生は着実に進みつつある。

 そして、その流れに掉さすプロジェクトが生まれている。その中でもとりわけユニークなのが「熱中小学校」だ。過疎に悩む地方を活性化しようと2015年に山形県高畠町で始まった。

 日本中からビジネスや芸術、文化、スポーツなどの第一線で活躍する講師陣を呼び授業を行う。地方にいながら日本や世界で起きている最先端の事例をユーモアたっぷりの解説とともに聞くことができる。

7歳の目でもう一度世界を

 熱中小学校の生みの親、日本IBMの元常務、堀田一芙さんは「一通りの教育を受け、社会人となって活躍してきた大人が、もう一度7歳の目線で世界を見直すことができたら、それまでと見える風景が違ってくるのではないかと思って始めました」と言う。

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 その思いはまず日本IBM時代に日本中を営業で歩き回り、また海外ネットワークも構築してきた堀田さんの豊富な人脈を動かした。

 そして人から人へと伝播し、我が町を活性化させたいと思う地方自治体を動かした。福島県高畠町で始まった熱中小学校は瞬く間に日本全国、北は北海道から南は九州まで8校が開校している。

 2018年も4月の信州たかもり熱中小学校(長野県高森町)を皮切りに4校が新たに開校する予定だ。教師陣もすでに140人を超えている。

 熱中小学校はなぜこれほどまでに熱いのか。その実態を解き明かす本が出版された。

 「地方創生“熱中小学校”の果てしなき挑戦、もういちど七歳の目で世界を・・・」(滝田誠一郎著、辰巳出版、2018年3月1日発行、税抜1600円)だ。

 堀田さんが赤坂にある転坂(昔はよく転ぶ人がいたのでこう名づけられたらしい)上にオフィス・コロボックルを知識人の溜まり場として作った2011年から始まることになる熱中小学校のプロジェクトが人間味あふれるタッチで紹介されている。

 地方創生はネットという強力なツールを得て前へ進み始めている。しかし、実はネットは推進力を発揮するエンジンにはなりにくい。地方創生を実現させるエンジンは人にほかならないのだ。

 世界中の情報はネットを通じて得やすくなった。しかし、そこからはパッションはなかなか伝わってこない。パッションがなければ人は動かない。

パッションを伝える授業

 熱中小学校が面白いのは、授業によって講師のパッションが生徒に伝わり、生徒のパッションが講師に伝わることだ。そして何かが始まる。

 これまでに開校した熱中小学校では、生徒間のコミュニティーが生まれ、様々な研究会やビジネスが生まれている。単に授業を受けるだけの小学校ではないのだ。

 そしてその取り組みはネットを介して日本中のほかの熱中小学校に伝わる。そこから刺激を受けて別の熱中小学校で新しい試みが始まる・・・。

 日本中に熱中小学校という点があり、それがネットワークを介して蜘蛛の巣状につながっている。地方と地方がお互い刺激し合い、競争し合う。そういう環境が生まれつつある。

 堀田さんは「これだけ小学校が増えてくると、今後運営に失敗する熱中小学校が出てくるかもしれません」と言う。しかし、「それはそれで仕方がない」とも話す。

 もし失敗事例がでてきたとしても、ほかの熱中小学校が成長するための肥やしにすればいいのだ。

 ごく短期間に日本中に飛び火した熱中小学校熱。その秘密が何なのか。この本には地方創生を成功に導くアイデアが詰まっている。

筆者:川嶋 諭