日本航空(JAL)は提携航空会社とのコードシェアも含め、10年後までに世界500都市にネットワークを広げることを明らかにした(撮影:尾形文繁)

「株式市場とのコミュニケーションの大切さを痛感し、反省した」。日本航空(JAL)の植木義晴社長の口から、そんな本音が飛び出した。

JALは2月28日、2017〜2020年度の中期経営計画の更新版を発表した。今回新たに明らかにしたのが、10年後の数値目標だ。2027年度に、売上高2兆円(2016年度比55%増)、営業利益2500億円(同46%増)、株式時価総額3兆円(現状比約2倍)を実現するというものである。

経営破綻を経て2012年に再上場して以降、つまり植木社長が経営の舵取りを任されてから、JALがこれほど長期の目標を掲げたことはない。理由を問われた植木社長が口にしたのが、冒頭の発言だ。

昨春の中期計画発表後、株価が急落

植木社長が述べた反省とは、昨年4月に中期経営計画を発表したときのことだ。発表の翌営業日、JALの株価は一時8%安まで売られたのである。「控えめすぎる」。国際線の輸送能力や営業利益率の目標に対し、投資家からそんな声が相次いだ。


JALは1月24日、植木義晴社長(左)が6月の株主総会で退任し、現・整備本部長の赤坂祐二常務(右)が後任として就任することを発表。今回発表した中期経営計画の舵取りは、赤坂氏が担う(撮影:尾形文繁)

経営破綻後に公的支援を受けて再建したJALには、通称「8.10ペーパー」と呼ばれる国土交通省の指針により、2017年3月末まで投資や路線開設に制限がかかっていた。その縛りが解けた直後だっただけに、どのような計画を打ち出すのか、市場の期待も大きかった。「中期計画発表後、セルサイド、バイサイド双方の証券アナリストに集まってもらって話をし、徐々に信頼を回復できた」と植木社長は振り返る。

そして会見の最後をこうしめくくった。「数字を出すということは経営者としてつらいところもある。だが株主の身になって考えれば、自信のある数字を1日でも早く示すことが基本。10年後の数字だけれども、1年でも早く達成できればいい。われわれの考え方をしっかり数字に紐付けて株主の皆さんと共有し、彼らの知恵も借りながら、いい会社にしていきたい」。

では、10年後の数値目標をどのように達成するのか。最も重要な柱となるのが、路線ネットワークの拡大だ。今回JALが明らかにした計画では、自社便と提携航空会社との共同運航便などを合わせて世界500都市に就航を目指す。現在は344都市(うちJAL便が90、提携航空会社が253)であり、約1.5倍に増やすことになる。


JALは昨年、アエロフロートロシア航空(上)やアエロメヒコ航空(下)など、相次いで海外の航空会社との提携を発表した(撮影:尾形文繁)

目標の「500都市」について、経営企画本部長の西尾忠男・常務執行役員は、「あくまで日本からの渡航者が訪れる都市の上位をカバーしていくイメージ」と明かす。明確な意図があって積み上げた数字でなくとも、方向性は示していく。これも植木社長が口にした「コミュニケーション」の1つといえる。

加えて国際線収入における海外販売比率を、現在の30%強から今後10年で50%まで引き上げるという。西尾常務は、「アジアから北米への流動がいちばん成長が大きい」と説明し、成田や羽田で乗り継ぐ旅客需要を取り込むのが狙いだ。

そのために展開した施策が3つある。一つ目は昨年11月に実施した旅客基幹システムの全面刷新だ。これまで海外客がウェブ上で航空券を予約した場合、変更や払い戻しの手続きが複雑だったが、こうした部分が改善された。2つ目がアジア路線でもビジネスクラスシートのフルフラット化。そして3つ目が成田・羽田のラウンジの改修だ。「3つのサービスを有機的に使いながら、販売を伸ばしていきたい」(西尾常務)。

次なる就航先は、米国シアトルか

国際線の具体的な新規路線計画については、今回1つだけ示された。2018年度は今のところ予定はなく、2019年度に「北米西海岸の新規地点」への就航を予定する。現時点でこれ以上の開示はない。だが、重要な手掛かりがある。

現在JALが就航している北米西海岸の都市は、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴの3つ。これら以外で渡航需要が見込めそうな大都市は、シアトルだ。しかも2016年にJALが提携した米アラスカ航空は、ここに本拠地を置いている。同社はシアトルから全米89都市に毎日290便以上を運航する。シアトル発着便で共同運航すれば、米国のネットワークは格段に広がるわけだ。


米国西海岸北部にあるシアトル。風光明媚な都市として知られる(編集部撮影)

成田―シアトル線を2012年から運航している全日本空輸(ANA)と真っ向勝負になるが、提携パートナーがいるかいないかでは大きな差がある。しかもシアトルは日本からの飛行時間がちょうど9時間ほどで、米国の中では最も短い。他都市へ乗り継ぐには効率のよいルートといえる。

路線ネットワーク拡大で成長に意欲を見せるJAL。だが、中期経営計画の最終年度である2020年度の収益目標は売上高1兆6000億円、営業利益1800億円と、昨年発表した計画からは売上高を1000億円引き上げたのみ。燃油価格の上昇を織り込んだことにより、むしろ営業利益率は悪化した。開示の範囲は広げたが、目標を引き上げたわけではない。今後も株式市場とのコミュニケーションには、注目が集まりそうだ。