就職活動は、今や「売り手市場」と言われ、かつての就職氷河期などどこ吹く風。

しかし、時代を問わず“狭き門”とされる企業は常に存在し、選ばれし者だけが生き残るのが現実だ。

そして「就活の頂点」を目指す若者たちは皆、こう信じている。

-就職で、すべての人生が決まる。

本連載で紹介するのは、内定のためなら手段を選ばない数々の猛者たち。彼らが語る、驚くべき就活のリアルとは?

先週、就活のために2年間もの無給生活に耐え忍んだ男が登場したが、今週は・・・?




【今週の就活女子】

・名前: なぎさ(27歳)
・現在の勤務先:大手広告代理店
・出身大学:早稲田大学
・就職時の内定企業:現在の勤務先のみ

「お待たせしました」

21時を回った頃、なぎさは待ち合わせ場所の『バー&ラウンジ マジェスティック』に現れた。

彼女は、仕事帰りとは思えぬほど妖艶なオーラを纏っており、ダウンライトに照らされた姿に思わず目を奪われる。

真っ赤な口紅に、ボディラインを強調した黒のレースのワンピース。シャネルのアリュールだろうか。彼女が髪をかきあげる度に、官能的な香りがその場を覆う。

大手広告代理店の営業職、と聞いていたから、てっきりサバサバしたキャリアウーマン風の美女が現れるのかと思っていたのだが、予想に反していた。

戸惑いながらも早速就活の話を切り出すと、彼女は少し赤みを帯びた、とろんとした目をこちらに向ける。

「私、どうやって内定を取ったと思いますか…?」

なぎさにジッと見つめられること数秒。

すっかり彼女にペースを奪われたかと思うや否や、彼女は態度を急変させ、こちらを睨むように吐き捨てた。

「男の人って、ホントに単純ですよね。…じゃ、私の就活についてお話します」

さっきまでの甘ったるい空気はどこへやら、なぎさは淡々と話し始めた。


なぎさが内定を手に入れるために取った驚くべき手段とは?




男は、所詮単純な生き物?


なぎさはかなり早い段階から、現在勤務する広告代理店を志望していた。

手っ取り早く内定が欲しかったなぎさは、大学3年の夏のインターンに照準を合わせ、着々と“準備”を始めた。

「まず、助っ人集めから。助っ人という名の彼氏を3人作りました。企画担当、プログラマーにwebデザイナー。普段なら絶対に付き合いもしないオタクっぽいのばかりでしたけど、割り切るしかないです」

なぎさが就活をしていた当時、広告代理店のインターンでは、選考の段階で、自分でwebサービスを作るという課題が与えられていた。

自分に、クリエイティブさなど、微塵もないことは分かっている。だからこそ、男に頼った。いや、使った。

「適当な理由をつけてプログラミングの授業を取ったり、ビジネスコンテストサークルに顔を出したりしました。そこであえて女性経験の少なそうな男を捕まえて、課題を手伝わせたんです」

そうして、男達のコラボレーションによって出来上がった女性向けのwebサービスを片手に、なぎさはインターンの選考を難なくクリアした。

迎えたインターン。本当の勝負はここからだ。

高倍率を通過しただけあって、インターン学生のレベルは相当に高かった。当然のことだが、インターンに通過したからといって、すべての人間に内定が出るわけではない。むしろ、ほんの一部だ。

ここで目立たなければ、努力が無駄になってしまうと懸念したなぎさは、ある行動に出る。

インターン最終日。なぎさは、インターン担当者達の座席があるオフィスフロアに乗り込んだ。

「感謝の気持ちです」と言いながら、手作りのクッキーと手紙を社員一人ひとりに手渡ししたのである。

男性社員宛ての手紙は、夜なべして書くほど骨の折れる作業だった。彼女がここまでしたのは、彼らと次につなげる必要があったから。

なぎさは、男性社員の話を一言一句聞き逃すことなく、すべて記憶していた。

-先日おっしゃっていた、今携わっている案件のお話、もう少し詳しく聞かせてください。

-大学の先輩と伺い、嬉しかったです。周囲に知り合いも少ないので、今度OB訪問させていただけませんか?

こんなメッセージとともに、彼女は自分の連絡先を書き添えたのだ。

そして、なぎさの期待以上に連絡がきた。男って単純だと思った。

彼らは、こぞって「今度食事でも行かない?」と誘ってきたのだ。

そこからは芋づる式。「この前、クリエイティブ部門の鈴木さんを紹介していただいたわ」その一言が、男たちのマウンティング精神を刺激した。

彼らは「俺はもっと顔が広い」「さらに偉い人を知っている」そうアピールしたくて、競うように自分が知っている一番偉い人間を紹介してきた。

最終的に、役員への紹介までこぎつけたなぎさ。鶴の一声をゲットし、早々に内定をもらったのだった。


受注と引き換えに、なぎさがクライアントから求められる恐ろしい条件とは…?




男社会でのし上がることに意味がある


現在、同期の間でも抜群の営業成績を誇るという彼女。その秘訣を尋ねると、なぎさは含み笑いをした後で、口を開いた。

「クライアントから受注という条件と引き換えに誘われることは、しょっちゅうです」

なぎさは、クライアントの重要度によっては、女を売ることや愛人になることも惜しまないそうだ。

「すべて、仕事のうち」と、割り切っている。

おかげで、トップの営業成績を収めているのだから、とやかく言われる筋合いはない。

ここまで潔く男を踏み台にして、女を武器に、自分の欲しいものを勝ち取って来たなぎさ。そもそも、彼女の志望動機はなんだったのか。

「男社会と言われる業界に敢えて就職して、そこで絶対にのし上がろうって決めたんです」

それだけ答えると、「これ、好きなの」と呟き、この店の名物カクテルのひとつ・スモークドメアリーに口をつけた。

湘南で生まれ、歯科医を開業する父と専業主婦の母のもとで育ったなぎさ。何不自由なく暮らしていたある日、突然父親が出て行った。

理由は、父の歯科に勤務する助手の女との間に子どもが出来たこと。毎月、潤沢な生活費やなぎさの教育費を送ること、家はそのまま母となぎさに譲渡するなどを条件に、父はいなくなった。

「それ以来、父のことは“諭吉くん”って呼んでます」

なぎさは冷酷な笑みを浮かべながら、そんな恐ろしい言葉を口にした。

彼女は、父親からお金は十分に与えられており、物質的に困ることはなかった。しかし、本当に欲しかったのものは、家族で過ごす時間や、親からの愛情だ。

次第に、自分の存在がお金で解決されているような感覚を覚え、猛烈な寂しさに襲われながら育ったのだった。

さらにその後、なぎさを苦しめたのは、母親だ。母は、父親との別離を機に、自立するわけでもなく女として狂っていったのだ。

父親という依存先が無くなった母親は、身も蓋もなく、自分の寂しさを埋めるために他に男を作った。

そして、彼らに依存し、捨てられた。それなのに、いつまで経っても自分は悲劇のヒロインであるかのように振る舞う母。

そんな母親の哀れな姿を見たなぎさは、自分は絶対に母のようにはならないと心に決め、学業にも勤しんだ。

仕事で成功できれば、ようやく自分にも、ひとりの人間としての存在価値が生まれるような気がする。

なぎさが広告代理店に興味を抱いたきっかけも、優秀かつ華やかな女性が多く就職している世界に入れば、多くの人に認めてもらえると信じたから。

「しかも、広告代理店という男社会で、女の私が成功できれば…母のように男に屈する人生は送らなくて済む。そう思ったんです」

絶対に、母のように男に身を滅ぼされる女になりたくはない。そのためにもこの世界でのし上がる。なぎさはそう心に誓った。

しかし話を聞いていて、なぎさの行動には矛盾を感じる。

「男に屈するのはごめんだ」と言葉では言いながらも、女を売りにし、内定や仕事を手に入れてきた彼女のやり方はむしろ、男に依存した生き方そのものではないのだろうか?

すると彼女は、それまでの毅然とした態度から打って変わり、口調を荒げる。

「男は…私にとって所詮、手段でしかありません。彼らは気がついていなくとも、実際には、この私が男を思い通りにコントロールしているんです。ですから依存とは、真逆です…!」

そのとき一瞬のぞかせた、なぎさの悲痛な表情が印象的だった。

「母のようになりたくない。」と、何度も繰り返し口にしたなぎさ。その本当の意味は、母のように、男から見放される女にだけはなりたくない、という恐怖なのかもしれない。だからこうして女としての魅力を、必死でアピールし続けているのだろうか。

再び姿勢を正し、艶っぽい仕草でカクテルを口に運ぶ彼女は、どこか寂しげに見える。壮絶な人生の中で負った心の傷が垣間みえたような、そんな気がした。

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