5GやAIなど、さまざまな技術を開発しているNTTドコモ。世界的にみても高い技術力を誇る同社だが、何を目指して研究開発を行っているのか。同社 取締役常務執行役員(CTO) R&Dイノベーション本部長の中村寛氏に伺った。

NTTドコモ 取締役常務執行役員(CTO) R&Dイノベーション本部長の中村寛氏

――現在、ドコモとして注力しているR&Dのカテゴリーはどういったものになるのでしょうか。

中村氏
 今、私どもがR&Dで注力しているものの一つには5Gがもちろんあります。今回はNTTグループ全体でブースになってさまざまなものを出していますが、一つの大きな柱は5Gとなります。我々は2020年までにサービスを開始したいと思っていますし、昨年12月に最初の規格もできましたから、まさしく今、ブースとしても5Gを用意しようとしていますが、ある意味、R&Dですから技術的なところはしっかりやっていかないといけないのですが、もう一つ、単に技術を作るだけでなく、5Gの上でのサービス、ビジネスがどうなっていくかというところをしっかり作っていかないといけません。それが別のアングルの注力ポイントです。

 今までの4Gはコンシューマーのお客様が大きなマーケットだったのですが、5Gでもそこは変わらないと思っていますが、加えてビジネスユースケース、インダストリーパートナーなどと言っていますが、さまざまな業界の皆さんと新しいサービスを作っていきたい。B2B2Xと言ったり、ドコモでは「+d」ですが、それをしっかりやっていかなければいけません。

 まさしく昨年始めた5Gトライアルサイトで具体的にパートナーの皆さんの要件だとか、期待だとか、困りごとだとかを5Gを使って一緒に解決するソリューションを作りましょうということで、いくつかのユースケース、ビジネスケースを作ったりしています。今年1月にアナウンスさせていただいた5Gオープンパートナープログラムも、あっという間に500社を超えて、すでに600社を超えているような状況です。ここはすごく大事なことだと思っていて、5Gを単にシステムとして作るだけでなくて、一緒にビジネスになるようなものをパートナーの皆さんと一緒に作って、パートナーの皆さんのために5Gを使っていただくという環境が(商用化の)2年前の段階でできているというのは、すごく良いパターンかなと思っています。

 それとは別に、AI、ビッグデータにも力を入れています。すでに何年か前からやっていますが、ドコモの中で自動翻訳にだいぶ早い段階から注力しているところで、みらい翻訳という会社を作ったりして進めていますが、それがAIの一つの端的な例かなと思います。最近ではGPUを使ったりして非常に精度が上がってきていますので、ちょっと前だとTOEICで700点と言っていたものが900点近く、もう超えているというような話も聞いていますし、翻訳精度も上がってきています。その中でオープンにそのプラットフォームを使っていただけるような環境も整えながら、先ほどのオープンパートナープログラムに近いような形で進めていきたいと考えています。

 AIは、翻訳だけではなく、業界ごとに使い方が違ってもいいと思っていますし、また違うべきだとも思います。今のAIはやはり万能ではありません。特定の分野では人間をはるかに超えますが、それを使ったから何でもできるというわけではありません。そういう特定の分野をしっかり定めて、そこに注力したAIを作っていくことが大事だと思いますし、そういう特定の分野をパートナーと一緒に、パートナーの役に立つ分野に狙いを定めて、そこで協創していくということがAIでは大事だと考えています。まずはパートナーの皆さんのところに行って、どういう困りごとがあるか、その中でこれはAI、これは5Gというようなやり方を進めています。

 例えば、横浜市さんのチャットボットが有名ですが、あれも最初からチャットボットを作りたいという話ではなくて、横浜市さんとお話をしている中で、実はごみ分別がお困りごとだということが分かったので、じゃあ、AIを使ったチャットボットを使えば解決できるんじゃないか、ということで始まったものです。そういうような進め方が今、必要なのだと思います。マーケットインを徹底することです。

――法人営業と一緒にトップガン営業をするという話がありますが、組織的にはどう変わったのでしょうか。意識改革の必要性などは無かったのでしょうか。

中村氏
 私は逆だと思っているんです。うちのメンバーはすごく喜んでいるんです。どこかの研究室にいて、机に向かって紙と鉛筆で一生懸命やるというのが研究開発というと、そういう分野が無いことはないですが、ことサービス開発、特にAIなどは、お客様の役に立ってなんぼの世界です。AIは万能ではありませんし、どういう時に使えるかというと、現場が無いと使えません。今、トップガンでやっているメンバーは、喜んで、逆にこちらからお願いしてでも行きたいというぐらいの感じでやっています。こういう風に会社がやるから、こうやるべきだというよりは、R&Dの方から自主的にどんどんやりたい、一緒にやりましょう、ということでやっているプロジェクトです。

――今のスマートスピーカーなどを見ていても感じることですが、ユーザーからどういうリクエストがあるのか、とにかくデータを集めないと次につながらないというところもあるので、確かに現場に出ていくことは重要ですね。

中村氏
 AIスピーカーも端的な例かもしれませんが、一つですべてを解決しようとし過ぎているような気がします。AIスピーカーでできることはやればいいですが、足りないところはスクリーンを使ったAIが一緒に入ってくるとか、センサーが付いてくるとか、やりたいことがまず先にあって、それをやるための手段としてAIスピーカーであるべきなのに、AIスピーカーがセントリックになって、さあ、何ができますか、となると苦しいディスカッションが続いているような気がします。トップガン営業は、その考え方を逆にして、この技術があるからお客さん何かできますよ、ではなく、お客さんが困っていることを聞いて、だったらこの技術とこの技術で解決できますよ、というプロジェクトになっています。AIスピーカーファーストではなく、困りごとファーストでやっているという感じです。

――困りごとを解決していくというアプローチでは、全く新しいイノベーションにはつながりにくいような気もしますが。

中村氏
 それはマーケットファーストの考え方と相容れないというわけではないという気がしています。スマートフォンもそうですが、お客さんに全く新しいことを強いていたわけではありません。元々、フィーチャーフォンで画面が小さい、もっと大きくして見やくしたい、というところからあの形ができています。AIをお客様に合わせて使っていくのが悪いことではなく、困っていることをもっと集約することで新しい世界ができてくると思います。そのための技術の弾込めは我々の中でしています。

 例えば、AIでいうと「先読み」なんていうのをやっています。お客さんから聞かれる前にお客さんの困りごとをある程度推定して先にお答えしましょうというような取り組みです。今日は雨だから、いつもより30分前に目覚ましを鳴らそうというようなことです。そういうのは今のAIやエージェントはではできません。でも、実はそういうものは生活を変えますよね。雨だけでなく、電車が遅れているから目覚ましが早く鳴ってくれる。そういう弾込めはやっています。それが社会を変えていく方法かなと思います。ベースには技術の蓄積があるからこそできるところもありますので、R&Dから見れば、それを脈々とやっていきます。それを必要な時に出せるようにします。その懐が大きければ大きいほど良いR&Dになるのだと思います。

――最近開発されているものの中で特に面白い、世の中を変えるというようなものはありますか。

中村氏
 IoTデバイスが最近話題になっていますが、スマートグラスにしても、リストデバイスにしても、いっぱいあります。あるリストデバイスのためのアプリがあるという状況で、デバイスを変えるとアプリも変えないといけない。そういう不便さがあります。

 今やっているのは、そういうデバイスのインターフェイスをなるべく1つにできないのかということです。お客さんはデザインだったり、機能だったり、ブランドだったり、勝手に選んでいただき、でも使うアプリはいつも一緒、ということができるのではないか、というトライをしています。

 ただ、作るベンダーさん垂直統合で皆さん個別にしたいから、インターフェイスを合わせるはずはありません。メーカーさんの戦略なので、そこを変えろと言ってもなかなか変わらない。だとすれば、アプリのインターフェイスでそれを整合するようなものを作って、デバイスはそのままでいいです、一つのアプリで動くようにしましょう、というようなことをイニシアティブでやっています。お客様とアプリを作る人にとっては画期的に変わるのではないかと思います。一つのアプリを作ったら、どんなデバイスでも動くと言ったら、すごく広がります。これはDevice Web APIなんていう名前で言っていますが、そういう動きがあります。

 それから、昨日(27日)アナウンスしたORAN Allianceというものがあります。AT&T、Deutsche Telekom、Orange、China Mobile、ドコモでアライアンスを作りました。これは、無線のネットワークをもっとオープンでフレキシブルでスマートにしたいというコンセプトでやっています。何を言っているのかよく分からないかもしれませんが(笑)、無線のネットワークもいろんなインテリジェンスが必要なんじゃないか。ネットワークの最適化とか、ネットワークの運用も手間がかかるので自動化したいとか。それから、今、制御する機械と無線機が同じメーカーじゃないと動かないんですね。これをマルチベンダーで動かしたい。

 実はこれ、世界でドコモだけができているんです。ドコモは私どもR&Dの中でインターフェイスをしっかり決めて、メーカーさんがその仕様で作ってもらえたらマルチベンダーになりますよね、ということでできています。ところが、それは世界のオペレーターの夢なのですが、なかなかできていない。ぜひそこはそうしたいということで、ドコモの経験をシェアしてほしいということで、我々もファウンダーの1社として参加したのですが、それが実現できれば、モバイルインダストリーとしてその部分がオープン化されると、オペレーターは最新の技術のものを自由に選べるようになりますし、ベンダーの皆さんから見ても、最新の技術を早く市場に出してオペレーターに提供できるようになりますし、さらに新しいプレイヤーも参加できるようになります。業界全体がアクティブになります。そういうことを期待しながら、ORANなんていうものに取り組んでいます。

――それはドコモが仕様策定がうまい、ということでしょうか。

中村氏
 仕様は策定しなければいけません。ただ、仕様を策定しても、作ってくれる人がいなくてはいけません。ですからメーカーさんとのコラボレーションはすごく大事です。ただ、少なくとも仕様は作らなければいけないので、そこは相当にR&Dの力が必要です。すごく残念ですが、世界的に見て、キャリアがR&Dを持っているのはすごく少なくなってしまっています。かつて電電公社の時代には各国1キャリアがいて、そこが大きな研究所を持って、各国なりに研究開発を進めていたのですが、今その名残が残っているのはNTTグループとせいぜいAT&T、China Mobile、KTさんぐらいで、多くのところではR&Dを持たなくなってしまいました。そうなると、ベンダーさんから一式うちの製品を使ってください、となります。そういうことにならない、したくない、もっとフリーにしたい、という活動です。

――ありがとうございました。