「Thinkstock」より

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 昨年夏、フランスやイギリスがガソリン、ディーゼルエンジン搭載の車の販売を2040年までに禁止するプランを発表したのをはじめ、欧州各国、さらに二大市場である中国やアメリカのいくつかの州でもガソリン車を今後禁止する方針を打ち出した。

 このZEV(Zero Emission Vehicle=排ガスのない車)規制が世界のスタンダードとなっていく流れで、打撃を受けるのは世界中に輸出している日本の自動車メーカーだ。トヨタ自動車のプリウスなど日本で人気のハイブリッドカーはZEVの対象外。このような状況で、日本の自動車市場はどうなっていくのか。立教大学経営学部でマーケティングを教える有馬賢治氏に聞いた。

●車は再び公共交通機関に?

「世界的にガソリン車への規制が強まることで、次世代の主流はEV(電気自動車)であるとみられています。また、他方で5G通信網実用化の流れにより、自動車市場にも大きな変化が表れ始めました。その兆候の一つは、最近よくCMで紹介されている自動運転車です。自動運転の技術が高度化してくると、やがて無人運転の自動車が一般にまで普及してくることも想定できます。すると、事故時の火災などのリスクがガソリン車などよりも低いEVは無人運転車との親和性が高いと考えられ、ますますEVの普及を歓迎する環境が整うのではないでしょうか」(有馬氏)

 では、EVの普及や運転の自動化、無人運転技術などが一般的になると、我々の生活にはどのような変化が考えられるのだろうか。

「今の若者は車に興味がないといわれていますが、それに拍車がかかる可能性は大きいでしょう。ドライブなど運転自体を楽しむという感覚が希薄になり、『車は目的地まで自動で連れていってくれる乗り物』といった意識に変化してくるかもしれません。また、技術的にはスマホで簡単に呼び出せる無人タクシーのようなサービスが展開される可能性も、それほど遠くない未来に実現しうると思われます。すると、もはや自家用車どころか、運転免許証を持つことさえも必要性を感じない人たちが出てくる時代が訪れるかもしれませんね」(同)

 現実となれば、自動車市場にとっては衝撃だ。

「近現代の日本の歴史を振り返ってみると、自動車は大正時代に生まれた『円タク』(1円タクシー)などのような公共交通機関としての利用に始まり、1970年代には庶民の間でも自家用車が普及し始めました。これを一般的は“モータリゼーション”と呼ぶのですが、もし運転の自動化により無人タクシーが拡がるならば、人件費が少なくなる分、今よりも安く手軽にタクシーが利用できるようになる可能性があります。すると、再び自動車の役割が公共交通機関へと移行する新たなモータリゼーションが起こることも想定できますね」(同)

●変わりゆく業界で、変わらない“人やモノが移動する”というニーズ

 もちろん、それが起こるとしてもかなり先の話だが、これにより国内の自動車メーカーは製造した製品が今までのように売れなくなることは十分考えられる。

「さらに、EVの製造はエンジンなどの複雑な部品が必要ないため、他業界の企業が新たに参入しやすいとも考えられています。とはいえ、自動車製造事業を何十年と続けてきた既存メーカーのノウハウには一日の長があります。より安全で、より快適な移動手段を提供できる企業や業界が生き残ってゆくのではないでしょうか。

 また、自動運転車が普及したとしても、“人やモノが移動する”というニーズ自体はずっと残っていきます。それに応えるために、各自動車メーカーが直営で無人タクシー会社を運営したり、あるいは高齢社会に対応した無人物販車を運営したりするといったサービスを展開して、新たな事業を生み出すことで市場の要望に応える可能性は十分あると思います」(同)

 将来的には根本からの変化が求められるであろう自動車業界。メーカーは今まで培ったノウハウを生かして、今後も“人やモノの移動”を支え続けられるだろうか。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)