Netflix(ネットフリックス)が2018年、コンテンツに対して投じる80億ドル(約8500億円)の予算は、テレビ番組の制作能力があるパブリッシャーにとって、魅力的であることが判明しつつある。

米デジタルメディア企業のVox Mediaは1月、米オンラインニュースサイトVox.comの共同創設者エズラ・クライン氏とともにNetflix向けの番組を制作すると発表した。タイトル未定のこのシリーズは、Vox Mediaの解説メインのジャーナリズムをNetflixに持ち込み、科学、政治、大衆文化をめぐる掘り下げた報道が特徴となる。Vox Mediaの動画制作・開発部門Voxエンタテインメント(Vox Entertainment)が、クライン氏をエグゼクティブプロデューサーに起用して番組を制作する。

Vox Mediaは、Netflixの番組を手がける最初のパブリッシャーというわけではない。Netflixは2016年に、コンデナスト・エンターテインメント(Condé Nast Entertainment:以下、CNE)にスポーツドキュメンタリーシリーズ「Last Chance U」を発注し、昨夏に第3シーズンに向け契約を更新した。「Last Chance U」を含めてNetflixの6番組の開発や制作にCNEは携わっており、CNEのテレビ事業にとって、ストリーミング大手のNetflixがいかに大きな存在であるかを示している。

Netflixのアピール力



CNEやVox Mediaと違って既存のリニアテレビネットワークがあるフュージョンメディアグループ(Fusion Media Group:以下、FMG)も、台本があるスペイン語のドラマ「Tijuana」を皮切りに、5つのシリーズをNetflixと共同制作する契約を最近発表した。「Tijuana」は、来月から制作が開始され、親会社ユニビジョン(Univision)の米国の放送ネットワークで放送されるほか、Netflixで世界に配信される。契約には、NetflixがFMGのテレビネットワークと共同制作する英語のドキュメンタリーシリーズ2作品も含まれている。NetflixとFMGは以前、ドラマシリーズ「El Chapo」で提携していた。

CNEにとって、Netflixで番組が配信されるといえれば、マーケティングやビジネスの面で非常に大きな価値がある、とCNEの代替番組制作担当エグゼクティブバイスプレジデントであるジョセフ・ラブレイシオ氏はいう。

「Netflixに当社の[知的財産]とブランドがあることが重要だ。多くのケーブルネットワーク向けに番組を制作している企業は山ほどあるが、Netflixで番組が配信されているというほどのアピール力はない」。2014年にCNEに入社する前に、長年にわたってハリウッドのエージェントをしていたラブレイシオ氏は、こう語る。

Netflixとの契約は、Voxエンタテインメントにとっても同様に大きな動きだ。同部門は、リニアテレビとストリーミングプラットフォーム向けにロングフォーム動画番組を制作するために、3年前に設置された。これまでに、ライフスタイル専門のケーブルネットワークFYI向けに「Prefab Nation」も制作しており、今年は米公共放送PBSで「No Passport Required」が放送される予定だ。

Netflixはオンレコでのコメントを避けた。

需要高まる長尺番組



Vox Mediaのプレジデントであるマーティー・モー氏によると、Voxエンタテインメントのロングフォーム番組に対する需要は、この数カ月のあいだに「急速に高まっている」という。それに合わせて、同部門の部員数も増加するという。NetflixやAmazonからさほど離れていないロサンゼルス近郊のカルバーシティーに本社があるのは偶然ではない、と同氏は語る。

「ベライゾン(Verizon)のゴー90(Go90)向けに10分間のエピソードを制作しようと、テレビやOTT向けに1時間のエピソードを制作しようと、すべてのプラットフォームで現代の動画番組の主要な制作会社になるのが目標だ」と、モー氏はいう。

マーケティング面で価値があるだけでなく、Netflixは金も支払ってくれる。Netflixはますます、番組の完全な所有権と引き替えに番組の制作費を全額前払いしつつある。これは、制作会社は、番組予算の一部として請求する手数料から収益を上げるが、シンジケーションを通じてさらなる収益は得られないことを意味する。

プログラムの所有権



CNEやVoxエンタテインメントのような比較的新興の制作会社にとって、このシステムは申し分がない。

「新参なので、番組を所有しているといえる立場にはならないだろう。いまのところ、Netflixのビジネスモデルはそういうものではない。確かに、ほかの誰かが番組を一部所有する機会を提供してくれるなら、慎重に検討するが、いまはそのようなことが起きていない」と、ラブレイシオ氏はいう。

もちろん、例外があるし、取引は常に異なる。ときには、Netflixが大手のスタジオやメディア企業と番組に共同出資することもあるだろう。こうした共同制作契約では、制作パートナーが番組の所有権を保有するかもしれないが、Netflixは今後10年近くにわたって、世界的なサブスクリプションストリーミングライセンスを買い取っていく。そのため、Netflixがすでに事業を展開している国では、コンテンツ所有者がテレビネットワークに番組をライセンス供与したり、販売したりするのは制限される。

無視しがたい配信業者



いずれにしても、規模と名声を考えると、Netflixは無視しがたい配信業者だ。それに最近、ライブラリを容赦なく構築するにあたり、番組や映画を積極的に購入しているので、CNEやVoxエンタテインメントのようなパブリッシャーにNetflixはもっと目を向けるだろうと、ラブレイシオ氏はいう。

「我々には、市場を助けて、番組を宣伝する能力がある。これはNetflixにとって重要なことだ。我々とはいまのところ継続的な関係を結んでいるが、Voxと結んだばかりの契約を見れば、我々はそうした[宣伝に役立つ]リーチを提供できるので、Netflixが我々に似た企業に今後注目していくとわかる」と、ラブレイシオ氏は語った。

Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)
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