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●中期経営計画の柱の1つが「組織活性化と人材育成」

半導体製造装置の製造・販売を行う新川は、年次評価を主軸としない、従来とは異なる人事制度を作るため、オラクルの人材管理クラウド「Oracle HCM(Human Capital Management) Cloud」を導入した。同社は、新たな人事制度の構築により、何を目指しているのだろうか。

○売上高300億円達成に向け、新たな人材育成の仕組みを

2008年にリーマンショックが起きる前、新川は国内トップグループの半導体後工程製造装置メーカーとして競合としのぎを削っていた。しかし、リーマンショック後、「装置のクオリティやレベルは同等だったが、円高の影響により、価格競争に負けてしまった。リーマンショック以来、8期連続して赤字が続いてしまった」と、人事総務部長 兼経理部長 戸松清秀氏は語る。

もっとも、赤字が続いたと言っても、新川は自己資本比率が高いため、キャッシュは多かったそうだ。

こうした現状を打破するため、同社はタイに工場を新設して原価を下げるなどして、2017年には利益が出るまでに経営を立て直した。そして、中期経営計画「Challenge Shinkawa 2020」では、2020年までに売上300億円達成を目標に据えている。これを実現する戦略の1つが「組織活性化と人材育成」となる。

この戦略において人事ができることを考えた際、「創造性を発揮する組織への変革」「意識改革をはじめとする人材育成」「多様な人材の確保」「世界の優秀な人材が活躍するステージの確保」という課題に対し、3つのことを提供できるという方針を定めたという。

3つの方針とは「リアルタイム・ミッション管理」「外国籍の社員の活用」「自発性を発揮させる取り組み」だ。

この方針を実現するため、新たな人事制度を作ろうということになり、プロジェクトの元締めとして、経営企画にも携わっていた経験がある戸松氏に白羽の矢が立った。

戸松氏が人事を担当することになったのは2年前のことで、人事業務の経験は浅い。だからこそ、社長から「抜本的に人事を変革してくれ」という指令が下ったそうだ。従来の人事制度にどっぷりと浸かってない同氏だからこそ、できることを望まれたというわけである。

○これまで評価しきれなかった「エッジな人」も評価する

新川のこれまでの人事制度は、大抵の日本企業が利用している、半期や年度単位の評価をベースとしたものだった。変革のミッションを背負った戸松氏だったが、当初は、従来の人事制度からそれほどかけ離れていない制度を検討していた。

しかし、松丘啓司氏が執筆した書籍 『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(2016年刊行)を読んで、目からウロコが落ちたという。

同書は、そのタイトルの通り、「年次評価は個人と組織の成長につながっていない。年次評価ではなく、リアルタイムでパフォーマンスを管理することで、人材を生かし、変化に俊敏に対応できる組織の構築を目指す」ことをテーマとしている。年次・中間など、社員のランク付け(レイティング)に基づく人事評価を行わない仕組みは「ノーレイティングス」と呼ばれ、評価制度の新たな潮流として注目を集めている。

戸松氏は、「従来の人事評価では、1年間にわたって目標を管理しますが、変化が目まぐるしい今、目標は1カ月、3カ月で変わってしまうのではないでしょうか。その場合、1年間かけて現実に即していない目標をベースに評価を行うことになってしまいます」と話す。

目標管理の問題に加え、評価したい人材を評価する方法がなかったという課題もあった。「従来の人事制度は、さまざまな面ですぐれた万能型のゼネラリストが高く評価されます。われわれは技術をウリにしている企業であるので、ゼネラリストに加えて、ある方面に秀でている"エッジな人"も評価したいと考えています。しかし、こうした人たちを評価する方法がわかりませんでした」(戸松氏)。

●人事制度は人事部が使いやすい仕組みではいけない

○リアルタイムでのミッション設定とフィードバックを導入

戸松氏は、松丘氏の著書を読んだことをきっかけにリアルタイム・パフォーマンス管理を導入することを決めた。具体的には、部下と上司がリアルタイムでミッションを共有し、その実現に向けて、1対1で話してフィードバックするという仕組みを現場に投入した。これまで行っていた「年度目標の設定」を「リアルタイムでのミッション設定」に、「中間レビュー」を「リアルタイムでのフィードバック」に変更したのだ。ただし、従来の「年次評価」と「期末フィードバック」は残した。

そうした中、オラクルの担当者と出会い、「Oracle HCM Cloud」の存在を知ったという。「Oracle HCM Cloud」は、人材採用、評価、報酬管理、健康管理、タレントマネジメントなど、人事のライフサイクルに必要な機能を提供している。

戸松氏は、「Oracle HCM Cloud」の利点として、「社員の可視化」と「リアルタイム・ミッション管理」を挙げる。

「Oracle HCM Cloudでは、タレントマネジメントにおいて、社員のパフォーマンスを管理して、状況を可視化することができます。また、部下はいつでもミッションを入力することが可能で、その内容は上司にメールですぐに送信されます」(戸松氏)

ただし、機能面で魅力は感じていたものの、「オラクルは価格が高いのではないか」と、不安を感じていたと話す戸松氏。実際に価格を聞いてみて、「この価格で、これだけの機能が使えるのなら安いと思いました」と語る。

○社員の自発性を促すため、人事は黒子に徹せよ

とはいえ、リアルタイムでミッション管理を行うとなると、部下にも上司にもこれまでにはない負荷がかかってくる。新川の社員は新制度の導入に反対しなかったのだろうか。

まず、約50人の課長層に対し、彼らがリアルタイム・ミッション管理について納得するなら導入すると話したところ、全員が「新制度がいい」と言ったそうだ。

続いて、部下層に対しても、20人ずつに分けてすべての社員に対して説明を行った。「上司、部下それぞれの人たちに納得してもらわないと、使ってもらえません。導入の効果を上げるには、納得して自発的に使ってもらうことが大切です」(戸松氏)

先にも述べたが、今回の取り組みにおいては「(社員の)自発性発揮」を重視している。戸松氏は、社員の自発性を高めるため、人事は「黒子に徹する」というスタンスを掲げている。

「従来の人事制度は、社員が主体ではなく、人事が管理しやすい仕組みだったと思います。社員の自発性を高めるには、社長と人事が一体となって、会社の方向性の認識を共有する必要があります。私は人事部の社員に対し、『人事が中途半端な状態を目指せ』と話しています。これは大変なことだと思います」と戸松氏は、新川が目指している人事のスタンスを話す。

こうした経過を経て、新川ではリアルタイム・ミッション管理を導入した。ちなみに、戸松氏自身も上司に当たる経営層とリアルタイムでミッション管理を行っており、「経営層に理解してもらうためにも、これが大切です」と戸松氏はいう。

なお、新たな仕組みとして、部長と社員が面談を行うことも始めている。課長は直接の部下とコミュニケ―ションを持つ機会が多いが、部長は課長の下にいる社員と話す機会は意外と少ないものだ。課長と部下のコミュニケーションを補完することに加え、部長からの「社員ともっと話したい」というニーズに応えるため、部長との面談が制度化されたそうだ。

○将来は「ノーレイティング」の仕組み導入を

現在、新川では「Oracle HCM Cloud」を来期から本格稼働するにあたり、さまざまな社員の基礎情報を登録しているところだ。実際に、「Oracle HCM Cloud」を使い出すことで、さまざまな使い方が見えてくることを見込んでおり、「社員それぞれが使いやすい形での運用を考えています」と戸松氏は話す。タレントマネジメントについては、社員の付加価値を高めるために必要なデータについて、人事部で計画しているそうだ。

今のところ「年次評価」「期末フィードバック」は制度として残しているが、将来的にはそれぞれ「ノーレイティング」「リアルタイム・フィードバック」に置き換えることを検討している。

世界ではリアルタイム・ミッション管理が当たり前になりつつあることも踏まえ、「Oracle HCM Cloud」については、「人事システムのスタンダードになってほしい」という。

「私は人事の経験が少ないからこそ、社員の肌感覚がわかっていると思います。社員の肌感覚が溶け込んだ人事制度を作りたい」と語る戸松氏。人材を管理する抜本的に仕組みを変えることで、人材はどのように変化していくのか。同社の取り組みが花開くことを期待したい。