熟年パパがいま考えるべきマネープランとは?(写真:Graphs / PIXTA)

40代で第一子を授かった熟年パパたちにとって、一番の不安は、「定年を迎える60歳のとき、子どもはまだ成人していない」という事実ではないだろうか。人生の先には、子どもの学費に住宅ローンの返済、親の介護、さらには夫婦2人で暮らすための老後資金まで、マネーのあらゆる問題が待ち受けている。
前回の関連記事「40代で育児を始めた人」を待ち受ける"危機"ではパラレルキャリアについて紹介したが、今回は東洋経済オンラインでも連載中のファイナンシャルプランナー、高山一惠さんに「熟年パパが、いま考えるべきマネープラン」について話を聞いた。

「西友より成城石井」という油断

幅広い世代に向けてマネーのアドバイスを手がける高山さん。最近増えているのは、妻が40代で高齢出産し、50代手前に突然パパになったという熟年男性からの相談だそうです。2〜3歳の幼い子どもを抱え、定年も意識しはじめた彼らは、将来に不安を感じてマネープランの見直しを始めるのです。

ここで注目したいのは、世帯収入1000万円以上の夫婦です。意外にも、彼らに共通する悩みは「老後資金への不安」。高山さんによれば、高収入の熟年パパ世帯は、年収500万〜600万円程度の若い夫婦よりもおカネが貯まらないのだそう。いったい、なぜなんでしょう?

「いわゆる“人生の3大費用”が、住宅資金、教育資金、老後資金です。若い時期に子育てが始まれば、現実的にやりくりし、コツコツ貯蓄をするものですが、熟年になって子どもができる場合、突然、養育費・教育費という“想定外の費用”が降ってくるわけです。夫婦2人のゆとりある生活に慣れ、貯蓄もまあまあできている彼らは、油断してこれまで同様のおカネの使い方を続けてしまう。これが熟年パパの“おカネを貯められない理由”ですね」(高山さん)

遅くできた子どもがかわいくてしょうがないために、洋服1つでもブランドものを買い与え、「才能を伸ばすために」と、いくつもの習い事を並行して英才教育に精を出します。そこそこ貯蓄があるゆえに「何とかなるだろう」と出費を重ね、ある日突然、「先のことを考えたら意外とキツい」と冷静になるのだそう。

「特に、世帯年収が1200万円くらいの夫婦は、日常の出費で少しずつぜいたくをしがちです。スーパーなら西友より成城石井、マクドナルドよりもスターバックス、ユニクロよりもユナイテッドアローズ等々。子どもにも『しまむらの服なんて着せたくない』と考え、ミキハウスの3万円の福袋を買うために熟年夫婦の行列ができたりする。高給取りがアダになり、払えてしまうから油断するわけです。これを積み重ねた結果、60歳近くになって『貯蓄が50万円しかない』と相談に来る方もいますね」(高山さん)


ファイナンシャルプランナーの高山一惠さん(撮影:博報堂ケトル)

また、この時期は、上司や先輩の給料がダウンしていくタイミングでもあります。

「昨今は、年金受給が始まる65歳まで雇用するために、50代の半ばになると、給料をダウンさせ、薄く引き延ばしていく傾向があります。そのため、50歳になる頃、上司や先輩たちの給料がゆるやかに下がっていく様子を目の当たりにして焦り出す、という方も少なくはありません」(高山さん)

給料は伸びず、子どもはまだ幼く、そのうえ、親の介護が始まれば妻の収入はあてにできなくなる。熟年パパたちにはそんな危機的状況が迫っているのです。

教育費は「家計のブラックホール」

現実問題として、子どもの教育資金を考えた場合、いつまでにどの程度の資金を貯めておくべきなのでしょうか。大きな山は、大学進学と私立中学の受験。高山さんに教えてもらったそれぞれの目安を紹介します。

(1)私立大学に進学させる場合
・子どもが18歳になるまでに400万〜500万円を用意。
※大学の4年間の授業料 
ほかに大学受験の費用もかかる
(2)中学校から私立に行かせる場合
・小学3年生までに進学塾に通う費用として350万〜400万円を用意。
※都内進学塾の年間費用目安は、3〜4年生で50万円、5〜6年生は100万円
・小学6年生までに中学3年間の学費として300万円強を用意。
※多くの家庭では、塾代や授業料を毎月の家計からやりくりしている。
私立中学に通った場合、授業料として毎月10万円程度支出することになる

若い頃から家計を引き締めてきた夫婦は、高校までは公立を選択するケースが多く、意識が高い場合でも名門公立を狙います。一方、油断して出費を重ねてきた熟年パパのスタンダードは、もちろん私立中学受験です。

「最も注意したいのは、中学受験の直前に『学費が捻出できない』となるケースです。その原因は、幼少期の習い事におカネをかけすぎたから。いま流行の3大英才教育は、水泳、英語、プログラミング。意識高い系の共働き夫婦をターゲットにした雑誌の影響で“ピアノ熱”も再燃し、年収が高い世帯は4〜5つの習い事をさせているようです」(高山さん)

習い事の選択肢はいくらでもあり、かつ、遅くなってできた子どもは目に入れても痛くないほどかわいい。高収入の熟年パパ家庭では、わが子が何をするにつけても、「この子には才能がある」となり、おカネも情熱も注ぎ込みがちなのです。これに対し、高山さんは、「教育費は家計のブラックホールととらえるべき」と話します。

「私にも子どもがいるので気持ちはわかります。けれど、親の目で見た“子どもの才能”は、実際には“普通のレベル”であることがほとんどです。現実を認識している若い夫婦は、習い事も1〜2つに絞っています。まずは長期的な教育プランを立て、家計から出せるおカネの中で考えること。教育費も予算を作れば青天井にはならず、ブラックホールのごとくおカネが吸い込まれていく事態を防げます」(高山さん)

また、共働きの場合には、稼ぎの共同戦線を張っていた妻が“思わぬ伏兵”になることも。私立中学受験にのめり込み、「子どもに寄り添いたい」と仕事を辞めてしまうケースが多いそうです。

「妻が働かないことで収入は減る一方、受験にかかる費用は湯水のように出ていく。そして、肝心要の大学受験の時期に『おカネがない』となるケースも。最近では、住宅ローンが残ったまま、教育ローンに手を出す家庭も増えています。さらに、留学、留年、大学院への進学などで、4年で解放してもらえないパターンも増え、老後資金はどんどん後回しに。子どもが巣立つ頃になって、『自分たちが暮らしていくためのおカネがない!』と気づいても遅いのです。こうした事態を避けるためにも、『妻には、何としてでも働き続けてもらう』が正解ですね」(高山さん)

まずは夫婦そろって「高給取り」の意識を捨て、身の丈に合う教育プランを考えることが肝要だと言えそうです。また、高山さんの実感としては、熟年パパたちはバブルを経験した最後の世代のためか、若い世代に比べて堅実性に欠けているところがあるそう。「自分は大丈夫」と思わず、バブル期とは時代が変わったことを認識したうえで、現実的なビジョンを持ちましょう。

金融庁厳選の「つみたてNISA」が登場

熟年パパがついつい後回しにしがちな老後資金。65歳からの年金暮らしには、「夫婦2人で3000万円は必要」とされていますが、これはあくまで現行の年金制度をもとに算出された数字なのです。高山さんは、「これからの時代は、4000〜5000万円は必要になる」と話します。

「2016年に年金カット法案がとおり、段階的に実施される見通しです。年金受給額は現行の7割程度に減らされることになり、受給年齢も68歳まで引き上げようという案が出ています。現在の安倍政権は、『1億総活躍社会をつくり上げる』ことを政策に掲げており、70歳まで働くことを前提に制度改革の舵取りをしていくでしょう」(高山さん)

少子高齢社会が進む中、医療費の負担や介護保険料は上がり、また、消費税も増税されることが予想されています。国民を守るセーフティネットに回す予算はどんどん削減され、いよいよ本格的な「自己責任」の時代へ。

「国としては、国民の生活をカバーできる余力がすでにないため、労働による収入はもちろん、投資なども活用して各自で稼いでほしいと考えています。そこで、2018年1月にスタートしたのが『つみたてNISA(ニーサ)』です。

つみたてNISAとは、積立投資専用の「NISA(少額投資非課税制度)」。年間40万円までの元本(投資金額)から得られる売却益や分配金を最大20年間非課税にするという税制優遇施策です。つみたてNISAにラインナップされている商品は、金融庁が厳選した投資信託やETF。60歳までを対象にする個人型確定拠出年金『iDeCo』と違って年齢制限がないのは、『定年後でも運用しておカネを増やすことを視野に入れる』ことを促しているとも言えます。

「そうは言っても、投資信託商品はリスクが多そうで怖い……」。熟年パパだけでなく、多くの人はそう考えるもの。しかし、現在、金融業界は改革の時期にあり、昨年、森信親金融庁長官は、「大手金融機関は手数料稼ぎを目的にしている」と辛辣に批判し、時の人として注目を集めました。

2018年2月現在、つみたてNISAの対象商品となっている141本(ETF3本を除く)の投資信託は、そんな金融庁が一般の人が資産形成をするにあたり、長期的に安定して資産形成ができると判断した厳選された商品です。

はたしてどの程度信頼してもいい話なのでしょうか。

「月5万円」で老後資金は貯められる

金融庁による分析・調査が行われた結果、日本で販売されている投資信託の売れ筋商品上位10本はほぼ、長期的に安定して資産形成するに値しない商品であることが判明しました。森長官自らが「つみたてNISAの対象になりうる投資信託は全体の1%程度しかない」と怒りの演説をぶち上げるまでの事態に。金融のプロである高山さんから見ても、これまでの金融業界のあり方を大きく揺るがす出来事だったそうです。

「森長官は消費者保護の観点と使命感が強くある方。金融庁は、今後本格的にメスを入れ、金融機関のあり方は変わっていくでしょう。とはいえ、これまでならありえなかったはずの大改革を推進しているのは、『個人で資産形成してもらわなければ、国家が潰れる』という危うさの裏返しではありますが。つみたてNISAの対象商品は金融庁が厳選し、過去に遡っても安定的に利益を伸ばしているものばかりなので、リスクは低いと言えるでしょう」(高山さん)

年間40万円が上限のため、最大でも月額3万円程度の小額投資。けれど、高山さんの計算によれば、夫3万円、妻2万円と合わせて5万円を積み立て、利回り5%の投資信託で運用することができれば、20年後には2000万円程度になるそうです。先にも書いたように、年金カット法案によって足りなくなる老後資金は1000万〜2000万円。まさに差額を埋めることができますし、教育資金に悩む熟年パパでも手を出しやすい金額と言えます。

「住宅・教育・老後の3大費用をそれぞれ別枠で考え、バランス良く貯めていくことが大事ですね。金融商品はどんどん変化しているため、このほかにも学資保険の予定利率が下がり、元本割れする事態が起きています。高齢化が進む背景の中、保険料を算出するための計算式も変わり、2018年の春以降は、死亡保障の生命保険は値下げ、医療保険は値上げ傾向の商品が登場する可能性が高いと言えます。金融業界の潮目が大きく変わる今、こうした情報をしっかり収集・活用できる人だけが得します。また、国民が損をするような国の施策が決定されるときも、大きく報道されない世の中なので、自己防衛のためにも情報に敏感になるべきですね」(高山さん)

手厚かったはずの国の制度が1つひとつ剥がされていく中、ボンヤリしていても保護してもらえる時代はもう終わったのです。熟年パパが今やるべきことは、マネーに計画性を持つことはもちろん、情報収集で時代の変化に対応していくことと言えそうです。

(編集協力:博報堂ケトル)