一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

先週は、自慢と嘘で塗り固められた外銀マン・ユウスケと出会ってしまった瑠璃子。さて、今週は…?




白金高輪の中華料理店『蓮香』で食事をしながら、瑠璃子は深いため息をついた。

「瑠璃子ったらさっきからこの世の終わりみたいな顔して…。元気出してよ」

同僚に慰めの言葉をかけられ、瑠璃子は精一杯の作り笑いをして返す。瑠璃子が落ち込んでいる原因は、他でもない恭子と周平の件である。

今日、あのふたりは結婚式を挙げたのだ。その幸せそうな様子を、式に参列している理奈のFacebookから見てしまい、瑠璃子はショックを受けていた。

「でも、瑠璃子、周平君と付き合う前は年収の高い男ばっかり狙ってたのにね。周平君にそこまでこだわるとは意外だったなあ」

確かに周平の年収は、ここ最近瑠璃子が出会っているようなハイスペ男には到底及ばない。

それでも周平の立ち振る舞いや雰囲気には、彼の育ちを感じさせるような品の良さが常に漂っていた。決して大金持ちではないが、きちんとした家庭でしっかりと躾けられて育ったことが伝わってくる。

瑠璃子は彼のそんなところも好きだったのだ。そのことを同僚に伝えると、彼女は何度も頷きながら言った。

「ああ、なんかわかるなあ。結局、人の価値観を形成するのって、育ちだよね。そう思うと、年収なんかよりも育ちが一番重要かもしれないね」

その数日後、瑠璃子は運命的な出会いをした。

そしてその相手はまさに、「育ちの良さ」が前面に出た男だったのである。


瑠璃子の運命の出会いとは…?


生まれも育ちも田園調布。建築家との出会い


ヒロキと出会ったのは、仕事で訪れたフラワーアーティストの来日パーティーだった。

「あの…失礼ですが、こちらのハンカチ、落とされました?」

突然声をかけられ、瑠璃子が振り向くと、そこにはテニスの松岡修造を若返らせたかのような爽やかな男が、ハンカチを差し出して立っていた。

「あっ、私の物です。ありがとうございます」

「ああ、良かった。…今日はお仕事でいらしてるんですか?」

修造似のスマイルで尋ねられ、瑠璃子もニコニコと答える。ヒロキは瑠璃子について様々な質問をしながら、自分自身についても語ってくれた。

ヒロキの父親は著名な建築家で、数々の有名人の邸宅や商業施設を手がけてきたそうだ。ヒロキ自身も父親の事務所で働いており、一級建築士の資格を保持する建築家。ゆくゆくは彼が事務所を継ぐことになるのだという。

ちなみに実家は、田園調布3丁目。都内某私立校の初等部から大学までをエスカレーター式で進学した。

瑠璃子はヒロキを見つめながら、先日同僚と話したばかりの「男は育ちの良さが大切だ」という話を咄嗟に思い出した。

彼の所作ひとつひとつに気品が溢れ、絵に描いたようなお坊っちゃまのオーラを放っている。ガツガツとした雰囲気は一切ないのに、瑠璃子の話すことひとつひとつに瞳をきらきらと輝かせて聞き入る姿勢にも新鮮さを感じた。

そして最後にヒロキと連絡先を交換し、近日中に食事に行く約束をしたのだった。



ヒロキに指定されて向かった先は、日本橋のスペイン料理店『サンパウ』だ。

-『サンパウ』、ずっと行ってみたかったのよね…!

瑠璃子は逸る気持ちを抑えて、店へと向かった。

「ヒロキさん、今日はありがとうございます!私、スペイン料理って大好きなんです」

瑠璃子の言葉に、ヒロキの顔がぱっと明るくなる。

「本当?それはよかった!実は僕も、数年前からスペイン料理ブームで、昨年の夏休みはバルセロナに行ってきたんだ」

「私もバルセロナ大好きです!ご飯が本当に美味しいですよね。そういえば旅行中は食べてばっかりだったなあ」

こうして二人はスペイン旅行話ですっかり盛り上がった。

「瑠璃子ちゃん、バルセロナのお店ってどこが美味しかった?僕は、マンダリンに入ってるMomentsとか、アバックが気に入ったよ!あとはね…」

-さすが…!高級レストランばっかりね…。

一方の瑠璃子は、バルセロナでは地元で人気のバル巡りをして過ごしたのだが、なんとなく言い出せる雰囲気ではなく、愛想笑いを浮かべて聞いていた。

「そうだ、瑠璃子ちゃん。フランス料理も好きかな?もしよかったら、明日『エクアトゥール』の予約が取れているんだけど一緒に行かない?友人と行く予定だったんだけど、急な出張が入ったとかでドタキャンされて困っていたんだ」

「えっ…私でいいんですか?喜んで!」

予約困難な『エクアトゥール』にこんなにあっさり行けるなんて、ツイている。しかも、ヒロキとは2日連続でデートをするということになるのだ。これは好感触である。


次第に感じ始める、ヒロキとの価値観のギャップとは。


「おいしいローカル店」の定義


こうして翌日、再びヒロキと食事をすることになった。

「瑠璃子ちゃんって、好き嫌い無いんだね!」

次々と運ばれてくる皿に目を輝かせる瑠璃子を見て、ヒロキは嬉しそうに言う。

「そうなんです、私特に食べられないものってなくって。エスニック系も大好きだし」

エスニック系?と興味深そうに尋ねるヒロキに、瑠璃子は上機嫌で話す。

「お気に入りのタイ料理屋さんがあって、すごく美味しいから今度行きませんか?」

「へえ…何ていうお店?」

瑠璃子がお店のURLを得意げに見せると、ヒロキは途端に顔をしかめた。

「ああ…僕こういう、ちょっと清潔感にかけるお店って無理なんだ。お腹痛くなっちゃうんだよね。ごめんね」

「…あ、そうですか…」

その店は、現地風の雑多な雰囲気を売りにしている。確かに小綺麗さには欠けるかもしれないが、決して不潔な訳ではないのに…。瑠璃子はしょんぼりして俯いた。

「それより再来週の金曜日空いてる?また予約困難なフランス料理店の席が取れたから一緒にどうかな?」

「ごめんなさい…その日は会社の同僚とソウル旅行にいく予定があるんです」

一瞬がっかりした顔を見せたものの、ヒロキは「ソウル」と聞いて顔を輝かせた。

「ソウルだったら、出張で何度か行ってるから、オススメのお店いくつかあるよ!あとで送るね」

瑠璃子は笑顔で返事する。

「おいしいローカルのお店行きたいので、オススメ教えてください!」




食事を終え、店を出たところでヒロキが瑠璃子の全身をしげしげと眺めながら首をかしげた。

「今日けっこう寒いのに、瑠璃子ちゃんのコート薄手だね。寒くない?大丈夫?」

瑠璃子は笑いながら答えた。

「大丈夫ですよ。実は中にインナーダウン着てるので、全然寒くないんです」

「へえ…インナーダウン?どこのお店のものなの?」

瑠璃子が某ファストファッションブランドの名前を口にした瞬間、ヒロキの顔が曇った。

「瑠璃子ちゃん…!ファストファッション着てること、そんなに堂々と言わないほうがいいと思うよ…!安いもの自慢みたいでみっともないし、瑠璃子ちゃんはハイブランドのPRなんだから、高級で上質なブランドで買い物しないと!」

突然真剣な説教口調で諭されて、瑠璃子は戸惑う。

-聞かれたから答えただけだし、何も全身ファストファッション着ているわけじゃないんだから…。

結局その日は晴れない気分のまま家に帰り、ヒロキにお礼のLINEを送った。

翌日、スタバで軽い休憩をとっていた瑠璃子の元に、ヒロキからLINEがやってきた。どうやらさっそくソウルのオススメの店情報を送ってくれたようだ。そこには10店舗以上の店情報のリンクが載せられている。

-わあ、こんなにたくさん!

しかし、ワクワクしながら店のURLを一つずつ開いて、瑠璃子は唖然とした。それらは全てが星付きの店舗で、イノベーティブ料理に宮廷料理、ほかは寿司やフランス料理などだった。

ローカルフードの店を巡るつもりでいた瑠璃子は、驚いてしまったのだ。

-おいしいローカルの店、って頼んだはずなのに…彼とはその定義が違うみたいね…。

もちろん一流店や高級料理は大好きだ。だけど時と場合によっては、気楽なカジュアル店にだって行きたいし、息を抜きたいときもある。

ヒロキに悪気はないからこそ、決して嫌味には感じない。しかし、育ちが良すぎるお坊っちゃまの価値観には、普通の女ではついていけないだけなのだ。瑠璃子はまたしても厳しい現実にうちのめされるのだった。

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いくつになってもパーティー三昧。永遠の夢追い男、現る。