日銀・黒田東彦総裁(ロイター/アフロ)

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 2月16日、政府は4月から始まる日本銀行の新執行部について、黒田東彦総裁の続投と、副総裁に若田部昌澄早稲田大学教授、雨宮正佳日銀理事をあてる人事案を国会に提出した。

 今回の日銀人事に関する報道を見ていると、首相官邸と財務省の間で大バトルが繰り広げられたように受け止められるが、実際はどうだったのだろうか。

 たとえば経済紙である日本経済新聞は「日銀人事を知っている」と言わなければいけない、辛い立場である。かつて財政研究会(財務省の記者クラブ)に所属していた知り合いの日経記者は、「日銀総裁人事と公定歩合の予想を外すと左遷させられるという都市伝説が社内にある」と言っていた。公定歩合はなくなったので、今では日銀総裁人事だけだ。

「日経新聞は日銀総裁人事を知っているはず」と読者に思わせる必要があるのだろう。でないと、日経新聞は情報収集力がないと思って読者が離れていくと、日経記者は思っているのだろうが、日銀人事についてはほとんど取材できていないように筆者には思われる。知っているふりをせざるを得ないから、複雑で過激な記事が出やすいと邪推している。なにより、日経新聞の主要読者層である会社員は人事が好きだという事情もあるだろう。

 しかし、人事の一般論として、本当のことを知っている当事者は絶対に言わない。マスコミと接触していることが社内の人にバレれば、信用を失ってしまう。つまり、人事をマスコミに話す人は、本当は人事を知らない人である。なので、記者の想像でいくらでも記事が書ける分野である。本当のことを知っている人は、記事の間違いを指摘できないからだ。

 もちろん、筆者も部外者なので日銀人事を知っているわけではないので、以下は筆者の見立てであり、信用するかどうかは読者の判断に委ねるほかない。

●日銀現執行部は及第点

 まず前提として、今年の大きな政治イベントは、秋に予定されている自民党総裁選しかない。昨年に衆議院総選挙が行われたばかりなので、まず今年は行われない。参議院選挙は来年7月だ。自民党総裁選は安倍首相の楽勝というムードであるが、政治の一寸先は闇である。対抗馬として石破茂氏、岸田文雄氏、野田聖子氏などの名前が挙がっているが、実は最も不気味なのが麻生太郎財務相である。

 となると、安倍首相の最善の戦略としては、麻生氏に立候補の口実を与えないことになる。日銀人事リストをつくるのは財務省の仕事なので、政治課題にしないためには、黒田日銀体制の3人(総裁、副総裁)の留任がベストシナリオとなる。その人事は、これまでの日銀のパフォーマンス(成果)からも正当化できる。

 金融政策の目標は、物価の安定と雇用の確保である。この2つの目標について、インフレ率と失業率に逆相関(フィリップス関係)があることを理解した上で、失業率を低く抑えつつ、その条件下において最低限のインフレ率を達成することがベストである。日本の場合、インフレを生じさせない失業率の下限(NAIRU)は2.5%程度であり、それに対応する最低のインフレ率は2%程度。日銀はこれをインフレ目標値としている。

 インフレ率について、黒田体制スタート時の2013年4月はマイナス0.7%だったが、17年12月にはプラス1.0%までなった。目標は2%、つまり本来であれば2.7%ポイント改善すべきところが1.7%にとどまった。これは60点である。

 失業率については13年4月は4.1%だったが、17年12月には2.8%まで改善した。目標は2.5%まで、1.6%ポイント改善すべきだったが、1.3%ポイントだったので、これは80点である。インフレ率と失業率を総合的にみて70点といえる。これは、100点満点ではないが及第点である。

 現在の総裁、副総裁の留任がベストだが、個別の事情で退任であれば、財務省出身、日銀出身、学者出身という安定した現体制の3枠を維持した上で、微修正することとなったのだろう。つまり、中曽宏副総裁の後任としては同じく日銀出身の雨宮氏、岩田氏の後任としてこれもリフレ派学者の若田部氏というわけだ。

 このシナリオからは、マスコミ報道によれば日銀が「あの人だけは困る」としていた本田悦朗氏は候補者として名前が挙がってこない。財務省が心配のあまり、本田氏を副総裁の候補者から外そうと思ってマスコミにリークした可能性があるのではないかと、筆者は邪推している。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)