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「笑顔なのに目が笑っていない」という人に、どんな印象をもつでしょうか。言動と表情が一致していない人は、不気味に見えます。一致させるにはどうすればいいのか。コミュニケーション術を研究し、企業や官公庁向けにコンサルティングを行う清水建二氏は、「本当の感情を土台にすることが重要です」といいます。清水氏が説く、「自己表現の3原則」とは――。

※本稿は、清水建二『ビジネスに効く 表情の作り方』(イースト・プレス)の第3章「『ノンバーバル・スキル』をビジネスの場へ!」の一部を再編集したものです。

■「自己表現の3原則」を繰り返して身につける

自分の思いや感情を効果的に伝える、つまり自己表現には「3原則」があります。それは、「本当の感情を土台にする」「言葉とノンバーバル・シグナルとを一致させる」「相手の感情の流れを読む」の3つです。

普段からこれらを意識し実践することで、さまざまなコミュニケーション場面において効果的に自己表現ができるようになります。逆に相手に自分の思いや感情が届いていないと感じたら、あるいはどのように伝えようか悩んだら、この3原則を思い返してください。どれかが欠けているはずです。原則に立ち戻ることで、さまざまなコミュニケーション場面に応用できる発想とスキルを身につけられるでしょう。

■原則1:本当の感情を土台にする

最初の原則は「本当の感情を土台にする」です。「感情を人にうまく伝えられない」「ここ最近伝えるのが下手になった」「ある特定の人・場面でそれが難しくなる」「誤解を与えてしまったかも」などと思うとき、「今の自分の本当の感情はなんなのだろうか?」「自分がこの人に本当に伝えたいことは何だろうか?」と振り返ってください。

通常、真の感情があればそれは自然に表に表れるのですが、自身のノンバーバル・スキル不足や相手の要因によって伝わらない場合があります。ここでは、心構えと感情を心に宿すための日々の行動指針を紹介したいと思います。

あなたの感情を相手に伝えたいと思うとき、そこに本当に感情はありますか? 空虚な心に表情や動作だけを加えてみても、そこにあるのは不気味な不自然さです。表情が動く人型ロボットがありますが、人間の外観に近づけば近づくほど、その表情が動くと不気味に見えてしまいます。感情がなければ、むやみにつくろうことは逆効果となり得ます。

ネガティブな感情をポジティブな表情や動作で隠してみても、そこにあるのは直感的に感じられる違和感です。怒りが漏れ出る「笑顔」や目が笑っていない「笑顔」は、潜在的に相手の意識にネガティブな印象を残します。

感情を持つには、さまざまな感情を実際に体感し、身体に「これが○○な感情なんだ!」としみ込ませる必要があります。そして本当に伝えたい感情が土台として整ったら、それを表現する準備ができます。準備といっても、実際のコミュニケーション場面では、一瞬にして感情が表情・動作として表れるので、意識的に準備するという感覚はないと思います。「あ〜、いま悲しいな〜」と思った瞬間に、悲しみの表情が顔に表れているでしょう。しかし問題なのは、本当に悲しいと思っても悲しみの表出があまりに微妙で相手に伝わらない、ということです。これも日々の心がけが大切となります。

悲しい・うれしい・怖い……さまざまな感情を抱くたびに、感情を味わうイメージで自分の身体に意識を向けてください。自分の身体がどんな動きをしているか確認してください。そしてそれを少し大げさに表現してみてください。そしてそれを再度自分で確認してみてください。次第に自分の感情をストレートに表現することに慣れてくるでしょう。さまざまな感情が刺激される映画を見たり、大切な人からの手紙を読み返したり、さまざまな思い出を呼び起こしてみたりしながら、体感を研ぎ澄ませてみてください。

また、なんの感情もないときでも、各感情を示す表情を作ってみたり、体の動きをやってみたりするのも、身体に感情を染み込ませる器を作る良い練習となります。形から入ることで感情の呼び水を作ることができるのです。

■原則2:言葉とノンバーバル・シグナルとを一致させる

次の原則は「言葉とノンバーバル・シグナルとを一致させる」です。言葉とノンバーバル・シグナルとが一致していると、話している言葉が表情・動作により強調され、思いや感情が相手に正確にかつ相手にとって心地よく伝わります。逆に一致していないと、思いや感情が相手に正確に伝わらないばかりか、困惑や嫌悪を感じさせてしまいます。それでは、言葉とノンバーバル・シグナルをどのように一致させればよいのでしょうか?

ポイントは、「感情語と非感情語を意識して自己表現する」というものです。感情を表す言葉を発するときにそれに合ったノンバーバル・シグナルを表現すれば、その言葉の真実味が増します。「うれしい!」と言いながら、カラスの足跡ができた笑顔が生じていれば、あなたの喜びは相手に印象的に伝わるでしょう。「申し訳ありません」と言いながら、悲しみの表情や恥・罪悪感の姿勢が生じていれば、あなたの悲しみ・恥・罪悪感は相手に深く届くでしょう。

より意識する必要があるのは、感情を直接表さない“非感情語”を発するときです。非感情語は、感情と対応した表情や動作があるわけではないため、自分自身で何を表現したいのか、何を相手に伝えたいのかを注意深く考え、自己表現する必要があるからです。しかし、非感情語を発するときに伝えたい思いや感情を身体で適切に表すことができれば、あなたがその言葉の意味をどう位置付けているのかを相手に印象付けることができ、コミュニケーションに躍動感をもたらすことができます。

「本製品のカラーは、ホワイト・グレー・ブルーがあります」と、商品説明をするシーンを想像してみてください。色は感情語ではありません。当然、色の説明をするときの適切な表情や動作が決まっているわけではありません。しかし、人さし指を立てながら「ホワイト」、引き続き中指を立てながら「グレー」、そして最後に薬指を立てながら「ブルー」と色の説明をすれば、色のバリエーションが特別なポイントだという印象を相手に伝えることができます。また「ブルー」というときだけ眉を引き上げれば、ブルーが特別な色、たとえば、最近加わったカラーバリエーションだということや、人気な色だということなどを伝える布石を作ることができます。

■表情で相手の心構えをつくらせる

非感情語の別の例として、「このような結果になるとは思っていませんでした」という言葉もオフィスでよく見聞きします。なんらかのプロジェクトの進行中に笑顔でこの言葉を発すれば、相手に「今から良い報告を聞く心の準備をしてください」ということを、逆に“恐怖表情”でこの言葉を発すれば、相手に「用心して報告を聞く心の準備をしてください」ということを伝えることができます。突然、相手の感情を刺激するのではなく、相手に感情を受け止める器を用意する間を作るのです。

感情語を使うときは、文字通りの意味を強化するためにその言葉に一致したノンバーバル・シグナルを表現できるようにしましょう。非感情語を使うときは、自分が意図した印象を伝えるためにその言葉を修飾できるようなノンバーバル・シグナルを表現できるようにしましょう。

■原則3:相手の感情の流れを読む

最後の原則は「相手の感情の流れを読む」です。自分の思いや感情を伝えるという行為は一見すると能動的な行為ですが、実は受動的行為でもあります。その理由は、伝えるという行為には必ず相手の存在が必要であり、相手が何をどのように欲しているかを知らずに伝えるという行為はできないからです。仮にそれが「できる」という人がいるならば、それは「伝える」の本当の意味、「伝わる」になっていません。

私たちはネガティブを嫌います。ネガティブな状態にいるとその状態を脱しようとします。一方、私たちはポジティブな状態を好みます。ポジティブな状態にいるとその状態を持続させようとします。あなたが相手に何かを伝えようとするとき、相手がネガティブな状態にいればそれを取り除く伝え方を工夫しなければ、相手はあなたからの情報やあなた自身をネガティブな対象として捉え、コミュニケーションを拒否したり、あなたから距離を置こうとしたりしてしまいます。逆に相手がポジティブな状態にいれば、その状態を持続させる伝え方を工夫する必要があります。

■最後まで話をきちんと聞いてもらうには

たとえば、私たちは相手の説明が理解不能なときネガティブな状態となります。あなたが巧みな伝えるスキルを使ってプレゼンテーションをしているとしましょう。説明の途中で相手の顔に熟考が浮かびました。同じ調子で説明を続けますか? もちろんダメです。最初はうまくいっていた伝え方でも、相手の状態が変われば、それに合わせて伝え方を変えていく必要があります。相手が熟考しているならば、あなたの説明を理解するのが難しい、疑問がある、といった状態が推測できます。丁寧に説明し直す、具体例を挙げて説明する、相手に疑問点がないか聞く、などの対処をすることで相手のネガティブな状態を取り除く必要があります。相手の熟考を無視して説明を続けたら、相手はあなたの話に聞く気をなくしてしまうでしょう。

ここでは、相手の感情の流れを読む「感情別の伝え方・アプローチ」を大まかに紹介したいと思います。図表1を見てください。

伝え方の核は、「ポジティブな感情の原因を増大させ、ネガティブな感情の原因を取り除く」です。自分がどんなに必要十分な情報を与えたと思っても、相手の顔に興味・関心・驚きが浮かべば、さらに追加して情報を与える必要があります。自分がどんなに素晴らしいアイディアを思いついたとしても、それを聞いている相手の顔に軽蔑が浮かべば、自分のアイディアに不足している点はあるか、謙虚になって聞く必要があります。優越感を抱いている人は優越感を満たしたいのです。

こうした要領で相手の感情の変化に応じて伝え方を変えることが、本当の「伝える」であり、「伝わる」なのです。

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清水建二(しみず・けんじ)
空気を読むを科学する研究所 代表取締役
1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。現在、官公庁や企業向けに研修・コンサルティングを行っている。著書に『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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(空気を読むを科学する研究所 代表取締役 清水 建二 写真=iStock.com)