気苦労の絶えない若手管理職に送ります(写真:apichon_tee / PIXTA)

『管理職1年目の教科書』(櫻田毅著、東洋経済新報社)の著者は、人材活性ビジネスコーチとして活動する人物。外資系企業でのビジネス経験を軸として、日本中の企業で研修を行っている。

対象は新入社員から経営者まで幅広いが、なかでも特に多いのは、課長やグループマネジャーなど若手管理職を対象とした研修機会だそうだ。それはすなわち、組織の成果を左右する実務の第一線でチームを率いる立場にある層に、会社が期待感を寄せていることを意味する。

そんな著者がまず振り返るのは、36歳のときの記憶だ。当時勤めていた日興証券(現SMBC日興証券)で、課長として初めて10人の部下を持ったときの緊張感を、いまでもはっきり記憶しているというのだ。

30歳のときに造船会社のエンジニアから転職して6年目のことです。畑違いの若造に何ができるのか、といった一部プロパー社員からの冷たい視線を感じながらも、何とか期待に応えようと懸命に試行錯誤した毎日でした。
幸いにも、上司、部下、同僚に支えられながら、その後も、いくつかの部門で管理職として歩み続け、米国の資産運用会社ラッセル・インベストメントの日本法人に移ってからは、資産運用コンサルティング部長、執行役COO(最高執行責任者)として米国人社長・CEO(最高経営責任者)とともに経営に携わります。(「はじめに」より)

「若手管理職のための仕事術」

こうしてキャリアを積み上げていく過程で、日本企業、外資系企業で成果を出し続けるトップクラスのビジネスパーソンたちと働き、一流の仕事力を幾度となく見せつけられたという。

つまり本書においては、実際に熾烈なビジネス環境のなかで紡ぎ出していった「若手管理職のための仕事術」がまとめられているのである。

ところで著者は、初めて管理職となった人たちが最初にしっかり認識しておくべきことが3つあると主張している。

まず1つ目は、管理職の役割は「チームの成果の最大化」であるということ。仕事の計画、会議の開催やチーム内のコミュニケーション、部下の育成など、すべての活動がそこに向けられていることが必要。その点を肝に命じておくことが、管理職としてのしっかりした判断基準を持つことにつながるという考え方だ。

2つ目は、チームの成果の最大化を「生産性の高いやり方」で実行すること。これまでの日本企業のように長時間労働を拠り所にするのではなく、「限られたヒト、モノ、カネ」で単位時間あたりのアウトプットを高めるようなマネジメントが望ましいということである。

とはいえ、業務の効率化による時間短縮だけでは限界がある。そこで求められるのは、仕事の進め方や取り組み方を磨き上げ、仕事の質を高めていくマネジメント。つまり管理職は、そこで真価が問われる。

3つ目は、自分自身と部下の「価値ある人材への成長」だ。言われたことだけをやっているようでは論外。生産性の高い仕事を実現するのは、あくまで主体的な判断で自ら行動する人、目的を見据えてムダなく仕事を進められる人、経験のない局面においても臨機応変に対応できる人。

だからこそ、自分自身と部下がそうした人材へと成長していくことこそが、生産性を高め、チームの成果を最大化していくということだ。

管理職に必要な仕事力を磨く

そして、これら3点を踏まえたうえで、それを実現していくために管理職として必要なのは、次の6つの分野における仕事力を磨いていくことだという。

1. 迅速な意思決定
2. ムダなく仕事を進める段取り
3. スピード感を生む時間活用
4. 成果につながる権限移譲
5. 高生産性人材の育成
6. 最強チームの構築
(「はじめに」より)

これらは特定の企業や組織のなかだけで役立つものではなく、国や企業を問わず、どこででも通用する普遍的な仕事力だと主張する。本書において、これらの分野の力を磨いていくための具体的なノウハウを「36のルール」として紹介しているのは、そんな理由があるからだ。

残念ながらそのすべてをここでご紹介することはできないので、「部下育成」に焦点を当てた第5章「高生産性人材を育成するルール」から、2つのポイントをピックアップしてみることにしよう。

最高の学習教材は実際の業務体験であり、なかでも重要なのは成功体験と失敗体験だと著者は言う。

成功体験から正しく学ぶための4ステップを知る

まずは成功体験について。部下の成功を「よくやった!」の一言で済ませてしまうことは珍しくないかもしれないが、それでは貴重な学習の機会を十分に生かしたことにはならない。なぜなら、成功体験から成功要因を抽出して再現性を高めることで、初めて学んだと言えるから。

以前、ラグビーのヤマハ発動機ジュビロの清宮克幸監督の話を聞く機会がありました。(中略)清宮監督は選手の成長を支援するための効果的な方法として、試合で行ったプレーを選手自身の言葉で説明してもらうことをあげています。
試合を撮影したビデオを観ながら、1つ1つのプレーに対して、パスの出し方やタックルの仕方、ステップの踏み方などの身体の動きと、なぜあのときパスを出したのか、味方の陣形をどう判断したのか、他の選択肢は考えたのかなどの、プレーの裏にある判断について選手自身に語らせるのです。
自分が行ったプレーを形作っているものを言葉として抽出することで、良かったプレーは再現できるように、良くなかったプレーは改善できるように、選手自身に整理してもらうことが狙いとのことです。良いプレーを「よくやった」で済ませてしまったのでは何も学んだことにならず、次の試合で再現することができないのです。(179〜180ページより)

著者が清宮監督の方法論を引き合いに出したのは、同じことが仕事にも言えるからだ。「成功体験から学ぶ」ことの意味は、振り返りを通して成功要因を抽出し、再現性を持たせるということ。そのために、清宮監督が行っているように自分の行動を言葉で表現させることがとても有効なのである。

さらに、そのことを踏まえたうえで紹介されているのは、「成功体験を振り返ることで再現性を高めるためのステップ」だ。

第1ステップ:経緯を書き出す
その仕事に取り掛かったときから結果が出たときまで、起きたことを時系列に書き出す。詳しい日時などは不要で、主要な出来事が起きた順番に並んでいればよい。
第2ステップ:成功要因を洗い出す
書き出した経緯を見ながら、成功要因だと思うことを書き出す。
[例]お客様からの質問に対して即座に調査して翌日に回答した
先輩のAさんから的確なアドバイスをもらった
第3ステップ:行動とヒモ付ける
成功要因を自分が起こした行動と関連づける。
[例]お客様のニーズが質よりも迅速性であることを直接確認した(という行動)
それほど親しくなかったAさんだが、思い切って相談に行った(という行動)
第4ステップ:言葉でまとめる
成功を再現させるために、自分にとって大切だと思う「行動」は何かを一般化する。
[例]顧客ニーズは直接確認すること
ピンチのときには、面識がなくても一番頼りになる人に思い切って相談すること
(181〜182ページより)

再現性を持たせるためには、第4ステップにおいて、自分の意思で実践できる「行動」をまとめることが必要。「Aさんのアドバイスが役に立った」だけでは、今後もAさんがアドバイスをしてくれるまで待たなければならないが、「思い切って相談する」という自分の行動であれば、結果はどうであれ次回も再現することが可能になるということである。

まずは自分自身の過去の成功体験について、こうしたステップを振り返ることにより、成功のための再現性のある行動を言葉にしてみる。そのうえで、部下に対しても一方的に教えるのではなく、仕事を振り返りながら本人に成功要因を行動レベルで言語化してもらい、再現力を強化する。これが、能動学習を支援するひとつの形だということだ。

本人任せの無責任な「失敗から学べ」をやめる

言うまでもないが、失敗体験も、成功体験に勝るとも劣らぬ貴重な体験。ちなみに失敗体験から学ぶためには、成功体験における学習のステップ同様、体験を振り返って改善に必要な行動を言葉にするステップ(失敗体験から正しく学ぶための4ステップ)が効果的なのだそうだ。

第1ステップ:経緯を書き出す
成功体験の振り返りと同じように、その仕事に取り掛かったときから結果が出たときまで、起きたことを時系列に書き出す。詳しい日時などは不要で、主要な出来事が起きた順番に並んでいればよい。
第2ステップ:失敗要因を洗い出す
書き出した経緯を見ながら、失敗要因だと思うことを箇条書きで書き出す。
[例]お客様からの質問への回答に三日もかけてしまった
本当に相手が望んでいることが何か、自信がないまま対応してしまった
第3ステップ:行動とヒモ付ける
失敗要因を自分が起こした行動と関連づける。もし、第2ステップであげた失敗要因に外部環境や他人の行動がある場合でも、その原因となった自分の行動がないかよく考える。責任をすべて自分以外に持っていくと改善のアクションに結びつかないため、「もし自分に1%でも原因があったとしたら?」という問いに答えてみる。
[例]お客様のニーズが質よりも迅速性であることを確認しなかった(という行動)
Aさんに相談したかったが、忙しそうだったからやめた(という行動)
ユーザーの関心の移り変わりに注意を払わなかった(という行動)
第4ステップ:「もう一度やるとしたら」を言葉でまとめる
同じことをもう一度やるとしたら、どうすればうまくいくと思うかを「行動」を表す言葉でまとめる。
[例]顧客ニーズを直接確認すること(特にスピードなのか完成度なのか)
不安があるときは必ず専門家に相談すること
ユーザーの関心の推移を把握するために、定期的な市場調査を行うこと
(185〜186ページより)

失敗から学ぶためには、最終的に「自分の改善行動」に結びつける必要がある。もし「誰も助けてくれなかった」という失敗要因があったとしても、相手が悪いと考えてしまったのでは改善行動は生まれないということだ。

ポイントは、「なぜ助けてくれなかったのか→自分のこれまでの行動のなにがそのような事態を生んだのか」というように、自分の行動と紐づけて考えること。

その結果、「深刻さを真剣に伝えていなかった」「これまで、自分も助けてあげなかった」「相手の事情に配慮せず、強引にお願いしてしまった」など、たとえ1%でも自分の行動に理由があることがわかったのであれば、そこから改善行動が生まれるわけである。


こうして考えていくと、成功体験の振り返りよりも、失敗体験の振り返りのほうが得るものは大きそうに思える。しかし問題は、成功体験の振り返りが気分のいいものであるのに対し、失敗体験の振り返りが、自分の至らなさに向き合う精神的にきつい作業になってしまうということだ。

そこで部下の振り返りを上司としてサポートする場合には、決して責任追及や能力の否定にならないように配慮し、あくまでも「成長の機会」としてとらえるように伝えることが重要だという。

また自分自身に対しても、厳しく振り返れば振り返るほど、自己否定感が湧いてしまうもの。そこで、そのようなときには、信頼できる人に話を聞いてもらいながら行ってみるなど、精神的な負担を軽減するとよいそうだ。

手間がかかると感じられるかもしれないが、裏を返せば、そこまでしても、経験を振り返って学ぶ価値は十分にあるということだ。

「能動学習」は応用力を発揮するための大切な財産

成功や失敗の体験を自分でも正しく振り返り、成功要因や改善要因を行動としての言葉にすることが「能動学習」。それは、人から一方的に言われたことと比較してみても、より深い気づきと学びを手にするため、応用力を発揮するための大切な財産になると著者は記している。

ここではほんの一部をご紹介したにすぎないが、このように具体的でわかりやすいところが本書の魅力。ビジネスパーソンやアスリートなどの事例も豊富に紹介されているので、それらを自身の体験と重ね合わせて考えてみることも可能だ。なにかと気苦労の多い若手管理職は、ここから多くの知見を得ることができるだろう。