ナノオプト・メディア主催のイベント「Blockchain for Enterprise 2018 ―名古屋―」が22日、JPタワー 名古屋ホール&カンファレンス(愛知県名古屋市)で開催され、「ミライを作るブロックチェーン産業の展望について」と題したパネルセッションが行われた。

未来はブロックチェーンでどう作られるか? 「文化財のための資金」「記事の信頼性」「格差の是正」?(この記事) NEM(ネム)を元にした「mijin」ブロックチェーンが作る今と未来

 VALU代表取締役の小川晃平氏、ソラミツ取締役会長の松田一敬氏、Keychain COO Co-Founderの三島一祥氏、ALIS代表取締役の安昌浩氏がパネリストとして登壇。モデレーターは、一般社団法人日本ブロックチェーン協会の樋田桂一事務局長が務めた。

トークン売買サービスのVALU、記事や人々の信頼性を向上するソーシャルメディアのALISなどが「未来」を議論

 パネルセッション冒頭には、各社の概要などを紹介。VALUの小川氏は、「個人がトークンを発行してそれを売買できるサービスを提供している。VALUでは、自分が達成したいプロジェクトのための資金の半分を調達し、残りはクラウドファンディングで調達するといったような使い方ができる。トークンの時価総額の変動を見れば、そのプロジェクトの価値も理解できる」と説明。

パネルセッションの様子

 ALISの安氏は、「信頼できる記事と人々を明らかにする新たな報酬システムを提供するソーシャルメディアを展開している。検索上位にヒットする記事がアフィリエイトである場合も多いのが実態であり、何が信頼できるのかを、みんなで評価する環境を、トークンエコノミーに着想を得て展開している」と紹介した。

 Keychainの三島氏は、「当社はテクノロジーカンパニーであり、データの整合性や完全性の達成を実現する企業。これまで金銭と契約についてはインターネットでは実現できなかったとされていたが、金銭は仮想通貨によって実現された。ただ、その金銭取引も、アメ横での現金取引のように相手の素性が分からず取引をされているのが実態。一方で、契約についてはあまり実現されていない。契約のためには認証が必要であり、そこに我々の技術が生かされる。ブロックチェーンを活用した世界最小となる8MBのIoT認証セキュリティソフトを開発し、それをRaspberry Pi Zeroで稼働させている。今後、これを流通させ、認証とセキュリティを気にせずに済む取引環境を実現していく」と述べた。

 ソラミツの松田氏は、「エンタープライズが活用できるブロックチェーン「Hyperledger Iroha」を開発しており、IBM、インテルに続く3番目のHyperledger Projectに採択されている。これを日本発となる世界標準のブロックチェーンにしたい。また、2018年春からは、アイデンティティとプライバシーを管理するプラットフォームの中心であるアプリケーション『YUNA』の提供を開始する」などと語った。

ソラミツ取締役会長の松田一敬氏

「ブロックチェーンで個人情報を管理」するとどうなるか?

 パネルセッション最初のテーマは、アイデンティティの管理と認証に関するものになった。

 VALUの小川氏は、「(口座開設時の本人確認である)KYC(Know Your Customer)は面倒であり、ペイメントアプリにKYCを入れた途端に崩壊することが多い。反面、ブロックチェーンを活用してアイデンティティを管理する上では、どこに、どのようにプライベートキーを置いておくのかということも大切であり、政府主導でそれを管理することのリスクもある」と切り出した。

VALU代表取締役の小川晃平氏

 これに対してソラミツの松田氏は、「新たに口座を開く際に、本人確認をブロックチェーン上で行い、それを使ってほかの口座も開設できるようにすることのメリットはある。だが、ブロックチェーンは、中央集権型ではないところが特徴でもある。一方で、例えばマイナンバーは政府が管理しているが、本来アイデンティティは本人に帰属するもの。(ブロックチェーンでは)使いたいサービスを提供するベンダーに、個人の判断での使いたい情報提供を可能にするといったように、個人情報の民主化を実現し、サービスベンダーの側でも、それをうまく活用できるようにすべきだ」と述べた。その一方で、「法的身分証を提供する国連支援プロジェクト『ID2020』では、非中央集権型のブロックチェーンテクノロジーを使用しているが、これを国という観点から見ると、難しい課題になるだろう」と指摘した。

 なお、日本ブロックチェーン協会の樋田氏は、「総務省が住所変更などについて、ブロックチェーンを活用して共通化するという取り組みを行っている。1つの住所変更だけで、すべての変更が完了するという仕組みはいいアイデアだ。ID2020は、国の境目が曖昧になる時代に、バイオメトリクスを利用した新たなアイデンティティ管理の一歩と言える」と補足した。

 ALISの安氏は、「本人認証が必要ない領域もある。非中央集権という特徴を生かすのであれば、ある程度の匿名性を認める必要がある。ビットコインの取引でも、すべてが誰かに見られているという監視状態に置かれる必要はない。商取引においては認証は必要となるが、個人取引では必要がないものが多い。大切なのは、ビットコインにどれだけの価値があり、それをどれだけ持っているかという点である」との見解を示した。

ALIS代表取締役の安昌浩氏

 Keychainの三島氏は、「人は、複数のレイヤーで、アイデンティティを使い分ける必要がある。例えば、ビットコインを使用するときに、どのアイデンティティ情報までを出すかを、個人それぞれが判断すべきである」と語った。

ブロックチェーンで「資本化されなかった価値にお金が流れる」「分散だった」インターネットは今どうなのか?

 2つめのテーマは、海外と日本のブロックチェーンの状況の違いについてだ。ここでは、トークンを活用した新たな価値創出にまで話題が及んだ。

 ソラミツの松田氏は、「トークンの動きは海外の方が活発であり、自分の遺伝子データを入れるとトークンをもらえるという動きすらある。性格判断や病気の治療などに、こうした情報が利用されている」と報告。

 これに対してKeychainの三島氏は、「私は、ブロックチェーンとコインに関する動きでは、国内外の差があまりないと考えている。日本のスタートアップ企業のほうがユニークなアイデアを持っており、多くの企業が活躍できる素地がある」とする。

 その一方で、「インターネットは元は分散技術であったが、今では(事実上)GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)による中央集権に移っている。ブロックチェーン技術も分散が前提だが、それに乗った途端に、どこかの中央集権システムに取り込まれてしまう可能性もある。大企業がそうした動きを知らずに乗ってしまうと、大きな損失を生む可能性すらある」と警笛を鳴らした。

 VALUの小川氏は、「2018年は、日本のゲームの動きに注目している。ソーシャルゲームでガチャを引いた途端に、そのキャラクターは他人には転売できないものになり、価値がなくなる。こうした仕組みは、現実世界とは乖離がある。だが、トークンを利用することで、こうした問題が解決できるようになる」などと指摘。

 ALISの安氏は、「Sola」と呼ぶ分散型ソーシャルプラットフォームを紹介し、「投稿した記事に、『いいね』が付くと、SOLというトークンがもらえるという仕組みになっており、いい情報を出した人が評価されて、メディアの新たな価値評価にもつながる。経済的なインセンティブも付いてくることになる。これによって、Googleのアルゴリズムに最適な記事を出す、といったねじれた構造を是正できる」と語った。

 日本ブロックチェーン協会の樋田氏は、「それがランキングのような形であっても、(サービスに)ゲーム性を持たせることは、提供する上では大切なことであるが、そこにトークンを絡ませるとさらに盛り上がることになるだろう。仮想通貨とコミュニティがつながることで、新たな価値が提供できる」とした。

一般社団法人日本ブロックチェーン協会の樋田桂一事務局長

 これを受けたソラミツの松田氏は、「価値創出の仕組みは、トークンエコノミーが登場したことで、180度変わったと言える。誰かが無理矢理作り出した人気ではなく、個人ベースの蓄積に価値が出て、それがトークンに変わって再流通し、さまざまなコミュニティとつながり、国境を超えることになる。例えば、京都の友禅は、20分の1にまで売り上げが減少し、職人も減っているが、これに対する『いいね』という言葉がトークンという価値に変わったら、お金が回るようになる」と提案。

 VALUの小川氏は、「トークンエコノミーによって、資本主義が変わると思っている。例えば人や記事などにおける、これまでに資本化されていない価値が、世の中にたくさん存在している。(トークンエコノミーによって)そこにお金が流れるようになれば、格差の是正にもつながるのではないか」と語った。

 さらにKeychainの三島氏は、「トークンエコノミーは、日本の競争力を向上させることにもつながる。円は国際通貨としては負けているが、日本から登場したトークンが、世界中で使ってもらうことも可能だろう。ゲームの世界での活用もその1つである。地域コインのような地方創生などにとどまるのではなく、最初からグローバルを視野に入れたトークンエコノミーを考えるべきだろう」との考えを述べた。

Keychain COO Co-Founderの三島一祥氏

「“いいね”の数を、文化財のための資金に」課題は「法律」、選択は「本質的な部分が重要」

 パネルセッションの最後には、会場からの質問も受け付られた。「世界遺産や文化財に、ICO(Initial Coin Offering)を活用できるのか」という問いには、ALISの安氏が、「実際にそうした相談を受けたことがある」と前置きした上で、「『いいね』をすると、そこにトークンが入り、それによって文化財の保守、運用ができるというものである。地方創生でトークンを活用した場合に、そのトークンを誰が欲しがるのかという経済的なところが欠けてしまうと弱くなる。トークンエコノミーとして回り始めることが大切である」と回答。

 VALUの小川氏は、「スマートコントラクトを活用して、価値が交換されたときに、その手数料の一部が文化財に落ちるような仕組みにすれば、継続的にお金が回るようになる。価値が乱高下しても一定の資金が確保できる。ただ、これを、どう法律的に落とし込むかが課題である」と述べた。

 次に、「トークンにはさまざまなものがあるが、良貨が悪貨を駆逐することになるのか」という質問に対しては、Keychainの三島氏が、「トークンは玉石混合であり、きれいか、きれいでないかというのは判断できない。トークンを選ぶ際には、そのトークンのことを勉強したり、興味を持てるものであるのかということを研究した方がいい。これは、どの文化が好きかということを選ぶのと同じである。ボラテリィの問題はなく、本質的なものを見るべきだ」とした。

 VALUの小川氏は、「メディアを見ても、元々は1対Nでだったものが、今ではN対Nになっている。(こうした状況の中で)個人の発言が株価を上下させる時代になっている。つまり、自らが情報をどう処理するかが大切である。トークンにおいてもそれは同じで、その企業が好きだとか、その人を応援したり、そのプロジェクトに関心があるといった本質的な部分を捉えるべきだ」とした。