イージーライドについて説明する、日産のアライアンス担当専務執行役員、オギ・レドジク氏(筆者撮影、以下同)


「どうやって儲けるのか?」

 2月23日、日産自動車とディー・エヌ・エー(DeNA)が完全自動運転による新しい交通サービス「Easy Ride (イージーライド)」の記者会見を行った。会見に集まったメディアの多くがこの疑問を抱いたに違いない。

 イージーライドは、日産が開発中の自動運転技術に、DeNAが得意とするデータマネージメント技術を融合させたもの。

 両社は2017年1月に技術の連携に関する協定を結んでいるが、両社共同による具体的なビジネスモデル案としてはイージーライドが初めての事案となる。

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約300組の一般モニターが実証実験に参加

 記者会見で両社は、3月5日から18日にかけて無人運転車両を使った実証実験を公道で行うと発表した。実証試験は、横浜みなとみらい地区を中心とした約4.5キロメートルのルートで4カ所の乗降位置を設けて行われる。

 実験には約300組の一般モニターが参加する。一般モニターは、2017年12月5日から公式ウェブサイトに応募した約1600人の中から、幅広い年齢層や性別などを考慮して最終的に日産とDeNAが選出した。

 筆者は、記者会見に先立って2月21日に日産が実施したイージーライドの事前試乗会に参加した。スタート地点は日産グローバル本社前。スマホの専用アプリで近隣の飲食店を指定すると、その飲食店に最も近い乗降位置とルートが表示される。次に、乗車希望時間を指定すると、その時間ちょうどにイージーライドが到着し、飲食店まで連れて行ってくれるという流れだ。

 車内では、運転席に車両開発担当者が乗車していた。運転はしないのだが、警察庁の自動運転ガイドラインに沿って、ステアリングをすぐに握れるような姿勢を保っていた。

日産グローバル本社前に到着したイージーライド


イージーライド用のリーフの運転席


乗車中、車載タブレットには近隣の観光案内や、飲食店の情報などが提示され、イージーライド専用スマホにクーポンをダウンロードすることができる


イージーライド事業のマネタイズは?

 両社はイージーライドの事業化の開始時期について、「2020年代早期の事業化を目指して、複数の都市で段階的に実証試験をレベルを上げていく」と発表した。

 イージーライドのマネタイズ(課金方法)はどうするのか。DeNAによると、運賃は「公共交通並みを想定」し、「クーポンを発行した飲食店が運賃の一部を負担するケースもあり得る」という。

 さらには、事業の全体構成として、DeNA自身がサービスプロバイダーになる、またはDeNAがシステム管理者となり第三者のサービスプロバイダーと契約するケースなども考えられるという。

 だが、そうした事業モデルがどれほどの事業規模になるのかについて、日産とDeNAの両社から詳細な回答はなかった。

日産は走りながら考えている?

 自動車のシェアリングサービスが普及すると、新車の販売台数が減る可能性は否定できない。記者会見の質疑応答で、ある記者から「(新車を売る)既存のビジネスへの影響はないのか?」との質問が寄せられた。その質問に対して、日産でコネクテッドカーとモビリティサービスを担当するアライアンス専務執行役員、オギ・レドジク氏は「影響はない。イージーライドの事業化が進めば、必要なクルマの走行距離は増えるため、メンテナンスなどの複合的な事業も確実に増える」と答えた。

 だが、そうした回答の裏付けになる具体的な数値は示されていない。あくまでも日産側の「希望的観測」とメディアに受け取られても致し方がないと思う。

 昨今、欧米、東南アジア、そして中国でのライドシェアリングの急激な普及によって、自動車産業界にも「所有から共有する」というシェアリングエコノミーの影響が一気に強まっている。イージーライドも、自動運転という技術領域が目立つが、その実態はシェアリングサービスである。つまり、日産にとっての直接的な顧客は、一般ユーザーではなく、DeNAのようなモビリティサービスプロバイダーとなるわけだ。これは、自動車産業の業態が「B to C」から「B to B」へと大きく変わることを意味する。

 そうした時代の大変革期において、日産のみならず世界各地の自動車メーカーは、既存のB2C事業とシェアリング事業を経営上どのようにバランスさせていくのかという点について具体的な説明を行っていない。

 今回のイージーライドにおいても、時代変革への「対応策の1つ」として紹介されただけで、「事の真相」について日産は触れようとしなかった。いや、「触れない」のではなく「触れられない」のだろう。なぜならば、自動車産業界を取り巻く時代変革の流れは、既存の自動車産業従事者の発想を超越するスピードで進んでおり、自動車メーカーはそうした時代変化を必死で追いかけている状況だからだ。

 23日の記者会見、そして21日の事前試乗の際に意見交換した日産関係者を見ていると、時代変化に対して「走りながら考えている」ように筆者には思えた。

ワールドポーターズ前の、イージーライド乗降場所


社会課題の解決をいかにビジネスにつなげるか

 イージーライドは、「社会課題の解決すると同時に、お客さまの新しいニーズも満たす」というコンセプトを掲げている。

 確かに、環境対策、交通事故対策、渋滞緩和策、少子高齢化への対応、公共交通機関での人手不足など、社会課題への解決を考えていくことは、民間企業である自動車メーカーにとっても必要不可避だと思う。

 だが、一般的には、社会課題の解決は「労力が多い割には儲からない」ことが多い。

 そうした社会課題の解決が、自動車メーカーの事業の根源である「新車の大量生産・大量販売という既存事業のさらなる拡大」と一体どうやって両立できるというのか? こうした視点で、世界各地でさらなる深堀り取材を続けていこうと思う。

筆者:桃田 健史