企業の成長鈍化や低迷の原因は、 組織の「機能不全」にある

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20〜30代の若手ビジネスパーソンは、これからどう生きればいいのか?トヨタの実践力とマッキンゼーの戦略プランニング力を身につけた企業改革専門コンサルタントの稲田将人氏は、最新刊『戦略参謀の仕事』(ダイヤモンド社)の中で、「今の会社で参謀役を目指せ」とアドバイスしています。本連載では、同書の中から一部を抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお伝えしていきます。

企業の成長は、「失敗」のインパクトを覆い隠す

 企業の売上高などの推移をグラフにしてみると、下図のように、ほとんどの場合S字形の曲線を描きます。

 一般的に事業は、ユニークなビジネスのアイデアを開花させようと初期のメンバーたちが、様々な試みを繰り返す「黎明期」から始まります。

 まずこの時期は、限られたお金と人手を貴重な資源として、成功するビジネスを具現化させるために様々な挑戦を行います。人件費も家賃も、日々出ていきますので、事業を成功させるために、いわゆるPDCAを精度高く、そして素早く廻しながら成功への道筋を模索します。

 そしてある時、市場の「つかまえ方」を見出して、事業が見事に開花すると、実をつけて樹も大きく育つ「成長期」を迎えます。成長期の初期段階は、規模の小さな社内は昂揚感にあふれ、前向きな試みを繰り返します。

 黎明期に「学習」した経験則は、小さな組織内では共有しやすく、それを踏まえたうえでの挑戦が行われるため、成功の確率は高まります。

 また「失敗」があったとしても、それが致命的なことにさえならなければ「失敗」から得られることに大きな価値があることも「暗黙知(言葉にしては語られないが、知識や智慧として、理解、浸透されているもの)」として皆が理解しています。何よりも成長自体が「失敗」のインパクトを、良くも悪くも覆い隠します。

 ダイエー創業者の故中内功氏も、それを「売上はすべてを癒やす」と表現しました。

事業が成長するほど、社長の業務や課題は膨れ上がる

 やがて事業が大きく成長し、それにつれて組織の規模も大きくなり、組織の分業化が進みます。経営学で言われる「組織論」とは、要するに企業の成長に伴い、あるいは市場や事業の競争状況の変化に応じて、いかに適切に社内業務を分業させるかについての方法論のことです。

 そしてその運営の考え方は、トップのマネジメントスタイルによっても変わります。

 一般的には、営業や商品開発、仕入れなどのいわゆるライン系の機能、そして経理や人事などの管理系の機能の専門化、分業を行い、より大きな事業が運営できるように進めていくのです。

「市場とのかい離」は、組織の「機能不全」により起きる一方、事業が成長すればするほど全社視点で考えて手を打つべきこと、つまり社長の業務や課題は膨れ上がります。

 社長は、事業が健全に発展を続けるために判断を行い、組織に必要な指示を出します。前述のごとく、世に出回っている経営理論のほとんどはディレクティブな米国式マネジメントを前提としています。我々がよく目にする組織図も、人の能力に依存する「人治」式の組織運営を前提として、各部門長の責任範囲を明示するための書式です。

 そして社長は事業運営の実態だけではなく、組織全体が健全に機能しているかを把握するための「神経系統」をつくる必要に迫られます。

 社長は実行した施策の結果を確認し、そこで得られた「学習」を踏まえて、さらに磨きをかけた次の一手を考え、事業を伸ばそうと手を打ち続けます。これは、社長自身が経営目線でのPDCAを廻し続けている状態です。

組織の「機能不全」が起きていることに、気付いていないトップは多い

 しかし、もし事業や市場の反応や機微が的確に把握できず、打ち手がうまくいったのかどうかの、その因果も見えなくなってくれば、事業における打ち手の精度はみるみる低下していきます。

 社長の仕事が、ある程度の精度を保ったうえで1日24時間の中に収まっているうちに、事業責任者目線のPDCAが、精度高く分業して自律的に廻っているように、組織の運営方法を進化させることが、本来は必須なのです。

 もしこれを怠ると、例えば、
・顧客は何に満足しているのか、どこに不満を感じているのか?
・新製品の投入などの施策がうまくいったのか、製品改善は適切に進んでいるのか?

などを的確に把握することができなくなり、部門ごとには努力をしていても、往々にして組織全体としては「機能不全」が起き、いわゆる「市場とのかい離」が始まります。

 この、組織の「機能不全」が起きていることに、トップが気が付いていないことも多いものです。現場の実態の変化について、トップよりも早く気付くことのできる位置にある「参謀」は、トップとその現実を共有し、手を打っていかねばなりません。

 この「機能不全」への対応の重要性に気が付かないまま、事業の舵取りを間違えて、結果的に失敗する経営者も少なくありません。

 事業の芽が最初に開花した時点で浮かれてしまい、地に足がつかなくなった社長。 「権限移譲」の美名の下に課題や業務、さらには方向付けや責任までも「丸投げ」してしまう2世トップもいました。

 客観的に見ると、せっかく目の前にある大きなチャンスを、成功の大輪の花にまで育てることのできなかった社長は、現実には山のようにいます。

 企業の低迷と没落は、経営レベルで現状を的確に把握する能力や、各機能の自律的な意思決定力の低下などに起因する「機能不全」による自滅がほぼすべてといってもいいでしょう。

稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科に留学。修士号取得後、マッキンゼーアンドカンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKIi HD)、ロック・フィールド、日本コカ・コーラ株式会社、三城、ワールド、卑弥呼などがある。ワールドでは、低迷していた大型ブランドを再活性化し、ふたたび成長軌道入れを実現した。
2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員などの役目で請け負っている。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。
著書に『戦略参謀』『経営参謀』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCAプロフェッショナル』(東洋経済新報社)等がある。

※次回へ続く