生理痛、生理不順、PMS(月経前症候群)の悩み、女性ならだれしも多かれ少なかれ経験されているでしょう。痛み止めを飲んで、なんとかしのいでいるけれど、「低用量ピル」を試してみたいという読者もいらっしゃると思います。

低用量ピルはなぜ生理痛に効く?

欧米と比べて普及率の低い日本では、低用量ピルの使い方は十分知られていないように思います。ちなみに国連人口部の2013年度の調査によると、ピルの服用率はフランス41%、ドイツ37%、イギリス28%。日本は1%だそうです。

低用量ピルとはOral Contraceptives、略してOC、別名「経口避妊薬」と呼ばれます。その名のとおり、もともと避妊薬として開発されたものなので、低用量ピル=避妊薬のイメージが強いのはやむを得ないところでしょう。

ピルの有効成分は、2つの女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の類似ホルモンです。女性ホルモンの分泌をコントロールしているのは脳ですが、ピルを服用することで、脳は「もう体に十分、エストロゲンとプロゲステロンが分泌されている」と勘違いします。すると自分のエストロゲンとプロゲステロンを分泌しなくなります。その結果、体内に妊娠を可能にする環境がつくられず、避妊できるというわけです。

具体的には、ピルによってエストロゲンが補給されることで排卵が止まります。受精卵の着床に備えて子宮内膜が分厚くなることもありません。これが生理痛の緩和につながります。

そもそも、生理痛は何が原因で生じるのか、ご存知ですか?大切なことなので、簡単にご説明しましょう。

月経前、妊娠に備えて分厚くなった子宮内膜の中には、痛みの原因になるプロスタグランジンという物質が含まれています。これは子宮の収縮を促す働きをするのですが、同時に痛みを引き起こす原因にもなってしまう物質です。ピルの服用で子宮内膜が厚くなることが抑制されるため、プロスタグランジンの作用も抑制され、結果として生理痛も軽くなるのです。

生理痛のたびに頭痛・生理痛用の鎮痛剤を服用して、何とかしのいでいる読者も多いと思います。これらの鎮痛剤はプロスタグランジンの分泌を抑えることで痛みを緩和します。このように説明すると、プロスタグランジンはただの厄介者のようですが、そんなことはなく、実は血流を促進する働きがあります。ですからプロスタグランジンの分泌を抑制することは、血流を悪くすることにもつながります。

血行が悪くなることは体にとっていいことはありません。生理痛に限らず、頭痛、肩こり、腰痛、もちろん冷え性も、血流がよくないことが要因です。鎮痛剤で今ここにある痛みを緩和することも大切ですが、その結果、血流を悪くしてしまっては、その後の症状の改善は期待できません。「お薬診断」では薬はなるべく使わないようにと繰り返し述べていますが、特に鎮痛剤について注意が必要だと思うのは、このような理由があるからです。

鎮痛剤も効かない生理痛には低用量ピルを選択肢に

日本では低用量ピルは市販されていません。婦人科(産婦人科)で受診し、処方してもらう必要があります。鎮痛剤を飲んでも改善しない生理痛は低容量ピルを処方どおり、規則正しく服用することで改善が期待できます。

ところで、ピル=避妊薬というイメージが強いせいか、若い女性が婦人科を受診することをためらう女性が少なくありません。そのため海外から個人輸入して服用する人がいるようですが、この薬はそのように安易に飲めるものではありません。低用量ピルには、エストロゲンとプロゲステロンの配合量が違う3種類があります。症状や個人差によって処方されるピルが違います。必ず、受診して処方されたものを飲んでください。

注意してほしいのは、低用量ピルは常用するものではないということです。欧米では常用している女性も多いのですが、副作用が少ないとはいえ、低容量ピルは薬です。自然のホルモンバランスを変える薬です。あくまで生理痛や月経異常という症状を緩和するための対症薬として、考えてほしいと思います。(避妊薬として服用する場合は、話は別です)。

また、低容量ピルによって生理痛が改善された後も大事です。生理痛や生理不順、PMSの治療には、自身のホルモンバランスを整えることが、もっとも大切なことだと思います。そのためには栄養バランスの取れた食事、ストレスをためないこと、十分な睡眠など、ふだんの生活の見直しが必要になってきます。仕事をしながらストレス解消というのは、言うほど簡単なことではないと思います。改善できるところから、ひとつずつ改善していきましょう。そしてガマンできない痛みは我慢せず、低用量ピルも選択肢に入れておくといいでしょう。

低用量ピルは市販されていません。婦人科へ行って処方してもらいましょう。



■賢人のまとめ
生理痛やPMSに鎮痛剤を飲みつづけるのは危険です。鎮痛剤も効かないような生理痛、PMSには低用量ピルを処方どおりに飲みつづけることで改善する可能性があります。症状が改善したらピルを飲みつづけるのではなく、自身の生活を見直してホルモンバランスを整えていくことが大切です。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。