写真=iStock.com/IJdema

写真拡大

就職先や転職先を探す際、最も気にかかるのが、その会社が「一生安泰か」「今後伸びそうか」だろう。2人の決算書分析の専門家に自分に適した企業の探し方を聞いた――。

■企業の「成長性」「収益性」「安定性」の見方

就職先・転職先選びの基本は、仕事のやりがいと報酬の高さ、加えて倒産リスクがない経営の安定性だろう。またやりがいとはビジネスが拡大路線であるかという成長性と関連が深く、報酬の高さは給与の源となる収益性と密接につながる。つまり「成長性」「収益性」「安定性」の3つを分析することが重要となる。

グロービス経営大学院の佐伯良隆教授は「この3つの指標を駆使し、過去10年、最低でも5年の長さで企業の決算書の各項目の変化をとらえることが重要」だと指摘する。

成長性は「今期の売上高÷前期の売上高」から求められる、「売上成長率」や「総資産」に対する売上高の割合「資産回転率」を見ることで分析できる。「売上成長率」は現在の日本の経済成長率(GDP)と比較するとその企業の国内でのポジションがわかる。例えば、ヤフーの場合、「今期85億円÷前期65億円」で前期比約31%の売上高の伸びがあった。これは国内平均の20倍の成長を遂げており、成長性が飛びぬけて高い企業だと分析できる。

■「労働生産性」が高い企業は従業員の報酬・給与も高い

また佐伯氏は「資産回転率」の考え方について「『資産回転率』を構成する売上高は、企業の『運動能力』、総資産は企業の『身体の大きさ』だとイメージするとわかりやすい。どれくらいの大きさの身体(企業の総資産)からこの運動能力(売上高)が発揮されているかという視点で見る」という。この視点でヤフーの業績を分析すると、ヤフーの売上高は総資産額の約半分、これは売り上げにつながる投資ができていないか、成長途上の投資先が多いと分析できる。

給与にかかわる収益性は営業利益と純利益に注目する。営業利益は事業活動にかかわるすべての費用を引いた儲けを表し、純利益は会社が1年間で得た最終的な利益のこと。売上高に占める利益の割合をそれぞれ営業利益率、純利益率と呼ぶが、その利益率の数値の動きの傾向を見ると収益性が高まっているのか、落ちているのかがわかる。

また、従業員1人当たりが生み出す成果が大きい会社は、従業員への報酬、給与も高い。それを示す指標が「労働生産性」だ。一般的に労働生産性は「付加価値÷従業員数」で算出するが、決算書から付加価値を特定することは難しい。そこで、佐伯教授は簡便な計算法として付加価値の代わりに「(営業利益+人件費)÷従業員数」を用いることで暫定的な給与(年収)額を推定できるという。これについては、日本の代表的な企業の算出結果をまとめたので参照してみてほしい。

■ヤフー、富士通……IT関連企業の業績を比較した

また、「有価証券報告書」の中の「従業員の状況」という項目には、平均給与や従業員の平均年齢などが記載されている。起業コンサルタント(R)の中野裕哲氏は「ここから5年間の給与の変化をチェックし、同業他社と比較してみる。海外従業員なども含む企業の場合、為替の変動を考える必要はあるが、同じぐらいの金額でも平均年齢が低い企業のほうが、より給与が高いということ」と指摘する。

最後に、会社の安定性を見るうえで最も理解しやすい指標が「自己資本比率」だ。「自己資本が多ければ、その分借り入れが少なくてすむので倒産リスクも低い。50%近くあればまず安心といえる」(佐伯氏)。

さらに詳しくチェックしたい人はキャッシュフロー(以下CF)計算書の数字に着目したい。CFで注目すべきは、本業の営業活動によって生み出した現金を表す「営業CF」。固定資産や株式の取得、売却を表す「投資CF」。最後に金融機関などからの借り入れ、返済を表す、「財務CF」の3つだ。3項目の正負の関係が企業の成長段階と関係が深いという。「成長性の高い新興企業の場合、投資が増えるため、投資CFはマイナスになりやすい。また投資により現金が不足しやすくなるため、借り入れが増え、財務CFはプラスになる」(佐伯氏)。

最後に、IT関連企業の決算数字を分析してみた。経営の安定を重視し、一生安泰が期待できそうな会社を選ぶのか、やりたい仕事ができそうな急成長の会社を選ぶのか。決算書を通じて、あなたに合った優良企業を探してみてほしい。

----------

佐伯良隆
グロービス経営大学院教授
ハーバード大学経営大学院修士課程修了。著書に『100分でわかる! 決算書「分析」超入門2017』(朝日新聞出版)などがある。
 

中野裕哲
起業コンサルタント(R)
V-Spiritsグループ代表。税理士・社労士。著書に『トコトンやさしい 決算書の読み方』(ナツメ社)などがある。
 

----------

(ジャーナリスト 溝上 憲文 撮影=石橋素幸 写真=iStock.com)